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ファンタジーだろうと、鎌倉武士は面倒起こすのが仕事

登場人物


源義経・・・・史上最弱のヒーロー。時を超え、星奈と出会う

武蔵坊弁慶・・義経の家来。史上最強

静御前・・・・義経の愛人。武芸百般。アイドルユニット『源氏トリビュート・少女X』リーダー

沖田総司・・・新撰組一番隊隊長。若き天才剣士。星奈が気になる

鈴木星奈・・・釧路大学付属光沢学園高等学校2年生。次元転移の『核』を持っているらしい

ルナ・・・・・オルンテールのスパイ。望月亜理紗と名乗り、星奈に近づく

グレデ・・・・ノンノ村の村長。妻はモビ

オーエンス・・べルツェルン国第二騎士団正騎士。ルーク砦守備隊隊長。家名はファンダール

アレク・・・・ルーク砦守備隊副隊長。星奈にちょっと好意をもつ。本名アレキジニーネス・フォーリエン

兵士その他・・劇団ぴよこ



   【 ノンノ村 】



「いててて」


義経たちが目を覚ましたようだ。


「どうなってるの?ここはどこ?」


全員がそう思っている。

のどかな田園地帯に小さな村。さっき崩壊したオルンテールから飛ばされてきた者たちに、現状をまともに認識できるわけがない。


「星奈、その人たちは?」


物珍しそうにあたりをキョロキョロとうかがっていた義経が、星奈に聞いた。


「この、ノンノ村の村長さん。グレデさんと、こっちは奥さんのモビさんだって」


義経は一瞬、不思議そうに星奈の顔を覗き込むと、村長のグレデに向かってお辞儀をした。


「こんにちは。ぼくは源義経といいます。訳あってこの人たちと旅をしていたんですが、さっき不可解なことに巻き込まれたようで、ここに投げ出されてしまったようなのです」


「そうでしたか。それはお困りでしょう。なんとかしてあげたいのですが、こんなちっぽけな村ではどうにもなりません。ベルーダまで行けば何とかなると思いますが」


村長は申し訳ないように義経に答えた。


「ちょっと、星奈。こっち」


義経が星奈を引っ張る。何か話があるようだ。


「あ、ちょっと失礼します。おほほほ」


星奈が村長たちに愛想笑いをしながら義経についていく。


「なんで言葉が通じる?」


義経は難しい顔をして星奈に聞いた。


「なんでって、そういえばそうね」

「ここはどうみたって星奈の国じゃないよね。あの人たちもどっちかって言うとジャンヌの国に近い人みたいだし」

 

星奈は脳内で計算をはじめる。もちろん非科学的なものだ。


 X=(現実-非現実)+(ありえない-よくわからない) ∴X=ファンタジー


「つまり」

「もういい」

「え?」


義経は村長のところに戻っていく。星奈はなんで?という顔をしながら義経の後を追いかける。



ルナと静御前がオルンテールの人たちのところで具合や怪我がないかを確認しているようだ。弁慶が沖田総司とジャンヌに辺りを警戒するよう指示を出している。ピノもちょこまかと働いている。


「さっきベルーダとおっしゃいましたが、そこは町なのですか?」


義経が村長に聞いた。


「ベルーダはここの領主のいるところで、大きな城塞都市ですじゃ」

「そこは遠いのですか?」

「歩いて行くなら3日はかかります。しかし道中、魔物や盗賊が出ますので、護衛もなしでは到底たどり着くことはできないでしょう」


「魔物?」


ああ、ファンタジーだ、と星奈は目を輝かせた。小学生から密かに憧れていた世界。魔物、盗賊、王様にお姫様、そして勇者と魔王。


「それって目が七つあっておおきな犬みたいなのとか、頭が三つある大蛇だとか、二足歩行する大きなトカゲで放射能吐くとか」


「お嬢さん、何言ってるかわかりませんが、魔物は獣や植物に、あるいは人や虫に姿を変えたもので、大変恐ろしいものです」


義経は得意そうになっている星奈をじゃまそうにどかす。


「この村に武器とかはないですか?もしくはなにか戦える道具とか」

「戦おうというのですか?やめときなされ。ハイエーンという犬の姿をした魔物でさえ、騎士が三人がかりでやっと倒せるのじゃ。それが何十匹となって群れで襲ってくる。魔法もなしでは到底戦えん。あんたら魔法は使えるのか?」


