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義経と、龍馬と、しんせんぐみっ

新登場人物


坂本龍馬・・・・・幕末の英雄。京で暗殺される、はず

陸奥陽之助・・・・海援隊隊士。龍馬の右腕。のち明治の外務大臣

おりょう・・・・・坂本龍馬の妻(自称)

土方歳三・・・・・新選組副長。戊辰戦争末期、函館で戦死、のはず

沖田総司・・・・・新選組一番組組長。千駄ヶ谷で病死、のはず

その他・・・・・・劇団ぴよこ、劇団死期



    【 土佐 桂浜 】



何もない小さな漁村だった。亀吉という少年に案内され、一軒の漁師の家に連れていかれた。


土間に漁具が積んである。一段高くなった板の間の向こうの襖の部屋の中から、大きな声がしていた。


「浜にいたきに、連れてきた」


少年が声をかけた。


「おおそうか。おったか。まあ上がれ。連れもおるきにのう」


すごい訛りだ。誰だろう。


襖を開けると、義経がいた。静が義経の膝枕で寝ていた。すこしもやっとした。あたしは浜で倒れてたのに。


「星奈、無事だったのか。よかった」

「遮那くんも無事だったのね」

「いいよ、義経で。もうここは違うところらしい」

「え?ええ、なんか、そうみたいね。さっきまで信じられなかったけど、そこの人見たら、信じるしかないなと。ほんと、大河ドラマみたいだわ」


義経と向かい合って座っていたのは、色黒で、いかにも強そうな、武士。テレビでよく見ていた姿のまんまだった。


「こりゃ言うてることがわからん。なん言うてるか教えてくれんかのう」


困ったように義経に助けを求めている。


「こいつは、お芝居のようだと言っているんですよ」

「ほー芝居かえ。そいつはどこではやっちゅうんかいのう」

「奥州でしょう」

「まっこと、世間はひろいのう」


なんか仲良く話しているが、いったいどうなったんだろう。それを察したのか、義経が座れと言ってくれた。


「ぼくらはずっと気を失ってたようで、気がついたらここに寝かされていた。この人が浜で倒れている僕らを見つけて、村人の手を借りて運んでくれたそうだ」

「大阪に行く船をまっちょって、浜をぶうらぶらしちょったら、二人が打ち上げられておった。まっこと、鯨かなんぞと思ったわい」

「ねえ、龍馬さん。ぼくらも大阪に行きたいんだけど」


龍馬?坂本龍馬なの?うそでしょ、なんでそんなのがここにいんのよ。星奈は混乱した。それって江戸時代よね。じゃ、ここは江戸時代?


「あの、いまは何年ですか?」

「ああん。慶応三年じゃ」

「もしかして、坂本龍馬、さん?」

「おお。なしてワシを知っとる?」

「星奈、この人知ってるの?」

「あたしの時代じゃ、あんたと同じぐらい有名よ」

「へー」


「うーん」


静が起きたようだ。


「あら、星奈。生きていたんだ」

「ちょ、失礼ね。死んでたまるもんですか」

「よかった」


ちょっとうるっときた。


「気がついたかいな。よかったのう。でじゃ。大阪に行きたいと?何をしたいのじゃ。向こうには幕府のやつらも大ぜいおっとじゃが。捕まったら殺されよるぜよ」

「あなたはほんとは京都に行くんでしょう?」

「何で知っちゅう?」


龍馬は怪訝そうに義経を見た。


「いえ、なに。そんな気がしたんですよ」

「まっこと、不思議なご仁じゃ」

「そういえば、龍馬さん。この人知ってます?」


星奈は単刀直入に聞いた。龍馬はわれわれをどこまで理解してるのか、気になった。こんな、この時代ではすごく怪しい風体をしているにもかかわらず、一切それを聞いてこないのだ。普通なら根掘り葉掘り聞きたいだろう。


