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源義経、普通の高校生活をエンジョイする

新登場人物


結城紗枝(ゆうき さえ)・・・・・小柄の美少女。星奈の親友

田辺誠二・・・・・星奈のクラスメイト。弓道部員

江藤徹・・・・・・星奈のクラスの担任

金子美鈴・・・・・弓道部員、全国12位

大木沙耶・・・・・弓道部女子部長

大森孝雄・・・・・弓道部男子部長

戸田洋一・・・・・弓道部顧問

生徒その他・・・・劇団ぴよこ

 


     【 釧路市内 カフェ ボウ 2階 】



「もうやだ。あんたに教えることなくなっちゃったわ」


星奈が天井を仰いだ。えー、っという顔を義経がしている。そばで静が笑っている。


「あんた、覚えがいいのも異常だよ。3日で中学、高校の全教科完璧にマスターしちゃうなんて」


星奈は知らない。命のやり取りに比べたら、どれほどのものでもない。まして、義経は天才なのである。武芸は凡庸だが。


「星奈の教え方がいいんだよ」


フォローもちゃっかり忘れない。


「ば、ばか言うんじゃないわよ」


星奈は真っ赤になった。ここ何日かで、真っ赤になったり真っ青になったり、いったいあたしの生活に、何があったって言うの?こいつらのせいよね?最初はおったまげて話を信じちゃったけど、後から考えたらものすごく胡散臭い。なんか騙されている気がする。


「あーそうだ、そういえば、ここら辺見てないよな」

「何よ突然」

「静、ちょっとこの辺、散歩しようぜ」

「ふん、息抜きばっかじゃない。まあいいわ。付き合ってあげるわ」

「静ちゃん絶対キャラ変わってる」

「アンタも来る?」


星奈は躊躇した。どう見てもこのカップルに割って入れるわけがない。格が違いすぎる。美の頂点のような二人なのだ。しかし、こいつらを野に放ってはいけない。そんな義務感に襲われた。こいつらは美しい毛皮をまとった野獣なのだ。


「い、行くに決まってるでしょ」


少しばかり大きくなった店で忙しく働いている母に声をかけた。


「ちょっと出てくる」


三人が店を出ようとすると、星奈の母親、冬香が声をかけた。


「夕飯までには戻ってらっしゃいよ」

「はーい」


午後の空気が冷たく市内を流れる。


「どこ行こうか」


キョロキョロあたりを眺める義経。


「釧路フィッシャーマンズワーフくらいしかないわね」

「なにそれ」

「おおきなショッピングモールみたいなやつ」

「よし、それに決定」


星奈はさっきから気がついていた。人がじろじろと見ているのだ。もちろん義経と静御前だ。どう見ても尋常じゃないのだ。芸能人か、いやそれ以上のオーラを出しまくっている。


施設内ではさらにそれは加速した。もう、まわりが騒ぎ出しているのだ。市内中の高校生や中学生が集まってくるかと思ったほどだ。これはヤバイ。星奈は脱出することに決めた。


「ちょっと、逃げるわよっ」

「え?なんでー」


訝しがる二人を引っ張り、とりあえずタクシーに飛び乗った。


「いけない、お金そんなに持ってきてなかった」


星奈が青くなる。


「あれ使ったら。ほら、アピリだかアポリだか」

「アプリよ。一つもあってません」


しょうがないので、ためしに出してみた。


「あの、これでいいですか」


若い運転手がめんどくさそうに星奈のスマホを見ると、態度を一変させた。


「え、あ?あーはいはいはい、ど、どこまで行けばいいでしょう?もうどこでも何なりと。そうだ、もしよろしければこの車ごとフェリーでハワイかなんかに。いかがですか、なんでしたら行先はもうどこまでも火星までも」