「魔法、きたーーーっ」

「星奈、うるさい」


「あいにくぼくらは魔法は使えませんが、あそこの三人はもの凄く強いですよ」


義経は弁慶、沖田、ジャンヌを指さす。

確かにあの三人は強いが、毒霧を吐くモンスターや炎を吐く魔獣に敵うかなといえば、ちょっと疑問だな、と星奈は思った。


「ねえ義経。やっぱ魔法とかないと無理だよ。それにいくら三人が強くても、二千人いるオルンテールの人たちを守れるわけないよ」


しかしこのままじゃどうしようもない。この村に迷惑もかけられない。義経と星奈は困りきった。



「誰か来るっ」


ジャンヌが鋭い声をあげる。丘の向こうから点々と人影らしいものが現れてくるのだ。それはきちんと隊列を組んでいるようだ。


「兵の動きだ」


義経はそうつぶやくと、弁慶やジャンヌのところに走っていく。静と沖田はオルンテールの人々を守るようにしている。


「あれはルーク砦の守備兵じゃ。どうやらお前さんがたを探しているようじゃな。おとなしくしてた方がいいぞ」


村長が星奈に言った。


「なんで分かるの?」

「先頭の者が旗を掲げてるじゃろ?白黄緑と」

「うん」

「あれは武器を置け、抵抗すれば討つ、従え。という意味じゃ」

 

星奈は義経たちにそれを知らせるために走っていく。兵たちはどんどん近づいて来る。

星奈の話を聞いた義経は、弁慶たちに抵抗しないように言った。


「どうします、義経さま。ひと暴れしますか?」


楽しそうに弁慶が義経に進言する。まったく鎌倉武士は戦うことしか頭にないらしい。


「二百人くらいか。勝てないこともないが、この先どうしていいのかわからない。とりあえずあいつらに従って、様子を見よう」


勝てるのかい、っと星奈は心の中でツッコんだ。それにお腹も減った。オルンテールではろくに食事もしていない。トイレにも行きたい。シャワーも浴びたい。ゆっくり寝たい。


星奈がだんだんめんどくさいことを言い出しそうな顔つきになっているのを義経は横目で見ながら、みんなに向かって声をあげた。


「われわれはいま窮地に立っている。しかし安心するように。たとえ何があっても皆を守る。鎌倉武士の名において誓おう」


弁慶が片膝をついて頭を下げると、静が続いてそうする。つられて総司とジャンヌが膝をつく。ルナとオルンテールのひとびとも続いた。星奈は義経の隣でぼーっと立っている。


そこに兵の一団がついた。


「われわれはべルツェルン公国第二騎士団、ルーク砦守備隊だ。そこの者たちよ。おとなしくわれらの命に従え」


そう言って先頭に立った鎧に身を纏った男は、おそらく指揮官だろう。紋章の入った布をつけたトカゲのような動物にまたがっている。馬みたいだ。


「わたしは源義経と申します。わけあってここに来てしまいましたが、もとより敵対する気はありません。ここに力なき民も多くいますれば、願わくばご温情をいただきたいとお願いする次第です」


義経はそういうと膝をついた。


「よかろう。わたしは第二騎士団のオーエンスだ。ルーク砦守備隊長である。全員、われらに続くのだ」


そういうとオーエンスは星奈をじろりとにらんだ。さっきから棒立ちで、みんなが膝を折って頭を下げているなか、めちゃくちゃ目立っている。タイミングを逸したのでもう座るに座れない。どうしよう。


「えーと」


星奈は何とか誤魔化そうとした。


「ここら辺にコンビニありません?」


トイレに行きたいしお腹も減ったし、あと女の子に必要なものもある。コンビニなしでは生きていけない。


「こ、コンビニ?ですと」


オーエンスは驚きを隠せないでいた。守備隊全体も「おお」という声が次々と上がる。


「近くにあるの?できれば案内して欲しいんですけど」


女子高生、怖いものはない。


「な、なにをされるおつもりか?」


オーエンスはなぜかビビっている?トイレや食べ物、生活用品。当たり前に暮らすにはなくちゃならないもの。まあ、初対面の人にはちょっと恥ずかしくて言えないので、当たり障りのない言葉を選ぶ。


