〜 漆黒の守護者 〜 第十三話
†GATE−13 閉ざされし扉
被い茂る森の木々は陽の光を遮り辺りの空気に気温以上の冷気を与えている。
その森も中に幾つかの大きな岩山があった。その中に一際大きな一枚岩山が大きく鈍重な扉となって聳えていた。
その一角に鬼神の姿をしたリーシャと眷属の竜がいた。
眷属の竜はリーシャに押さえ込まれ、首には四角い腕が巻かれ締め付けていた。
今のリーシャの姿は眷属の竜より五・六メール程大きく、その力は五百年程生きている成長過程の眷属の竜を遥かに勝っていた。
普段は妖精の様に身体を小さくしていても鬼神の姿のリーシャに適う訳がなかった。
「きみの攻撃には何処か迷いがある」
リーシャが何処からか音声を出した。
「……」
眷属の竜は答えない。
「言ったでしょ? 先を急いでいるて私の半身(兄妹)でもある人間の大切な人が、このギルドの奴らに囚われたの」
きみは「この森に入る者を入れるなと言われた」と言ってたね、なら何者かに命令されての事でしょ? 何か知ってるのなぁ?」
リーシャが問うた。
竜が暫らく考えていたのか、やがて口を開いた。
「お前、さっき「兄妹」の大切な者が囚われたと言ったな?」
「うん、言った。それがどうかした?」
リーシャが答える。
「俺の妹が、ここの人間どもに捕えられた。妹は、まだ幼生で力も弱く臆病だ。ある日、このギルドに雇われてる魔法の使い手に捕まりこの岩山の砦の何処かに幽閉された」
――眷属は希少だ。
「それできみは、その人間の言いなりになってる?」
「そうだ。この岩山の砦の扉は奴らの結界魔法が付与されていて俺の精霊魔法のデスペルだけでは開かない、俺の炎のブレスでもびくともしないし体当たりしてもな」
眷属の竜は苦々しい口調で言った。
「そうっか……だったら、ついでにきみの妹も一緒に探してあげる。一人助けるのに一匹増えるだけだからな然程違わらないよ。それより娘はここに居るの?」
リーシャがそう問うと眷属の竜が頷き喉を震わせた。
「一人の人間の娘をここに運んできた、その直後に命令が下りたのだから十中八九ここに居るだろう」
「その娘の特徴は」
リーシャは念を入れて聞いた。
人違いなら意味がない。
「人間にしては美しい金髪で長い髪の娘だった。それにオッドアイの瞳」
間違いないアイナだ。
リーシャはその事と自分の居る場所をシオンに伝えた。
森の外では、凄まじい戦いが繰り広げられていた。
レイグ達が戦い始めて暫らくすると何人かのローゼアールヴァルのガーディアンも加勢に来たいたが、それでも人数の上では十倍以上だった。
絶妙のコンビネーションでローゼアールヴァルのガーディアン達は対応する。
一人が魔法を詠唱に入ると一人が援護し陽動を仕掛け時間を稼ぐ。
一人が敵の懐に飛び込むと魔法の使い手が援護の魔法を放つ。
依頼で隊を組む事が、多いガーディアンの息はぴったりと合う。
互いの特徴を生かし近、中、遠距離戦闘を使い分けている。
傭兵達の戦歴は多いが所詮無法者の集まり戦時には王軍の指揮官の下で動くが、ギルド内でその指揮能力を発揮する者がいなければ統率が取れなく単騎の寄せ集めに過ぎなかった。
「マイクロウェーブショット」
セインが大剣を薄刃の片刃の刀身で難なく切り落とすと当て身で倒す。
アイスマンが氷の魔法を矢に乗せ放つと敵の周囲で炸裂し氷の礫となり敵の陣を乱した。
近付く敵は弓で薙ぎ払った。
「ごめん、ちょっと切れちゃったね」
アイスマンが薄い笑みを浮かべた。
アイスマンの弓には持ち手の上下に前向きに刃が付いている。
