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救国の少女を救うのがこいつらなわけ?

新登場人物


ジャン・バティスト・ルイ・グロ・・・フランスの外交官。男爵

ジョナサン・ホーキンズ・・・・米軍少尉。ヘリのパイロット。通称、ジョン

ピエール・バルモント・・・・・外交使節団通訳。みんなから赤毛と呼ばれる

ジル・ド・レ・・・・・・・・・フランスの貴族。本名、モンランシ

ジャンヌ・ダルク・・・・・・・神に使わされたフランス救国の少女

鉢合わせだった。


文字通り、乱戦になった。本物の斬りあい。戦い。殺し合い。こいつら全員狂っている。


逃げながら星奈は思っていた。




     【 京都 某所 】



それはいきなり始まった。新選組に連れていかれるわたしたちの目の前に、侍の集団があらわれたのだ。先頭の若い新選組の隊士が叫んだ。


「貴様ら、道を塞ぐとは、どういう了見だ。われら新選組と知ってのことか」

「おまんさらの連れに、用がごあんど。おとなしく、置い行かれるのがよか」

「そんなこと、できるわきゃあねえだろ。お前ら薩摩藩の者だな。欲しきゃ、実力でとってみな」

「しからば力づくでお相手しもっそ」


双方の刀が抜かれた。ヤバイじゃん。これ、もう戦争よ。いくさよ。やめましょう。平和日本。お願い、ヤメテ。


斬りあいが始まった。一瞬にして血の匂いがあたりに漂った。怒号と叫びが飛び交う。修羅場、いいえ、地獄。戦場では武器の優劣がものを言う。新選組は武闘集団だ。あらゆる場面での戦闘に準備しているらしい。


薩摩の侍は人数こそ多いが、みな刀での戦いだ。それに比べ、新選組は槍や弓などで臨機応変に戦っているのだ。もっとも、密集戦闘では弓は使えない。弓というものは射線がわかれば容易にかわせるのだ。至近距離でさえも小太刀で払い落とせる。格闘戦に入ったら弓は捨てられるのだ。


新選組は20人ほど、薩摩の侍は40人もいたが、力はほぼ互角か、新選組の方が有利だと思った。

土方をはじめ剣の使い手ばかりなのだ。とくに沖田総司は天才と言われるほど剣技が飛びぬけていた。剣速もさることながら、剣筋の変幻さも独自の工夫を重ねてきたのだろう。


双方、けが人は出ているが死ぬほどの者は出ていないようだ。土方も沖田も本気を出していないようなのだ。相手の戦闘力を奪うことに集中している、と義経が教えてくれた。星奈は怖くて見てもいられなかったのだが。


そこへ薩摩の応援とみられる数人が駆けつけてきた。見たことのあるものを持っていた。ライフル銃だ。


おもむろにそれを操作すると、それは一列に並び、斬りあっていた薩摩の侍が引いた。


「みな伏せろっ」


土方が叫ぶが、同時にそれも発砲され、立っていた新選組の隊士が被弾した。さっき先頭にいた若い隊士にも当たった。血が、霧のように舞っていたのを星奈は見てしまった。よくわからないが、弾は頭部を突き抜けたようだ。倒れたからだが痙攣している。さっきまであんなに元気だったのに。


星奈の中に怒りがわいてきた。理不尽なこの時代のすべての横暴さ、にではなく、たったいま訪れているこの若者の死。それに追いやったあいつらに、だ。星奈たちを無理やり連れて行こうとする新選組から助けようと来てくれた薩摩の侍。感謝しなければならないのに、なぜか薩摩の侍が憎かった。