「えーと、ATMがあればいいんですが。ちょっと心もとないんで」


「エーティーエム、ですか。ううむ」


口座には大事な貯金があるが、非常事態だ。でも二千人の人々に水や食料が行き届くには、いったいいくらかかるのだろう。星奈は暗い顔になった。それ以上にオーエンスは暗い、いや、青い顔をしている。


「と、とにかく砦までお運びを。みなさまがたもご一緒に」


「はぁ」


急に丁寧な口をきいたオーエンスに驚きながら、星奈はコンビニが近くにないと知り、大きくため息をついてしまった。


「い、いや、その、ベルーダにはございますので、なにとぞご辛抱ください」


あきらかにオーエンスは冷汗を流している。義経は、フーン、といった顔つきで半眼になっている。悪い顔だ。


「では、案内を頼む」


いきなり義経は上から目線でオーエンスに言う。何この人?


「かしこまりました」


オーエンスは態度を急に変えた。コンビニによほど何かがあるのか、星奈にはよくわからなかったが、みんながとりあえず安全なようなのでついて行っても大丈夫だろう。村長と奥さんにお礼を言って、守備隊にぞろぞろついて行く。



なだらかに続く丘陵地帯を、ゆっくりと進む。ところどころに麦のような穀物類の畑、ブドウのような果樹があり、豊かな土地だと思わせる。放牧のように牛に似た動物やモコモコとした毛の動物が、緑の斜面にのんびりと遊んでいる。