「いえ、そんなとこじゃなくてもいいです。鶴ヶ岱公園のそばでいいです」

「はあ、残念です。ぜひ、またの機会はこの僕に。これ名刺です」


運転手は本当に残念そうに名刺を渡してきた。


「あの、お金は」

「はい、スキャンしました。間違いありません、鎌倉様のお嬢様」

「は?、どういうこと?」

「あ、失礼しました。先日、本社から通達で、このアプリを使う人はVIP扱いだと」

「なにそれ?」

「鎌倉産業、道内では鎌倉さまって言われてるんですよ」

「マジか」


そういえば聞いたことがある。ちっぽけな喫茶店を営む親子には関係のない話なのだが。それがわが身に関係しようとは。もうなんだかわからなくなってきた。


「あっはは、星奈はついに北海道を手に入れたな」


義経が茶化して言う。運転手が気がついて、急ブレーキを踏みやがった。


「おい運ちゃん、あたしの顔に傷ひとつ付けたら、その首、その薄汚い胴体とお別れだからな。わかるか?わかったら前見てちゃんと運転しな」


静さんがすごんだ。本物だから怖い。冗談抜きで数日前まで人を切り刻んできたんだから。


「ひいい」


運転手は慎重に車を走らせた。


「わかればいいのよ。ほほほ」


もうやだ。





    【 釧路大学付属光沢学園高等学校 】



気が重い。超気が重い。


後ろからノコノコついて来るふたり。どう見ても普通じゃない。美男美女なんて言うもんじゃない。別世界の人間が、うちの高校の制服を着て歩いている。通る道々、人々が振り返るは見とれるわで、交通渋滞まで引き起こしている。学校に近づくとその度合いは頂点に達している。なんか騒ぎに発展してんですけど。


「じゃ、星奈、あとでな」「バイバーイ」


二人が職員室に向かうと、さらに困惑と動揺の観衆が騒ぎ立てた。星奈はそっと抜け出すと、コソコソと自分の教室に向かった。


(せい)ちゃん、どうしたの?」

「ひっ?」


いきなり後ろから声をかけられ、星奈は心臓が2メートルほど飛び出した気がした。


「あ、さえちゃん」


同じクラスの結城紗枝だ。小柄で可愛い、星奈の親友だ。


「さっきからコソコソ歩いてたよ。おっかしい」

「ま、まあ、色々と事情がね」

「なにそれ、うけるー」


うけねーよ、とこころでツッコミを入れた。


「と、とにかく教室、いこ」

「うん。ねえ、聞いた?今日、転校生が入ってくるんだって。それも男女。どんな人たちかな。もしかすると東京からかもね。たのしみー」

「さえちゃん、あんまり期待しないほうがいいわよ」

「なんでよー。なんか知ってるんだ?」

「いや、なんとなくよ、なんとなく」

「変な星ちゃん」


教室に入り、席に着くと、田辺誠二がやってきた。同じ弓道部のクラスメイトだ。


「なあ、おまえ、昨日フィッシャーマンズワーフいなかった?なんか騒ぎになってたんで、見たらお前の後ろ姿のような気がして」

「き、気のせいよ。昨日は一歩も外出てないし、もう家に閉じこもっていたのよ。ひ、人違いだからね」

「そうかなー?」


「あれ?星ちゃん昨日メールで、そこ行くって言ってなかったっけ?」

「ほらこれ」


スマホをかざす紗枝を押しとどめる。


「そ、それは中止となりましたでござるっ」

「なにそれ」


ケラケラ笑う紗枝に、笑いごっちゃないと、ツッコミを入れたい星奈だった。


チャイムが鳴った。


「きりーつ」


担任の江藤徹が入ってきた。そしてあの二人も。お約束、来た。


教室が一瞬、凍りついたようだ。2秒、3秒、4秒。

そんな時間が永遠と続くようだった。


「キャーーーーーーあああああああ」


怒涛の雄たけびがこだましていた。恐らく釧路市内全域に響いたに違いない。


しばらく耳を塞いでいた担任の江藤は、それが収まるのを辛抱強く待ち続けていた。

やがて全員が息を切らして、静まるのを見計らってクラスのみんなに向かって言った。


「わかる。お前たちの気持ちが痛いほどわかる。だが、いまは堪えろ。いまはこの転校してきた二人に、ちゃんとしたところを見せてくれ。頼む」


マジで江藤は頭を下げた。クラスのみんなはさらに面食らっていた。あの二人は一体、何者なんだ?