「ああ。自分で源義経と名乗る、へんなご仁だ」

「失礼な。まっこと、九郎義経でござる」

「まあ、名のれない事情もあっとやろう。無理に聞く気はないきに」

「あなたは5年半ぶりに土佐に帰ってきたんでしょう?船中八策という、土佐の山内容堂を救った褒美として」

「なんでそれを知っちゅう?」

「教えれば、京都まで連れてってくれますか?」

「ううむ」


しばらく龍馬は考えていた。そしておもむろに、義経の方を見て、言った。


「いいだろう。連れては行くが、どうなっても知らんぜよ」

「いいですよ、それで。星奈も静もそれでいいね」

「しょうがないわね」


星奈も黙ってうなずいた。


義経は今までのことを正直に話した。信じてくれるとは星奈は思わなかったが、真剣に話す義経に、嘘はないと思った。龍馬も真剣に聞いていた。すべてを聞き終わると、じっと考え込んでいる。


「じつは昔、江戸で一人の男に会ったことがある。田島紘一、という変わった名じゃった。勝先生のところにおってのう、実に不思議な男じゃった」

「現代風の名前ですね」

「そう。令和という、日本の未来から来たと言った」

「え?」

「身分というか、仕事はピロートゥとかいうおかしなものじゃ」


星奈は少し考えていた。ピロートゥ?何のことかしら。


「竜馬さん、オランダ語は?」

「少しぐらいはできる」

「じゃあ、こう書くんじゃないですか」


義経は囲炉裏の灰に字を書いた。


『piloot』


「そうじゃ、これじゃ」

「英語だとこう」


『pilot』


「これって、パイロット?」

「そう。きっとぼくらの乗っていた飛行機を操縦していた人だよ。その人は今どこに?」

「京都におるじゃろ」


京都でその人に会って、どうなるかはわからないが、このままここにいるよりはましだろう。


「そろそろ船が出るころじゃ。船方には言っておく。ついておいで」


浜から小舟で沖合の船に乗り換えるらしい。蒸気船というやつではなく、和船だという。


船に乗りこんでからは、龍馬は寝てばかりいた。船好きという話は本でいくらでも出てきたが、そういうそぶりは見なかった。


「星奈、いいかい?」


義経は難しい顔をして、小声で話し始めた。


「いまは10月になったばかりだ。9日に京都に着く。そして歴史の教科書では、11月15日に龍馬は暗殺されることになる」

「ええええ」

「声がでかい」

「はい」


そういえばそうだ。龍馬は京都で暗殺されてしまう。しかし本人にそれを教えたら、歴史が変わってしまうかもしれない。でも星奈たちを親切に京まで連れて行ってくれる、すごくいい人だし、恩人だ。どうしたらいいのか?


「ぼくに任せてくれる?」

「いいけど、どうするの?」

「ひ・み・つ」

「ケチ」


船は夜の海をするすると進んでいた。




    【 京都 鞍馬寺 】



「またここに来るとは思わなかったな」

「懐かしいわね」


義経と静が感慨深く寺の本堂を見つめている。


「ぼくが預けられた寺だよ」


星奈は驚いた。八百年以上前の話だったはずだ。それがまだ残っている。歴史とはすごいものだ。


「お待ちしていました。義経さん、ですよね?」


中年の武士が声をかけてきた。


「あなたは?」

「初めまして。田島と言います。才谷さま(龍馬の変名。さいたにうめたろう)から手紙をもらいまして。なんでも未来から来たと」

「あなたが日本エアラインのパイロットの田島さん?」


男はぎょっとした。きっと、本当にわれわれが未来から来たとは半信半疑だったに違いない。


「もしかしてあの飛行機に乗られていたんですか?」

「そうです」

「本当に申し訳ありません。わたしのせいでこんなことに」

「あなたのせいじゃありませんよ。じつはぼくは二度目なんです。こうゆうことは」

「そうなんですか。でも、機長として、やはり責任はあります」


機長だけあって責任感は半端ない。誠実そうな人だ。


「まあ、それは置いといて。じつはお願いがあります」


義経と田島はなにやら企むようだ。



静と星奈は門前にある『門や』という茶店で田楽を食べていた。


「どう、美味しいでしょ」


静が得意げに言う。確かにうまい。星奈が知っているこんにゃくを使った田楽ではなく、少し硬い豆腐を使ったものに、あまじょっぱい味噌餡がかかっている。ほんのり柚子の香りがするが、微妙に辛みと甘い風味がする。