そう思ったら手が出ていた。


弓が手にあった。自然の流れのなかで矢を引き絞り、放つ。自分でも美しいと思った。義経に教えられたとおりにできて嬉しかった。


「ぎゃっ」


ライフル銃を持った侍の肩を射抜いた。あわてて次弾を装填する侍に向け、次々と矢を放った。


「遅い」


自分でもビックリするくらい冷静で冷たい声が出た。


最後の侍には右肩と左肩を射抜いた。若い隊士を撃ったやつだ。憎いが、殺しはしない。弓が穢れると思ったからだ。


「行くぞ」


土方が叫んでいた。若い隊士は担がれていく。星奈はどうしようか迷った。


「ほら、走れ」


義経が手を引いた。新選組と逃げ出そうとしている。静も一緒だ。


「おりょうさんは龍馬さんに伝えて。ぼくらのことは気にしないでと」


義経はそう、おりょうに叫んだ。


夕暮れの京の町を走る血だらけの男たち。その後ろからついていく星奈と義経、静。星奈たちを守るように沖田が一番後ろを走る。


二手に分かれるみたいだ。傷を負った者たちは別の方向に行くらしい。


「負傷したものは会津藩の屋敷に逃げ込ませた。お前たちはどうする。逃げてもかまわんぞ」


土方が義経たちにそう言った。


「そう言うからには一緒に行ってもいいわけだ」

「面白いやつだな。あいつらの仲間じゃないのか。さっきのこともそうだが」


「どうする、星奈?」

「うーん。この人たちとは一緒に行きたくないし、かと言って帰るところもないのよねえ」

「あんたが余計なことするから」

「何言ってんの静さん。あれじゃみんな撃たれちゃうわよ。さっきの人みたいに死んじゃうのよ」


微妙な空気だった。それを救ったのは沖田だった。


「さっきは凄かったね。あんな弓、見たことないよ。誰に教わったの?」


黙って義経を指さした。


「まあまあ、かな?もう少し右ひじを上げればもっと良くなるよ」


母さんにいつも言われていることだ。義経にも言われていた。そう思うと、また悲しくなった。


「また泣いちゃった」


沖田が困ったように言う。


「グロ男爵が近くだな。そこへ行こう」


土方がおかしな名前を口にした。グロ男爵?いかにもスプラッターな名前なんですけど。大丈夫なんですか、その人。


「大丈夫ですよ。変な人じゃないですから。フランスの外交特使なんですよ」


沖田は星奈の心を読んだように言ってきた。なんなのこいつ?


少し走ると大きな塀に囲まれた屋敷があった。門の横の木戸を土方が叩くと、中から外人の水兵のような人間が出て来た。日本語が少しわかるようで、すぐになかに入れてくれた。土方は隊士を二人、本隊に報せに向かわせる。中に入ったのは星奈たち3人と、土方と沖田である。


屋敷に滑り込むのと同時に外で物音がした。どうやら追手が来ていたらしい。数人の水兵がライフルを持って門の方に走っていく。白いセーラー服っぽくてなんか強そうに見えない。とくに胸当ての青い縞が可愛い。