「あ、それでは悪いが、自己紹介をお願いできないか?」


馬鹿丁寧な担任の言葉に、さらにクラスは混乱した。ふたりを見つめる。いや、見つめざるを得ない。こんな人間が、こんなに美しい人間が、世の中にいるのか?しかも二人。どっちも女の子に見える。しかし片っ方はズボンをはいている?


ズボンの方が黒板に名前を書き始める。高校生とは思えない達筆な字だ。習字の先生の字、みたいだとみなが思った。


『牛丸 紗那』


「ぼくは」


きゃーーーーー、と女子生徒が叫ぶ。


「こらえろ、お前ら堪えてくれっ」


「ぼくは、うしまる しゃな、と言います。変な名前かも知れませんが、ぼくは好きです。小さいころ父と、少しして母を亡くしたぼくは、知り合いに預けられ、ずっとウズベキスタンと言う国で育ちました。だからあまりこの国に友達はいません。どうぞ、皆さん、仲良くしてください」


「男なの?」「うそ、かっこいい」「なにその気の毒な経歴。抱きしめたい」微妙な感情の入り混じった歓声がいつまでも続いた。嘘だ。星奈は叫びたかった。


少し歓声が収まったのを見計らって、もう一人が黒板に向かった。これも美しい字だった。


『江島静香』


おおー、と男子学生が遠吠える。いや、名前、普通だから。吠えるほどじゃないから。


「しずかです。今日は皆さまに会えて、とてもうれしいです。これから皆様と一緒に勉強できることになり、とても幸せに感じました。どうぞ、よろしくお願いします」


「おおおおおおおおおおおおお」


男子学生のもはや悲鳴のような雄たけびがいつまでもこだました。


「ねえ、星ちゃん、あの二人すごいよ」


紗枝は興奮気味に言った。まるでスターを間近で見る眼差しだ。興奮しているのが手に取るようにわかる。


「席はそこの開いている所に。すまないな、後ろで」

「いいえ、ぼくはかまいませんよ」

「はい、わたしもですよ」

「きょ、恐縮です」


先生はすでに篭絡されていた。もう虜にされている。ダメだ。


得体の知れない唸り声と視線が二人を追う。星奈とすれ違う時、義経は横目で合図した。いや、ばか、こんなとこでヤメテ。


「どうしたの星ちゃん?顔真っ赤よ?」

「もうあたしのこと信号機って呼んでいいから」

「何言ってるのかわかんない」


なんにも頭に入らない一時間目が終わった。案の定、ふたりに黒山ができた。他のクラスの生徒もいやがる。何してんだ。義経はいちいち気さくに答えている。こいつ人気の取り方を知ってやがる。静ははにかんだように首をかしげながら、そしてちいさく頷きながら、しかも笑顔を絶やさないというまるでどこかのアイドルのようだ。そういえば静はこの前、うちで必死にアイドルグループのDVDを見てやがった。


こいつら、ぜんぶ演技だ。


そう叫びたくなる衝動を、星奈は必死に抑えた。やっと、昼休憩が来た。もう、部室、いこ。





    【 釧路大学付属光沢学園高等学校 弓道部部室 】




「だから、マジ半端なく超美少女。もう死んでもいい」


そのまま死ね、田辺誠二。


「なあ、そうだろ、鈴木」


部員にしつこくあの二人のことを聞かれていたらしい。もう全校の話題、じゃなく騒ぎだわよね、このレベル。


「知らないわよ。興味ないし」

「何だよそれ、あんなすごいの、気にならないのかよ」

「ぜーんぜん」


「あはは、星奈は弓一筋だもんね。お父さんの火桶流、守るんだもんね」

「火桶じゃなくて、日置、間違わないでよ美鈴」

「ごめーん」


金子美鈴。あたしと同じ2年生。全国12位。実力はあるが、ちょっと遊びすぎ。


「鈴木さん」


弓道部女子部長の大木沙耶が難しい顔をしてやってきた。男子部長の大森孝雄も一緒だ。


「昨日、公園の武道場で君と新栄学園の高堂が試合をしたそうだが、本当か?」


う、バレている。その後の騒ぎは知られているのかしら?