「これ美味しい。なんていうのかな、淡白だけど、かおりがすっごくいいの」

「ふふん。それはね、柚子だけでなく、山椒と桜の葉を香りづけに使ってるからよ。あのころとほとんど変わらない」


静は自分たちの生きていた時代を思い出していたのかも知れない。自分の時代。自分の生きていた時代。


あえて思い出さないようにしていたが、やはり突きあげるように気持ちはこみ上げてくる。お母さん。紗枝。みんな。あたしがいなくなってみんなどうしてるだろう?心配しているだろうし、いや、死んじゃったと思っているかもしれない。みんなを悲しまさせた。きっと。ああ、胸が張り裂けそうだ。もういや。何でこんなことに。帰りたい。帰りたい。


膝の上に持っていた田楽の上に、星奈の涙がポロポロと落ちた。静が星奈の肩を抱いていた。いつしか声をあげて泣いていた。


「おかあさん」




    【 京都 酢や 】



夕暮れの、秋風は町中の賑わいをなだめるように穏やかに流れていく。京の街並みの、川筋にところどころ華やかな店もあれば、閑静な商家や屋敷もある。そんなはずれに『酢や』という屋号の店があった。


龍馬の話では材木商ということだった。二階に龍馬の商社がある。亀山社中京都支社だ。


「おんしらの目的までは詮索せんが、今は幕府もシャカリキになっちゅうもんでのう、しばらくここでおとなしゅうしてたもんせ」

「龍馬さんは?」

「わしゃあ、ちくと、仕事があるぜよ」


そう言って龍馬はぷいと、出かけてしまった。


「ああなると、もうつかまえようがないですよ。まったく不用心なんだから」


振り向くと、竜馬の商社のひとりが立っていて、みんなに同情するように言う。きちんとした身なりの武士であった。


「坂本先生から聞いています。みなさんの力になれと。わたしは陸奥陽之助と言います」

「どうも」


みんなで曖昧な返事をした。


星奈は学校の歴史の授業でなんとなく習ったような名前の人が来たと思った。誰だったか思い出せない。


「だいたいの話は聞いています。みなさん奥州からいらしたそうですね。あっちは倒幕派と佐幕派だけじゃなく勤王佐幕、勤王倒幕入り乱れていますからね。まあ、開国派なんて少数ですから、ご苦労されたと思います」


陸奥に龍馬がどんな説明をしたか知らないが、星奈たちの微妙な立場をうまく龍馬が伝えてくれたらしい。そんな気遣いをしてくれる人を、ますます殺してはいけないと思った。でも、歴史を変えたらどういうことになるのか、星奈自身もよくわからない。


「しばらくは情勢を見ながら、ということになりますね。いま、国は大きく変わろうとしています。坂本先生が仕掛け、諸国の有志が動かしています。恐らく数日中には、この日の本の国に、あっということが起きるかも知れません」


陸奥は洋々としゃべっていた。たしかに日本は変わる。その代償に、龍馬は死ぬ。それを言いたいのだが、それは歴史への干渉になる。


「とりあえずぼくはちょっと出てこようかな」


義経がさらっと言って、下の階に降りようとした。陸奥の話はまったく聞いてないようだった。


「で、出るってどこへです?」


陸奥が慌てている。


「むかし世話になった公家のひとたち、の、今は子孫か。挨拶にでも」

「ちょ、ちょっと待ってください。だから今は国が変わろうとしてんですよ。反対派も多いんですよ。みんなピリピリしてんですよ」

「はあ」

「もう、だから、見回り組とか新選組とか、目の色変えて変革の有志を捕まえようと躍起になっているのに、あんたみたいに目立つ人がプラプラしてたら、どうなるかもうわかりきってるんですよ」

「うーん、北条さんに会えないかな。その子孫でもいいんだけど」

「何言ってんですか。どこの北条なんですか。鎌倉に幕府があったころの北条なんかとっくに滅亡してますよ」

「そうですか。ぼくは頼朝縁故の者なんですが、北条がいたら助けてくれるかなと」


一瞬、陸奥はたじろいだように見えた。しかし、奥州から出て来た田舎の若者だと思ったのだろう、そこのところを親切に教えてくれる。


「いいですか、北条氏は自分の娘を頼朝に嫁がせて、執権の座を手に入れたんです。蒙昧もうまい)な源氏のボンクラ達を手玉に取ってね。それでもあっという間に滅びましたよ。もっとも蒙古があんなに執拗に攻めてこなけりゃ、もう少し生き延びたかと思いますが」