レイグは魔法と剣で敵を翻弄する。
「俺は貴殿を切れるかな?」
薄笑みを浮かべたコバカムが言い放った。
側にいたアイスマンは思った。「間違ってる……お前」突っ込むのも馬鹿らしいので何も言わなかった。
その中で自分の本来の力を出せずに苛立つ者がいた。
ミルだった。
「ああ! もう――面倒ねぇ!」
傍でミルの援護を受けながら戦うセインが言った。
「仕方ないしょ。マスターは身柄の拘束を優先と言ってたし極力殺すなとの指示が出てんだからさ」
「あんた達、よくストレス溜まらないのねぇ。こんな戦闘の仕方で」
ミルが詰まらなそうに言った。
「ミルがあんなもん達呼び出された日にゃ、皆あの世往きだからな……敵も見方も」
ここに来る前に、こなした依頼が脳裏に甦るとセインの背中に冷たいものが走る。
S級ランクの依頼になれば魔物等を相手に殲滅する。
ミルは自分が契約を交わした聖獣等を異界から呼び出し戦うサモンサーモナーだが、自分が倒した強力な魔獣をそのまま殺さず魔獣と契約を交わし自分の力として使う。
普通はそんな事しないというか、危険過ぎて誰もやらないのだが、ミルは難なくを行なってしまう。
「あんた達、これからが本命の登場よ」
戦場の地点より離れた場所で魔法の準備を整え控えていた敵のハイメイジが魔法の射程に入らんとしていた。
ガーディアン達の魔力と体力の消耗を待っていた。
ハイメイジ達が余裕を見せ呪文の詠唱に入る。
慌てる事はない。
消耗し切った近距離戦が得意なガーディアン達を間合いに入れても十分対応できる。
魔法も魔力の消費が大きいガーディアンにはなす術がない。
しかし、ガーディーアン達は皆臆する事無く向って行く。
ハイメイジ達の長い呪文の詠唱が終わると杖を振り下ろし魔法を解き放った。
「我は求む。時空の扉を開き来たれ、全てを喰らい尽くす者よ。 主の召喚に応えよ」
ミルの詠唱が、ほぼ同時に終わると空に黒い渦が現現しその中におぞましい異形の姿をした大きな口が現れ無数の口が、黒い渦から飛び出してミル以外の者に襲い掛かた。
「ソウル・イーター」
その口の化け物が、ハイメイジ達の放った魔法の魔力と術者達の魔力を喰らい奪い取って行く。
化け物は敵味方の区別なく魔力と体力を喰らい取る。
放たれた魔法が消滅するとミルは時空の扉を閉めた。
ハイメイジ達は魔力と体力を喰らい取られ一気に消耗していた。
そこに接近戦を得意とするガーディアン達が飛び込むが、こちらの体力も同時に喰らい尽くされた為、その場に膝を着いた。
「剣に宿りし炎の化身よ。その力、今、解き放て」
レイグが己の剣を解き放った。
炎の魔剣。
フレイムソードが猛り狂う不死鳥の炎と化し大剣を纏う。
猛り狂う炎を目の当たりにしたハイメイジ達は戦意を亡くした。
接近戦で専門家の剣士や拳士に適う筈がない。
「ほら、さっさと確保するわよ」
ミルが言った。周りの者も消耗し切っている。
「だから嫌だったんだ。ミルの魔法は! ソウル・イーターてなんだ。その悪どい魔法の名は」
セインが疲れ果てた声で言った。
「あらそう? ごめんなさいね。大分加減はしたのよ」
ミルが楽しげに妖艶な笑みを浮かべた。
「仲間の魔力まで奪うか? 普通……」
「ちょ……、躾は、まだ完璧に出来てないのよ」
ミルは小悪魔的な笑みを漏らした。
「おい! 今、調教て言いそうになったろ?」
「だったらどうなの? あなたにもしてあげるわ」
目を細めてセインを睨んだ。
「結構です」
セインが恐縮して言った。
「でも未完成にしては上出来ね。何人か魂喰われると思ったけど……無事みたいだしまあいいか」
