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ワールド・ジャーニー  作者: ノリと勢い
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十六話 其の六

 残っている敵の数は不明。敵の力量も不明、その上、こちらはリホノを守らなければならない。彼女の腕前をゼンは知らない。彼女の話を信じるのであれば、素早さと身の軽さはそれなりのものらしい。

 ゼンとしては、リホノには隠れていて欲しかった。例え、彼女の力量が彼以上であったとしても。

 ゼン一人であれば、何も気負わずに、ただ戦うことができる。それが、一人守らなければならない人がいるだけで、精神的な負担がぐっと増えた。いつも握っているはずの刀が、重く感じる。普段であれば、自身の腕と同じように触れるはずの刀が。

「本当に来るんだな」

 ゼンは改めて、リホノに尋ねる。

「自分の村ですもの。

 自分で守るわ」

 リホノの決意は固い。それは、目を見るだけでも伝わってくる。ゼンは過去にもこの様な目をした者を見たことがある。その誰もが、自身の決意を曲げなかった。

「死ぬなよ」

「そっちもね」

 二人は進みだした。ゼンはクロスボウを、リホノは剣を取り出している。既に彼は次のボルトを装填した。いつでも発射できる準備だけはできている。

「ところで、何か作戦はあるの?」

「殺られる前に殺る」

「それだけ?」

「それだけだ」

 リホノは呆れた顔でゼンを見る。彼女からすれば冗談の一つでも言ったかと思っていたが、彼の顔は至って真面目だ。冗談を言う顔ではない。

「こっちに来て」

 リホノはゼンの裾を掴み、引っ張る。

「どうした」

「こっちに秘密の抜け道があるの。高さもあるから、村を広く見渡せることもできる」

 ゼンからすればありがたい情報だ。敵の数もわからない状態で乱戦に持ち込むのは得策ではない。まずは、敵が何人いるかを把握することが先決だ。

 リホノの後を追い、ものの僅かな間に目的地に到着した。家の隙間をくぐり、辿り着いたのは資材置き場と思われる建物だ。外見は綺麗とはお世辞にも言えない。塗装も所々が剥げている。彼女の言った通り、他の家屋と比べ少し高い場所に建てられていた。

「ここよ」

「伏せていろ。

 その図体じゃ、すぐ気づかれる」

 既にゼンは身を屈めている。その姿を見て、リホノも急いで身を屈めた。

 ゼンの目は既に七人の賊を確認していた。

「二、四人はいるね」

「七人だ」

 ゼンの目は既に七人の敵を補足していた。残る七人の内に軽装備の者はいない。全員が大層な武器を持っている。中にはゼンと同じ様にクロスボウを腰に携えている者もいた。

「それでどうするの?」

 隣からリホノが小声で話しかけてきた。彼女は未だに自分が見つけていない四人を探すのに必死になっている。

「一人ずつ始末していく」

「どうやって?」

「お前はここにいてくれ。

 手を汚すのは俺だけでいい。俺の近くに敵が近づいてきたら、手でも振ってくれ」

 ゼンは腰を低くしたまま来た道を戻ろうとする。

「ちょっと!」

「頼んだぞ」

 背後から声がしたが、ゼンは振り返らない。先程の場所から、凡その位置の見当は付いている。それに今の彼は一人ではない。一人と一匹が味方にいる。

 ゼンは敵からもリホノからも視覚にある路地に入る。路地に入った瞬間、上からエアが下りてきた。

「今、村の中にいるのは七人だけか」

「うん。

 ここから遠く離れた所には、もっと一杯いたけど、動く気配はなさそう」

「――そうか」

 ひとまず幸いなのは、敵の数が増えていないことだ。村の外にいる連中のことは後回しでいい。まずは、村の中にいる七人を始末する。

 ゼンは路地から出ると、リホノのいる方角を向く。彼の向いた方向に彼女はいた。身を屈めながらも、手を振っている。彼のいる場所からでも彼女の姿は良く目を凝らさないと、見つけるには難しい距離だ。