義経は薄々は知っていた。兄に常に讒言(ざんげん)をし、自分をも討たせようとしていたのは北条時政とその娘、政子であったと。だがもうそれもいないのだ。


「こりゃ参ったね」


義経はチャラく、笑った。星奈は義経にはきっと深い悲しみが心を占めているだろうと想像し、胸が痛くなった。


「何笑ってんのよ。どうせお金でもむしり取ろうとして、あてが外れたんでがっかりしたんでしょうけど」


静がとんでもないことを言った。まったくこの遠慮のないひとは。


「あれ?わかっちゃった?てへへ」


本当にそういう顔を義経はした。本気だったんだ。静はわかってるんだ。義経のことを。何もかもを。星奈は悔しい、というより、なにか大きな無力感に囚われるようだった。自分は何も義経のことをわかっていないのだ、と。


「ちょっとー、龍馬いるって聞いたんだけどー」


「あー、めんどくさいのがまた増えた」


階下から上がってくる女の声に、陸奥はうんざりとした表情を浮かべた。


「なによー。ねー、龍馬はー?」


バカっぽい。ひたすらバカっぽい。何なんだ、この女は?


「あ、おりょうさん。先生ならさっき出かけちゃいました。なんでも越前に行くそうです」

「えー、じゃあ春嶽ちゃんとこかなあ」

「そう聞いています」

「ちぇっ。じゃ、しょうがないなー」


「春嶽さんて誰ですか?」


星奈は聞いてみた。その人もなんかの本で読んだ気がするが、記憶が曖昧だ。


「越前公、つまり前藩主松平春嶽様です。徳川の血筋の中では水戸の慶喜に次ぐ聡明なお方ですよ」


「横井っていう先生がよかっただけと、龍馬が言ってたわ」


おりょうと呼ばれた女はずけずけとものを言った。


「ホントにもう、この人は。あ、みなさん、この人はおりょうさん。坂本先生の自称、奥さんです」

「自称って何なのよ」

「そういう人いっぱいいるからです」

「失礼ね。ちゃんとした夫婦よ。家だってあるし」

「祝言あげてないじゃないですか。家だって先生1回行ったきりでしょ」

「新婚旅行っていうのに行きましたー。温泉にだって入りましたー」

「何ですか、その新婚旅行って?」

「知らないわよ。結婚したら旅に行くんだって龍馬が言ってたもん」


「龍馬さんは誰からそんなことを聞いたんですかね」


とつぜん義経が口をはさんだ。


「あら、いい男ね。服装がよくわかんないけど。ねえ、ちょっと遊びに行かない?」

「それは魅力的な話ですね。でも、ぼくは新婚旅行の話が気になる」

「なによー。えーっと、そうね。たしか勝海舟ってとこにいる、田島っていう人が言ってて。あとからその話聞いたエゲレス人のオールトっていうあきんどが驚いていたっけ。西洋の習慣をよく知ってたって」

「やっぱり彼か」


「どういうこと、義経くん?」

「うん。まだ確証はないんで言えないんだが、さっき彼と話したとき、ちょっと気になったことがあって」


星奈は義経の心配そうな顔が、なにか不吉なことの前触れのような予感がして、それ以上は何も聞けなかった。


「義経くんて、あんたの名前?にゃはははは。うけるー」


マジで笑ってるおりょう。本当にバカそうな女だ。それでも陸奥に対して、というより他にもいる社中の連中にもおりょうさんは強いようで、本当は龍馬の妻ということで遠慮しているようにみえるが、困っている陸奥をしり目に強引に義経たちを外に連れ出した。