ミルが笑った。
「「そんな魔法使うな!」」全員が声を揃え言った。
暫らくすると王軍の兵士達が現れ身柄の確保に入った。
「後はシオンね」
ミルが呟いた。
「いやぁ――」
冷たいギルドの一室アイナの悲鳴が響いた。
アイナの着衣に手が掛かった時、アイナは魔法を使った。
「風の精霊よ。我を纏い壁となれ」
アイナの周囲に空気の壁が出来上がる。
男は空気が膨張する様に膨らむと後ろに跳ね飛ばされた。
アイナに眠りの魔法を掛けた男が呟いた。
「道具を使わずに魔法を行使するとは精霊魔法か? 人間で使える者はそういない筈。しかし、素人か……、戦闘には慣れえてない様だ」
他の男達は楽しみが、消えた苛立ちにを見せていた。
一人の男がアイナの魔法をデスペルしようとすると男が言った。
「止めておけ、お前達ではその精霊魔法は解除無理だ」
「お前は出来るのかい? 出来るなら解除しろ」
「出来ない事もないが、魔力を使う事になる」
「ケチるなよ」
一人の男が詰まらなそうに鼻を鳴らして言った。
「そのまままっていれば、その内消える。眠りの魔法と違い。魔方陣無しで空気の壁を張り続ける事は地獄の苦しみ。魔力を放出し続ているという事だ。瞬間的に出すのと違いかなりの精神力を使う。そうは持つまい」
仕方なく待つ事にした様だった。
『シオン、助けて』アイナが心の中で呟いた。
男の言う通りそう長くは持たない。
盗賊紛いの傭兵達に汚されてたまるか、アイナは精神が途切れそうになりながら耐えた。
まだ大好きなシオンにも見せた事がない肢体をさらせない。
その思いだけで魔力を放出し続ける地獄の苦しみの中のアイナを支えていた。
シオンがタイターン・ノーズの砦の鈍重な扉の前に着くと、姿を戻しているリーシャが経緯を説明した。
扉は押しても引いたも開かない。
「くそ」
シオンが短く怒りの声を上げた。
魔法では幾重にも結界魔法を施された結界を解除出来ないのはリーシャから聞いて先刻承知している。
「シオン! ゴーレム」リーシャが言うと続けて言った。
「派手な進入方法は避けたいけど、シオンのゴーレムなら扉を壊せるかも」
「お前、鬼神の姿をとったんなら何で壊しておかなかったんだ」
「時間切れ」
「あそ」
待ち伏せ罠は承知の上だが、出来れば静かに入り不意をつきたい。しかし、時間がない。
「ああ、直ぐ呼んでくれ」
「はいー! 遺跡と魔方陣で空間を繋ぐね」
リーシャが魔方陣を描き出した。
「ちょい待ち! 俺の話を聞いてなかったのか? 俺の体当りやブレスでもびくともしないんだぞ」
眷属の竜が言った。
眷属を含め普通のブレスは火炎を放射するブレスだ。
「聞いてたよ」
リーシャが呟いた。
暫くして甲高い音が空に響いた。
「来たよシオン」
「武装は使えそうだったろうな」
「勿論、シオンの言われた様に確かめて装備を変えておいたよ」
「要塞攻略装備。完璧だリーシャ」
「あんがと♡」
シオンはAMRSに乗り込むと貫通弾をセレクトしバズーカのトリガーを引いた。
「いっけぇ――!」
重厚な岩の扉をいとも簡単に貫通し扉は轟音と共に崩れ落ちた。
「シオンやり過ぎー」
「なぁ――に、軽いノック代わりさ」
「アイナ」
直ぐ助けてやるシオンの怒りが満ちていく。
扉の向うには薄気味悪い空気が漂っていた。
To Be Continued
最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
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