「止まれ」


先頭のオーエンスが号令をかける。なにやらブツブツ唱えている。


つかつかと横から白い鎧を着た騎士が星奈に近づいて来る。星奈と義経はキッと警戒する。


「あ、すいません。驚かないで下さい。自分はアレキジニーネスといいます。第二騎士団の騎士で、ルーク砦守備隊の副隊長をしています。アレクと呼んでください」


礼儀正しく言ったその騎士は、まだ若く、星奈よりふたつか三つ上のようだ。義経はさりげなく星奈の前へ出る。星奈を庇う態勢だ。


「よろしく、アレク。ぼくは義経。何か用ですか?」

「あなたたちはメルド大陸のかたがたですか?」


「われわれがどこから来たのか、今は明らかにできません。しかし決してあなたたちに害を与えようとするものではありません」


義経は慎重に言葉を選んでいるようだ。アレクが口にしたメルド大陸って何なのか。興味はあってもそれを聞けない雰囲気になっている。


「失礼。わたしはそちらのかたに聞いたのですがね。御身分を明かしていただけませんか?」


義経はふん、と鼻を鳴らすと、アレクに向かって尊大な態度をとった。


「いやしくもわれらの姫君に向かっての無礼だと、お気づきになられませんか?」

「姫君?ならばなおさらベルツェルン公国の貴族たるわたしに身分を明かすのは礼儀ではないですか?」


貴族なんだ。もう、超ファンタジー。星奈はウルウルしていた。もう、何でもありじゃない。ファンタジーなんだから。もう、そう言うノリで。


「義経。かまいません」

「ですが、姫」


義経も乗ってきた。そういえば貸したゲームに、あいつけっこうはまっていた。


「わたしはわけあって身分を明かせないのです。それどころかいまはコンビニに行ってATMも使えないのです。なにとぞお力添えを出来ましたら」


近くのコンビニを教えてと言うつもりだった。アレクはそれを聞いて目を見開いた。


「コンビニでATMをなさるのですか。そして姫と呼ばれる。もしや姫巫女、さま?」

「しっ、声が大きい」


義経がノリノリ。何?姫巫女って。やめて。なんか嫌な予感しかしない。


アレクが青ざめた。いきなり馬のようなトカゲから降りると片膝をついて頭を下げた。


「今までの御無礼、なにとぞお許しください」


ちょっと、なにやってんのよ?みんな見てるわよ。やめてー。


「非常時だ。気にする必要はない」


義経が尊大に言った。何言ってんのよ、メチャメチャ気になるわよ、という風に星奈は義経を睨んでいる。


「ノンノ村からの結界を出ます」


アレクがいきなり立ち上がった。


「これからは兵たちから離れないように」


そう言ってアレクはオーエンスの方に向かった。何か見えない壁に向かっているようだった。あれが結界というものかも知れない。


アレクが合図し、兵たちは次々にその結界といわれるものをくぐりぬける。星奈たちも続いた。

オーエンスが、ここからは結界の外で、魔獣が襲ってくるだろうが、オーエンスの魔法で弱いものは近づけない。強いものが来たら守備隊が一団となって対処する、というようなことを言っていた。


総司と義経が星奈の側に来た。弁慶は先頭の方に。ジャンヌと静が列の後方につく。みな、示し合わせたかのような動きだ。戦術的な動きに皆なっているのだ。


「来たぞ」


守備兵から声が上がる。黒い大きな獣が襲い掛かろうとしているが、動けないでいるようだ。


「ハイエーンだ。群れが来るぞ。弓と槍を構えろっ」


弓で星奈は反応した。が、ファンタジーではどんな弓かわからないので、おとなしくしていることにした。

反対に、なにかウキウキしている人たちを見つけた。弁慶さんたちだ。


黒い、犬のようなハイエーンと呼ばれる魔物はとても素早く、守備隊の矢では倒せない。槍の範囲からも巧妙に距離をとって、隙をうかがうようだ。


「リューリケンだっ」


新手が現れたようである。人の等身の倍ぐらいある巨大なモンスターが三体いた。岩でできた棍棒のようなものを振り回している。


「魔術師、魔力攻撃をっ」


オーエンスが叫ぶと、黒い服をまとった人たちが出て来た。何やら詠唱をはじめる。


「きゃー、ファンタジーだわー」


星奈がたまらず声を張り上げる。しかし魔術師たちの攻撃は効かないようだ。歩みは遅いながら徐々にこちらに近づいて来る。


「星奈、伏せてっ」


総司が叫ぶのと同時に、いきなり上空から大きい蝙蝠のようなものが襲ってきた。


「ジルバットだっ。弓、何している、撃ち落とせっ」


アレクが叫ぶ。しかし高速で飛び回るジルバットに当てる技術は兵にはないようだ。


「貸して」


星奈は近くの兵から弓をもぎ取った。


「ほら、矢を頂戴」


獲物を睨みながら、星奈は手だけで矢の催促をした。弓を奪われた兵は困ったようにアレクを見る。


「かまわん。差し上げろ」


アレクが許可する。兵が矢を渡すと、星奈は見ることなく「全部よ」と言った。

兵が矢筒ごと渡すと、星奈は獲物をしっかりと睨んだままにっこり笑って兵に「ありがと」といった。


ビシュ。矢が勢いよく放たれる音。上空には数十匹のジルバットが飛んでいる。高速で飛び回り、しかも急に向きを変えたり高度を変えられる。並みの射手では到底中てられない。


「あ、中った?」


兵が驚く。星奈の矢がどんどん当たる。外さない。しかしまだ多い。矢が足りなくなる。


「これをお使いください」


兵が矢筒ごと渡してくる。他の兵も続く。


どんなに高速で飛び回ろうと、義経に教えられた弓の射法の前では止まっているのと同じだ。


呼吸だ。


義経は常に言った。天地すべての流れを呼吸に託す。すると的は止まって見える。船上の扇の的も撃ち落とせる。義経はそう教えてくれた。星奈が凄い、と誉めると、「いや、那須与一がそう言ってた」と照れた。さすが武芸最弱。パクリだ。