「あれ?あんたたちも来るの?じゃまくさいなあ」

「ちょっと、どういう意味よ。じゃまなのはあんたでしょう」


静とおりょうが京の路上で言い合いをはじめた。むかし中学の時修学旅行で来た京都と、大通り以外の道はほとんど変わらない気がした。ただ、アスファルトではなく石畳だが。


「もういい、行こう」


義経が促し、歩きはじめる。


人目を忍んで、と言う言葉が無になるくらい人目についた。なにしろ高校の制服を着ている見た目だけは超かっこいい義経と、これも見た目だけは超絶美人の静が、まあ、そこそこ可愛いんじゃないかと自分で思っている、かれらと同じ制服を着た星奈が、これまた美貌の女とゾロゾロ歩いているんだ。


案の定、何人かの役人と思われる侍に呼び止められたが、驚いたことにおりょうさんが、これは薩摩から来た重役の子弟だ。町を案内しているんだ、と誤魔化してくれた。バカではないらしい。星奈は心の中で謝った。


京の町中を買い食いをしたり店を覗いたりしているうちに夕方近くになっていた。もう帰ろうということで、酢やの近くまで来たとき、それはいた。星奈が人生で最も強烈で、おそろしくて、切ないことの始まりだった。


みな、揃いの羽織を着ていた。それは星奈でも知っている。テレビでおなじみだ。


新選組、だった。



「こいつら、おかしなかっこうをしてやがる」


真っ先に先頭の若い侍に目をつけられた。


「おまえら、何者だ」


おりょうさんがさっきと同じ説明をするが、今度はそうはいかない。


なにしろ自分たちの理屈で物事を見るようなやつらだ。テレビドラマでは少なくともそうであった。


「ちょっと屯所まで来てもらおうか」

「困ります。薩摩藩邸に帰らなければなりません」


「薩摩藩邸は逆の方向ですよ」


後ろから出て来た、二十代後半くらいの侍が言った。もう一人が追いかけるように出てくる。少年のような若く、きれいな顔をした侍だ。


「土方さん、あやしいですね」

「総司、あまり走るな」


ああもう、ヤダ。何なの?こいつら新選組の土方歳三と沖田総司じゃない。知ってるわよ。星奈はほとんどぶったまげていた。



京の路上で、会ってはならない人たちと、あってはならないことが起きた。



「どうする、義経。強行突破、する?」


静が小声で恐ろしいことを言っている。


「無理だよ、静。知ってるだろ。ぼくは武術はからっきしだって」


「ちょ、弁慶さんに勝ったんじゃないの?弓だってあんなに凄くて」

「何言ってんだよ。前にも言ったけど、卑怯な手を使って弁慶には負けなかっただけ。あいつが勝手に負けたと思い込んで家来になっただけだし、弓は鎌倉武士ならみんなあのくらいできるよ」

「うそよね、静さん?」


静さんは目線を逸らして言った。


「ほんとよ」


ああああああ、あたしの今までの気持ちはなんだったんだあああああーーー。


「土方さん、この娘、なんか取り乱してますよ」

「総司、あんまり近づかないほうがいい。うつされるぞ」

「ぼくの方がうつる病気ですよ。労咳(ろうがい)なんだから」

「ちがう。バカがうつる。そう言ったんだ」


「しょうがないね。降参だ。ついて行こう」


義経はそう言った。これってもう終わり?あたしたちこれから拷問とかされて、下手したら死んじゃうの?生きてても、明治維新まではつかまったままなのね。もうやだ。おかあさん、助けて。もう帰りたい。


泣き出した星奈を持て余した沖田総司が土方に声をかける。


「としさん、この娘ヤバいんじゃない?この子だけでも帰しちゃおうよ」

「まあ、何にしても菓子でも食わせて落ち着かせてからだ」

「優しいね、としさん」

「ばかいえ。こんな娘でも、やつら平気で危険なことをやらせやがる。落ち着かせた後に、少し痛い目にでもあわせれば素直に洗いざらいしゃべるだろうよ」

「こわいなあ」


総司は気の毒そうに星奈を見ながら言った。


義経たち4人は新選組に囲まれながら京都の街並みの中を歩いていた。どこかの寺の鐘がなった。それはいくつもの場所のようだった。


ますます混迷を深める状況の義経と静、そして星奈。さまざまな人間が絡んで来てしまいました。どうしましょう。時代のうねりがまたまた人を飲み込んでいく?ほかの連載が書けないー。

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