そうこうしていると屋敷に上げられた。驚いたことに屋敷中の床には敷物がしてあり、みな土足で上がる。星奈とか義経が靴を脱ごうとすると沖田に笑って制された。


「ここはわれわれの国じゃありませんから。もうここはフランスなんですよ」


沖田がわかるかなー、という顔をして星奈に説明する。


応接間らしい部屋に通されると、みな座った。星奈は疲れていた。色々なことがありすぎた。


お茶が出されて、しばらくすると赤毛の白人青年とともにでっぷりと太った大柄な白人が入ってきた。


赤毛の青年が、土方や沖田に挨拶した。土方がこれまでの経緯を話している。

ふんふんと聞いていたグロ男爵はフランス語でその通訳の赤毛に何か伝える。


「閣下はお困りの皆様のお力になりたいと申されています。何なりとお申し付けください」


「感謝いたします。あと数刻でわが隊の者が参りましょう。それまでしばらく滞在させていただければ幸いです」

「ウイ。ムッシュ、ヒジカタ。オマカセヲ」


土方の言葉に直接グロ男爵は答えた。それから星奈や静、義経を不思議そうに見た。そりゃそうだろう。服装がむしろフランス人に近い。(いぶか)しがっている。


すっと、源義経は立つと。グロ男爵ではなく、赤毛の方に向いて驚くべきことを言った。


「C'est un honneur de vous rencontrer, Baron Gros」


なに?何言ってんの?星奈は義経を驚きの表情で見つめる。挨拶しただけだよ、と小声で教えてくれる。


「Qui es-tu ?」


赤毛が不思議そうになんか言った。


「Je ne suis qu'un étudiant. Gloire à l'empereur Napoléon III」


グロ男爵が目を丸くしている。いや、ここの全員が驚いている。なんなのこいつ、だ。


「いやあ、皇帝陛下まで持ち出されるとは、あんたホントに何もんなんだ。どこでフランス語を?」


赤毛が呆れたように言った。フランス訛りの日本語だ。当時、ここまでしゃべれる外国人は少なかったろう。


「インターネットで」

「なんですか、それ?」


お互い当時の最先端同士だが話はかみ合わない。わろた。


水兵と違う格好の、派手な軍服らしきものを着ている大柄の白人が入ってきた。どうやら薩摩藩のやつらが押し寄せて来たらしい。義経がいちいち教えてくれる。薩摩の侍は全員武装しているという。驚いたことに大砲まで曳きだしているらしい。どんだけだ。星奈たちにそんな価値があるとは思えない。土方や沖田に恨みはあるだろうが、外交官の屋敷まで攻撃するほどのものでもないだろう。そうなればフランスと薩摩藩の戦争になる。たしか薩摩藩はイギリスともそうやって戦争してなかったか?


「Qui vient ?」


グロ男爵が難しい顔をしている。誰か来たらしい。


「イギリスの外交官と日本人が来たらしい。グロ男爵が困ってるよ」


楽しそうに義経は言っている。どういう神経してるんだか。こいつ絶対楽しんでる。人が死んでるのに。星奈はどうしてもさっきの若い隊士のことが頭から離れなかった。


「みな武士です。覚悟しています。彼は勇気ある新選組の隊士でした」


沖田は星奈の心を読むようにそう言った。さっきからなんなのこいつ?


「とにかく、行こう」


土方がそう言って部屋を出る。あとに皆が続く。


玄関先に白人の男と、坂本龍馬がいた。


「ちゃちゃちゃ。もう、おとなしゅうしとってくれと言うちょるのに、ほんにまったく」

「さ、坂本さん、あの」

「話はあとじゃ。薩摩の連中、いきり立っておる。原因はあんたじゃ」

「あ、あたし?」


星奈は驚いた。なんで?マジか?


「そうだよね。ライフル銃持った薩摩の侍、みんな倒しちゃったんだから」


沖田が愉快そうに言った。義経も笑ってる。なんかこの二人似ている?今気がついた。ムカつく性格が、そっくり。


「なんちゅうーことしてくれたんぜよ。どおりで家老の五代が目の色変えてたわけじゃ」

「すいません。目の前で人が撃たれたのでかっとなって」

「こりゃ参ったぜよ。どっちにも渡せんなあ。そちらさんにも薩摩にも。困ったなあ」


龍馬が困っているあいだにも、薩摩の侍は門から押し破ろうとしている。星奈は自分のやったことの重大さに改めて気がつかされた。


「ほんじゃ、ここからみんなでドロン、するわけにはいかんかのう」


龍馬のその言葉に何か嫌な予感した。空から異様な音がしてくる。聞いたことのある音だ。


暗い空に何か浮かんでいる?あれって?


ヘリコプターだ。


江戸時代の空にヘリコプターが飛んでいるのだ。もうわけわかんない。強引にそれは屋敷の中に着陸してきた。なかから田島紘一がこっちに来いと合図してくる。


「乗ろう」


義経が声をかけてきた。皆一斉に走る。


「全員乗ったか?よし、上がってくれ」


田島の声に、操縦している男が合図してヘリが上昇していく。ライフルで撃たれているようだが、ビクともしないだろう。このヘリ、見たことがある。米軍のヘリだ。前にテレビでやっていた映画の中で出て来た。ランボーが乗ってたやつだ。


「田島さん、なんなのこれ?どうなってんの」


星奈はもう聞かずにはいられなかった。


「去年、種子島に不時着した米軍のヘリとパイロットです。ジョンと言います。勝先生がずっとかくまっていて」


パイロットが振り向いて親指を立てた。ヘルメットを被り、やんちゃそうな顔で笑ってる。


「ジョナサン・ホーキンズ少尉っていうんだ。ジョンでいいよ。今日は最高にハッピーだ」


「何言ってるのこの人?」

「まあ、ほら、アメリカ人だから」

「ヤンキーってこと?」

「まあ、ある意味」


他の人たちは会話について来れないらしい、って、なに土方さんと沖田さんまで乗ってるのよ?