三十匹以上いたジルバットが全て星奈に落とされた。兵は目をむいていた。


「ありがと」


兵に借りた弓を返すと、兵はうやうやしく受け取った。まるで宝物のように兵は胸に抱きしめる。ちょっと大げさだと、星奈は苦笑いした。


そんな星奈をオーエンスは眩しそうに見つめていた。だが危機が去ったわけでもないらしい。


「隊伍を組め。槍を構えろ」


ハイエーンが集団で襲ってくるようだ。しかし対応は個々にバラバラで効果的な攻撃にはなっていない。もともとが追い払うという運用の仕方のようだ。


「そこの隊、続けっ」


ジャンヌがいきなり声をかけた。二十人くらいの槍の隊を引っ張っていった。


「構えろっ」


ジャンヌの気迫に押されて兵が動く。


「そうじゃない、こうだっ」


ジャンヌが見本を見せる。兵たちはそれをまねる。それをジャンヌは密集させてしまう。


「何をしているんだ?」


オーエンスが不思議そうにアレクに聞いている。さらにジャンヌは何事かを兵に命令しているようだ。普通なら勝手なことを、というところだが、先ほどの星奈のこともあり、みな素直に聞いている。


そんなところにハイエーンの集団が襲い掛かってきた。ジャンヌの一隊が突出して、格好の攻撃目標になっていた。


「いかんっ」


オーエンスが叫ぶと同時にジャンヌの一隊は隊列を変える。


「んん?」


オーエンスが不思議そうに見つめる。兵が一列になってハイエーンに対峙しているのだ。しかも槍の穂先は短く引き込まれている。追い払う姿勢ではない。


「ファランクスっ」


ジャンヌが手をあげると、槍の兵はハイエーンの高さにそろえる。短く引き込まれた槍に間合いを見誤ったハイエーンたちは次々に槍の圏内に侵入する。


「いまだっ、突け」


一斉に槍が繰り出される。ひとたまりもない。隙間のない槍をかわすことができないハイエーンたちは次々と倒されていく。


「引けっ」


ジャンヌの号令で一斉に槍が引かれる。それが隙になったと見たハイエーンの一部が隊列に襲い掛かる。が、兵の盾に阻まれる。ひるんだところを槍の兵の後ろに控えていた剣を持った兵に突かれてしまう。


「突けっ」


ジャンヌが命じると、また同じ光景となった。が、ハイエーンもそう、間抜けではないらしい。集団戦法をとる構えになっていた。圧倒的多数で制圧する構えだ。


「どうする?援軍を」

「ご無用のようです」


慌てるオーエンスに向かって、アレクは冷静に言った。


「構えろ」


ジャンヌが叫ぶと、全員が一斉に槍を構えた。まるでハリネズミのように見える。

ハイエーンが襲ってきた。かなりな数で、すごい勢いだ。


「プッシュ・オブ・パイク」


ジャンヌの号令で完全な槍衾(やりぶすま)が形成される。ハイエーンはことごとく串刺しになっていく。


「よし、後退しろ」


ジャンヌは戻ると、他の槍の兵に同じように教える。次々にハイエーンは撃破されていく。


「どうなっているんだ?」


オーエンスが感嘆の声をあげる。


「わしらの番だ」


兵から無理やり剣を奪うと、弁慶が近づきつつあるリューリケンに向かって飛び出して行く。


「あ、まて」


静が叫び、総司も笑いながらついて行く。無論、兵の剣を奪ってだ。


「ふふふふ。これはぼくも行かねば」

「ちょっと待ちなさいよ。あんためっちゃ弱いって言ってたじゃん」


星奈の言葉も聞かず義経が飛び出して行った。


「ピノ、星奈をお願いっ」


義経は弁慶たちを追っていく。


「もう、あいつったら」

「大丈夫ですよ、星奈さん。義経さまに勝てる者なんかいません」


そういうピノを恐ろし気に見つめる兵たち。


「そ、それは魔道具?」


オーエンスが青い顔で言った。


「そんなたいそうなものじゃないんですって。やあね。よくわからないもので動いて、よくわからない働きをするけど、よくわからない力で、けっこう無敵?うふ」


星奈は謙遜したつもりで言ったらしい。


「それって充分魔道具です。しかも最高レベルの」


アレクがため息交じりに言った。オーエンスはますます青くなっていく。




「あれはどういう人たちなんですか?」


オーエンスが少し震えながら星奈に聞いてきた。


「あー、なんというか、鎌倉武士?」

「なんです、それ?」

「わたしの国の、古ーい戦闘集団。あ、あそこの若い人は違うわ」


「そう?ですか?あんまり変わりませんが。いや、むしろキレがいいような」

「そうよねー。天才だからねー」


総司が褒められてちょっとうれしい。


「だが、一番すごいのはあの後ろの方です」

「ほえ?」


義経を言ってるらしい。剣も持たず、なんか声かけてるだけだ。


「邪魔してるだけなんじゃないの?」


星奈がそういうと、オーエンスはハイハイ、というように頭を下げた。


「お隠しになるのは致し方ありません。しかし幾多の戦場で鍛えられたこのオーエンスが見誤るわけはございません。あの方はすべての戦いの采配をされています。しかも見事に。だんだんリューリケンが弱ってきています」