「えー、はい。なんか、勢いで。でも、あいつらが横暴な真似をしてたんで」


「そういう問題じゃない。仮にも君は全国大会優勝者なんだよ。その自覚はないのかと、聞いているんだ」


「はい、すいません。自覚が足りませんでした」

「高堂から文句言ってきた。わけわからんことも言ってきたが、まあ、突っぱねた。しかし相手は連盟会長の孫だ。あとでどんなことになるか、君だってわからないわけじゃないだろう?」

「はあ、それは」

「沙耶のいう通りだよ。もし、光沢学園に傷でもつけたら、責任はどう取るつもりなんだ」


そしたら、あたし辞めます、と口にしようとした瞬間、ガラッと部室の引き戸が開かれた。義経がいた。


「あー、お取込み中でしたか?」

「い、いや、あの、なにか御用ですか?」


部長たち、いや部員全員が凍りついたようだ。さらに美しい顔が、ニコッと笑いかけてくるのだ。女子部員の数人がへたり込んだ。


「いえ、人を捜していたものですから」

「あなたは、この学校の生徒ですか?見たことないけど」


見たことないでしょ、こんな美形。何言ってんの、部長。


「あ、今日2年に転校してきた牛丸紗那と言います」

「はあ」


大木沙耶はすでに落ちたと見ていい。もう、真っ赤になっている。


「あれ、牛丸君、どうしてここに?」


いささか得意顔で誠二が答える。みなが、おお、と、誠二を見る。


「えーと、君は誰だっけ?」


少なくともこいつを捜しに来たんじゃないことは、皆に伝わった。落ち込む誠二。


「あっ、いたいた、星奈。一緒に昼ごはん食べようと思って、待ってたのに、こんなとこにきてたのか」


「ちょ、こんなとこって失礼よ。れっきとした弓道部部室なの。弓道場もあるんだから」

「これは失敬。武道の神髄を極める弓道場で、ことさら他人の叱責を複数で行うか。なるほどそれは強くなる秘訣かも知れないな」


「何を言った、貴様っ」


女子部長の沙耶が怒った。大森も怒ったようだ。


「へー、本当のことを言われて怒るんですか。いや、たいしたもんだ」

「貴様、言っていいことと悪いことがあるぞっ。謝罪しろっ」


義経は、その美しい顔に笑みを浮かべながら、恐ろしい目つきで二人に言った。


「合戦なれば、減らず口も出なくなる。その首掛けて、勝負するか?」


その場の全員が再び凍りついた。そりゃそうよ。本職ですもん。鎌倉武士ですもん。


「き、きみはぼくらをなめているのか?仮にも全国レベルなんだぞ」


「いのちのやり取りに相手をなめるなど言語道断。たとえカナブンだろうが真剣にお相手する。星奈、弓を貸せ」


「は、はい」


義経はブレザーを脱ぐと、射場の板の前進んだ。


「的は一つ。順に射つ。それだけだ」


二人の部長も射場に進み、構えた。


「よくわからんが、いいだろう」

「的は50センチ、遠射だ」


「心得た」


義経が第一矢をつがえ、放つ。流れるような動きだ。力のどこにも入っていない姿勢に、射られた矢は恐ろしいうなりをあげて飛んでいく。


ドン


大きな音がした。矢が刺さっただけでこんな大きな音がするものか?しかも矢が半分以上的に突き刺さっている。


「さ、どうぞ」


大森が射る。的に当たる。次に沙耶が射る。これも的に刺さる。続いて義経が矢をつがえ、弦を引き絞る。


こんな勝負に何の意味があるんだと、大森と沙耶は考えた。外した時点で負けなのはわかる。しかし先ほどこの男が放った殺気は何だったんだろう。あれは命を賭けるという言う意味ではなかったのか?では、この男は何をしたいのか。それは次の一射でわかった。