「何してんのアンタたち?」


星奈は呆れながら聞いた。


「乗れって言ったのはお前たちだろうが」

「そうですよ。でもなんなんですか、これ。やけに殺伐としたものですね」


総司は感がいい。これが何に使われていたのか迄はわからないが、多くの血を吸い込んでいるのはわかるようだ。


「戦争に使う空飛ぶ船よ。あたしたちの時代じゃ、当たり前にそこらじゅう飛んでるわ」

「あたしたちの時代って何だ?」


土方が不思議そうに聞いてきた。


「そりゃ、未来じゃろ」

「げ、龍馬さんまで乗ってんの?」

「こいつ、坂本龍馬、か?」

「どうもー」

「としさん、討幕派の首魁ですよ」

「総司、どうしよう?」

「知りませんよ。で、未来って何ですか?」

「こいつらがいた、未来のこのにっぽんじゃ」

「はあ?」


狭いヘリのなかでさまざまな思考が飛び交っていた。


「ところでどこにいくんですか?」

「あんただれじゃ?」


赤毛の通訳?何で乗ってる?


「何してるんですか?なんで乗ってるんですか」

「すいません。あ、わたしはピエール・バルモントと申します。使節団の通訳をしています。なんか面白そうだったんで、つい」


「ヘイヘーイ、話は終わったかい?」


ジョンが振り向いてみんなに向かい大声を張り上げる。ヘリの音がうるさいのだ。さっきからみんなも大声だ。


「このまま月までドライブしたいんだが、あいにく燃料がもうない。それに前方に恐らく大きな低気圧だ。黒い雲が広がっている。どこかに降りたいが、まわりは山と森林ばかりだ。ベトナムとかわらねえな。ハッハッハ」


黒い雲?やな予感、がしたところで真っ黒な雲に突っ込んだようだ。計器類のランプしか見えない。


「オーマイゴッド。またかよ」


ジョンが叫んだ。また?なにそれ。


どーーーーーーん


音がしたと同時に気を失った。


気がついたら森に横たわっていた。ヘリがあった。みんながゴロゴロと転がっている。ああ、今度はみんな一緒なんだ。妙な安心感があった。そしてまた気を失った。






    【 フランス ブルターニュ ナントの郊外の森 】




次に目を覚ましたのは明け方近くのようだった。ヘリはほとんど壊れているようで、よく助かったなと身震いがした。枕とレスキューシートがかけられている。田島さんかジョンだろう。この銀紙のようなのヤツの使い方など知っているのは彼らだけだ。


言い争う声がした。きっと土方さんと沖田さんが坂本龍馬とやりあってるんだ。そうよね。新選組なんだからね。龍馬は敵なんだから。


声のする方に恐る恐る行ってみると、西洋の甲冑を着た背の高い男になにやら食って掛かっている日本人男性たちがいた。はい?