たしかにあの巨大なモンスターは弱ってきているようだ。


「しかし強くても魔法の力を得なければ、リューリケンは倒せません」

「へー、そうなんだ」

「魔物は魔力で活動します。その魔力の元を断ち切らない限り、いくらでも再生します」

「えー、そうなんだ。じゃあ、あたしがやっつけたジルバットやハイエーンは?」


「見事に元を撃ちぬいておりました」


アレクがため息交じりで捕捉した。


「しかしリューリケンは図体が大きい分、魔力の元も体のあちこちに分散されて」

「終わったようだよ」


オーエンスの言葉を遮るようにアレクが言った。


あれほど大きかったリューリケンは切り刻まれていた。あとにはキラキラ光る石のようなものがあった。


「素晴らしい魔石です。どうぞお取りください」


オーエンスが義経たちに言った。


「いらん」

「へ?」

「そんな石など、いらん」


戸惑うオーエンスにアレクが捕捉して言った。


「その石はただの石ではありません。魔力を貯めたり使ったりする高価なものなのです。とくにリューリケンのものですと、大変貴重に」

「高価?」


義経の目が光った。


「それはどのくらい高価なのですか?」


オーエンスは真剣に換算している。


「おおざっぱですが、リューリケンの魔石一個で兵士千人を十年は養える計算になります」


義経はにんまりと笑ってオーエンスに言う。


「じゃ、さ。ここで集めた魔石を君たちと半分こしよう。それであそこの人たちの面倒を見てよ。どこかの土地を買ってさ、村作って耕して。しばらくは収入なくてもやってけるようにして」


「で、できないことではありませんが、それは御領主さまのお許しがなければ」


「わかった。じゃ、行こう」

「はあ?どちらへ」

「決まってるだろう?その、御領主さまのとこだよ」

「はいいいいい?」


義経はにんまりと笑うと、その場にいる全員に言った。


「ここで得た魔石はわれわれと守備隊の兵で公平に分けることになった。オルンテールの人々はこのルーク砦守備隊の人とともに行き、今後の土地、村の建設に働いてほしい。その費用はその魔石で賄う。われわれはそれを認めてもらうよう、ここの領主にかけあうつもりだ」


「そんなたいへんなこと、できるわけないわ」


ルナが言った。大変な思いをして、みんなを何とか守ってきた、ルナはそんな大変さを身をもって知っているのだ。父や母や仲間を人質にされ、ひとり時空を超えさせられ、嫌な仕事をさせられてきたのだ。人を裏切る、という最も嫌な仕事を、だ。


「できますから」

「な、なんでそんな」

「こいつがいますから」


義経はぐいと星奈を引き寄せた。


「こいつがオルンテールの人を救ったよね。みんな時空からこいつに引っ張られて、いろいろ助かったよね」


「まあ、そうだな」

「いえてる」

「義経さまがそういうなら」

「あたしは今の生活が楽しい」


弁慶、総司、静、ジャンヌ、なんかありがとう。星奈はちょっと涙目になった。


「そういうことだから」


「まあ、認めないこともないですよね」


ルナの目から大粒の涙がこぼれた。


「しかし、面倒なことになった」


べルツェルン国第二騎士団、ルーク砦守備隊隊長の正騎士、オーエンス・ファンダールは大きなため息をついた。


「しょうがないですよ。鎌倉武士は、面倒を起こすのが仕事なんですから」


そう言う星奈を呆れたように正騎士、アレキジニーネス・フォーリエンが見つめる。





ついにファンタジーの世界に到達してしまいました。それにしても義経さん、世界征服というより滅亡させているようです。

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