義経のはなった矢は寸分違わず、先ほど義経自身が射った矢の矢じりからその矢を弾けとばしながら、さらに奥深くに食い込んでいったのだ。射場は大騒ぎになった。今までこんな技を見たことがないのだ。


「もう、やめといたほうがいいですね」


声の方を向くと、中年の男が立っていた。


「先生、でも」


沙耶が食い下がろうとしたが、制された。


「失礼ながら、わたしは光沢学園弓道部の顧問をしています、戸田洋一と言います。恐ろしい腕前ですが、師匠とご流派は?」

「師匠は鬼若と言います。流派は日置流 」


え?っと星奈は心の中で叫んだ。何であいつが日置流を名乗るのだ?


「もしやそれは鬼若武蔵と言いませんか?」

「そうです。鬼若たけぞう先生です」

「おどろいた。今日、赴任なされた体育の教師ではないですか」


「そうですか、ぐうぜんだなあ、あっはっはは」


なわけねえだろ、と星奈はまた心の中でツッコんだ。


「とにかく、命のやり取りにならなくてよかった」

「先生、別に命を賭けてやってはいませんよ、決闘じゃあるまいし」

「それならなおのことあの人には勝てませんよ」

「え?」


二人の部長は納得いかない顔をした。


「命とは弓を射る心。あの人はそれを折ってしまうつもりだったのですよ。そうなれば、もう二度と弓は持てなくなるでしょうね」

「まさか」

「あなたがたが外してもきっとあの人は射ることをやめませんよ。そしてあなたたちは逃げられない。何十も、何百も射続けるでしょう。それは、あなたたちの心が折れるまでずっと見続けならねばならないのです」

「ひ」


沙耶がその意味を理解したようだ。的に強烈に射られる矢は、全部自分の心の的に深く強く突き刺さってくる。永遠に。心が折れるどころではない。気が狂う。何でそこまで。そうだ、あいつは命のやり取りと言った。そういうことなんだ。なんでそこまでする?なんで?


「何でなんですか?何でそこまで」


沙耶が思わず口にした。


「面目、ですよ」

「え?面目?」

「そうです、面目を、ぼくとぼくの仲間は彼女に守られた。あることで。今度はぼくが彼女の面目を守らなければならない」

「だから、何でそこまで」

「意地、だからです」

「意地」


沙耶は考え込んでしまった。意地で人を助けるだと?面目を守ってくれたからだと?なんだそれは?何なんだ、それは。理屈がまったくわからない。この美しい男が、こいつを守るだと?なぜだ?意地と言ったか?それは何なんだ。


嫉妬。


ああ、いま自分は嫉妬している。恥ずかしい。恥ずかしい?いや、妙に清々しい。こんなに純粋に人を嫉妬したことを、それをちゃんと認められることなんて、今まであっただろうか?この子が羨ましい。妬ましい。ああ、なんて甘美なんだ。愛おしい。憎すぎて愛おしいのだ。


「星奈さん」

「え、あ、はい?」

「わたし、あなたが嫌いです」

「え?部長?」

「でも愛おしい」

「はいいいいい?」

「その男をわたしに譲れ」

「何言ってんですかーっ、こんなやつ、知りませんよっ」


「ひどーい、星奈、それはないよー」

「やかましいこの女ったらし。死ね」


「女ったらし、ですって?」


静御前が入ってきた。超美形の女子高生が、美しい目であたりを睥睨しながら。


「い、いや違うんだ、そういうこと言うなよ、星奈あ」

「ちょっと行ってくるって、いつまで待たせんのかしらあ?」

「あーもうわかったわよ。お昼ね。お昼時間て、あれ?もう時間ないじゃない?」


星奈のクラスの午後の授業は、腹の虫の大合唱で終始した。



ますます学園物の深みにはまってます。タイムトラベラーの転校生って設定が間違っていたのか。いっそのことここで殺して、どこかに転生させたろかと。なろう系ではなくさせたろ系で。

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