「わかんねえやつだな。ここはどこだか教えろって言ってんだよ、さっきから」

「ダメですね、土方さん。ここはなんかおかしいですよ。われわれのところと匂いが違います」

「それって外国に着いちまったってことか?」

「そうかも、です」

「そんな馬鹿な。いくら空飛んでたって、そんなに早く外国へなんか行けねえだろ」


「あーちょっといいですか?」

「何だ、赤毛。まだいたのか?」

「ちょっとそれはひどい。もしかすると、ここは中世のフランスかも知れません」

「それっておめえの故郷だろ」

「こんなに時代がかってませんよ。われわれの時代よりむかしです、ここは」


ピエール・バルモントは、困ったようにたたずんでいる甲冑の人たちに向かってなにやら話した。


しばらく話すと、再びこっちに戻ってきてみんなに説明を始めた。


「いいですか、気を落ち着けて聞いてください。途中で興奮して刀なんか抜いちゃ駄目ですよ」

「いいからはよ言え」


だれからともなく言葉が出た。みんなが星奈を見た。どうやら一番声が大きかったらしい。


「いいですか。わたしたちはいま、ブルターニュというところにいます。フランスです」


おー、という、みんな理解してんだかしてないんだかの声だ。


「それでですね、えっと、こちらにいらっしゃるのがここらの領主で、ジル・ド・レという貴族です」

「その人知ってるの」

「フランス人ならだれでも知ってます。千四百年ごろの人です。本名はジル・ド・モンランシ。ちょっと訳ありの人です」

「それって?」

「そうです。わたしたちはフランスの過去に来てしまっているのです」


やっちまったー。またタイムスリップしたんだ。よりによって外国かよ。もうどうしろっていうんだ。おうちに返して。


星奈は泣きたくなった。


「そんで、そのジルなんちゃらは何と言うとっぜよ?」


龍馬がピエールに聞いた。


「これからいくさに行くそうです。オルレアンというところです」


「どうするぜよ?」


龍馬は皆に聞いた。


「そこに行くしかないような気がします。なぜかぼくらは、いつもどこかに引っ張られているような気がして」


義経が言う。


「そうじゃな。仕方なしか」


龍馬がうなずく。


「名案はない、な」

「そうですね。行きましょう」


土方と沖田がうなずく。


あれ?島田さんは?


「あの。島田さんとパイロットのジョンがいないんだけど?」


星奈がみんなに向かって聞いた。


「あの二人ならいないわよ。これが墜ちる寸前にどこかに消えたの。すうっと」


静が青い顔をして言った。みんなも見ていたのだろう。誰一人、何も言わない。


「とにかくついていく。何があるかはわからないが、とにかく前に進まなきゃ」


義経の強い言葉になんとか気を振ふり絞ることができた。考えたって無駄。今は行動あるのみ。星奈はふり絞るように立ち上がる。


「あれになにか食べられるものとか使えそうなものがあったら持っていこう」


義経がそう言ってヘリのところまで戻って中を探し始めた。


「行動力と統率力があるね?あれってきみの何?恋人?」


沖田総司が星奈に小声で聞いてきた。


「ち、違うわよ。色々面倒見たり迷惑かけられてるけど、そういう人じゃないし。ちょっと恩人かも知んないけど関係ないし」


しどろもどろに返事をする星奈に、にっこりと総司は微笑んだ。


「ならよかった」

「え?どういう意味?」

「そのままさ」

「はあ?」


混乱する星奈だったが、持ってくものはしっかりと土方やピエールに言う。


「こんなのどうすんだ?」

「カートリッジって書いてますが。ちょっと重いです」


馬にでも乗せてはこべばいいでしょ、と適当なことを言うと、ピエールがジル・ド・レと交渉し始めた。どうやらいくさを手伝うかわりに、星奈たちを客分として扱う、とピエールが言った。


「どうするぜよ」


龍馬はもう、面白そうにわくわくしている。土方も総司も同じだ。このいくさバカ、と星奈は思った。おなじいくさバカがいる。そいつはどうなんだ?義経を見ると、ヘリについていたものを外している所だった。あたしと目的は一緒だった、と星奈は思った。


馬は何度も乗ったことがある。中学生の時から流鏑馬やぶさめ)の行事に参加した。母が乗馬クラブに入れてくれて、そこで馬の乗り方を習った。流鏑馬とは走る馬から矢を射る競技で、今はほとんどが神事だ。実戦武闘派の日置流はより戦闘能力の高い射法をあみ出している。


「うまいな、星奈。静と同じくらいだ」


義経が褒めてくる。静は、フン、といった顔だ。みんなも馬に乗れている。あぶなっかしいピエールさんを除いて。




    【 オルレアン近郊 】



ここまでくる道々、色々なものが見えた。貧しい農民。搾取する貴族。国と国とが争う悲劇。本当に人間は何をやっているのだろう。いつの時代も変わらない。星奈の時代もそうだ。けっしてみんなが平和なわけじゃない。平和以外のものに、目をつぶっているだけなのだ。


サン・ルー砦というところに来ると、焼け焦げた匂いや火薬の匂い、そして死臭がした。これが戦場なのだ。普通の女子高生が来ていい場所ではない。総司が心配そうに星奈を見ている。義経もだ。


「ここでお待ちください、とジル・ド・レさまが仰ってます」


ピエールはかしこまって言った。教会のようだ。半分ほど崩れている。それでもステンドグラスから入る光が幻想的だ。こういう仕掛けなんだと、星奈は思った。現代っ子らしく神仏を信じていない。おそらくこの連中のなかで唯一、と言った方がいいだろう。まあ、そういう意味では坂本龍馬もあやしいが。


少し待つと、甲冑を身に着けた小柄な少女が出て来た。ピエールが通訳する。


「あなたたちは神から使わされた、フランスを救う使徒なのですね。異国のかたとお見受けしましたが、われら神の使いとして、心よりお礼いたします、と仰ってます」


見たとこ星奈とあまり変わらない年齢だ。煤で汚れているが、顔は美しい。


「ピエール、この人もしかして」


星奈は遠慮がちに聞いた。ピエールはさっきから興奮しっぱなしなのだ。


「そうです。そうですよ。この方はですね。ああ、信じられない。神様」


「はよ言え」


土方歳三が怒りながら言った。


「ああ、す、すいません。こ、このかたは、あの、ジャンヌ・ダルクさんです」


星奈以外、だれそれ的な顔をしている。まあしょうがない。このフランス救国の少女を、このなかで知っているものなど、ピエールくらいじゃないか?


「Bonjour, Jeanne. Je suis Yoshitsune. Je suis venu vous aider de l'extrême est.Comme je vais passer par l'attaque sur le fort Augustin」


忘れていた。こいつがいた。高校の教科書から知識を得て、はてはインターネットまで駆使していたらしい鎌倉武士。


「なんて言ったの?」


星奈は正直、この義経という男に恐れを抱いた。


「挨拶さ。協力しますってさ。うふふ」

「楽しそうね」

「まあ、いくさ、だからね」

「いくさバカ」

「ひどい」


ジャンヌ・ダルクは目を丸くしていた。どこから来たかと知れないものが、いきなり協力すると言い出し、しかも的確に作戦まで示した。ジャンヌが次に目論んでいる作戦を言い当てられたからだ。


「Etes-vous le messager de Dieu ?」


「さあ、どうなんでしょうね」


ジャンヌは明らかに態度が変わった。とくに土方の刀を見て、不思議そうな顔をしている。なんか似合うな、と星奈はわけのわからないことを思った。


「まあ、そうとなったら腹ごしらえじゃな」


明るい龍馬の声に皆が少し元気になったようだ。


「おい、てめえを許したわけじゃねえんだからな。あくまでこれはしょうがなくてやってんだからな」


土方歳三が坂本龍馬に文句を言っているようだ。


「そんじゃ、休戦じゃ。しかし他人のいくさ場で休戦とは、まっこと面白いのう」

「斬りこみと攻城は俺と総司が引き受ける。あんたは?」


龍馬は包みをほどく。知ってたんだ、それが何かを。


「ガトリングちゅうのと似てるんじゃが、ちっとも動かし方がわからん」

「これが必要ですよ」


義経が差し出したのは、小型のバッテリーだ。つなげると、ガララーと銃身が回る。


「これで撃てます」

「おんしゃ、何でも知っとるのう」

「ネットで見たんですよ」

「その、ネットと言うヤツを、わしも早く見たいもんじゃ」


来る気だ。星奈の時代に来る気満々だ。こんなのを連れてったら日本が危ないんじゃないの?いや、世界か。


呆れたようにこいつらを救国の少女、ジャンヌ・ダルクが見つめている。


ついに世界にタイムスリップし始めた義経や星奈。活躍するのかぶち壊すのか。世界征服はどうした、義経。

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