 ゼンは返事代わりに自身も軽く手を振る。リホノは彼のその姿を見て、大きく絵を振ったのだが、既に彼の視線は別の方へと移っていた。

 いた、ゼンの視界に一人の男が歩いている。偵察の時点で、一番後ろでしきりに周囲を警戒していたが、後ろにまでは目が及んでいない。

まずは一人、ゼンは足音を殺しつつ、男に近づく。既にゼンの右手には愛用のナイフが握られていた。

男まであと二歩、一歩。ゼンは男の肩を持つと、一気に自身の方へ引き寄せる。男は反撃するどころか、何が起きたかも把握できていない。

男がゼンの方を向いたとたんに、男の口は防がれた。ゼンはナイフを握っている右手で、男の首元を刺す。

 男は声すら上げることができずに、死んでいく。ゼンは相手が絶命したことを確かめると、家の角に男の死体を隠した。

ゼンは男を隠すと、頭だけを角から出す。まだリホノの姿は見えている。向こう側にも彼の姿は見えているはずだ。まだ騒ぎは起きていない。まだ仲間が消えていることに気付いていない様子だ。それもいつまで続くかはわからない。今消した一人に関しては。

ゼンが最初に屠った二人に関しては、そう遠くない内に気付かれるはずだ。それまでに一人でも多く敵の数を減らすことが当面の彼の目標である。

 ゼンの次の目標は二人だ。偵察の時と同じ配置であれば、この先にいるはずだ。問題は、二人をどうやって始末するか、という点である。

 まだ騒ぎを起こされるには早い。可能であれば、声の一つすら漏らさずに二人を始末したいというのがゼンの考えだ。方法は幾らでもある。技量的にも彼であれば十分に可能な範囲だ。

 既に目標の二人は、ゼンの視界に入っている。郎党にしては、それなりの装備だ。武器や防具に血の汚れがない。加えて、手入れも施されている様子だ。肌を露出している面積も少ない。出ているのは限られた部分だけだ。その部分を狙って攻撃することもできるが、致命傷にまでには至らない。

 遠距離からの攻撃では一撃では仕留めることは不可能だ。ならば、採るべき方法は一つだ。近づき、仕留める。

 幸いなのは、二人とも別の方角を向いていることだ。歩いている方向は同じだが、それぞれ左右に分かれ警戒している。背後から近づけば、二人の視界には入らない。

 かと言って、一人一人に時間を掛けている余裕はない。的確に、且つ、素早く、仕留める必要がある。

 ゼンは足音を消しつつ、彼から見て右の男に近づく。未だ彼の気配に勘付いている様子はない。彼は男の首に手を伸ばす。彼の腕は完全に男の首を締めあげている。

 ゼンは男を宙に浮かせ、抜け出せない様に一気に締め上げる。首を締めあげているため、男は声を上げることすらできない。男の必死の抵抗で肘鉄が彼の体に直撃する。

思った以上に抵抗が強い。このままでは反撃の音でゼンの存在が露呈してしまう。彼は体の痛みなど意に介さず、更に強く首を絞める腕に力を入れる。

 徐々に男の体から力が抜けていく。もうじきにこの男は事切れるはずだ。

「おい、何か異常」

 突如、もう一人の男が振り返った。男の視界に入ったのは、死にかけている仲間の姿だ。背後には仲間を締め上げている見ず知らずの不審な人物が立っている。

「誰だ!」

 ゼンの姿を見られてしまった。最早、目の前の男を消したところで、騒ぎは収まらないだろう。時間が経てば経つほど、状況は彼にとって悪化する一方だ。こうなった以上は隠密行動を続けることは不可能だ。

 目の前の男がクロスボウを引き抜いた。引き金には、既に指が掛かっている。

 ゼンは即座に締めている腕の力を抜き、男を放した。息を吹き返したかに見えたが、男は仲間からのボルトで息を引き取ってしまった。

「――きさ」

 男が声を発する前に、ゼンは動き出していた。クロスボウの装填には時間が必要だ。彼ならば、相手が再装填するまでの間に一撃を叩きこむことができる。

 男の視線が下がった、ボルトの再装填のために。ゼンから視線を逸らした。彼がその隙を見逃すわけがない。機を見つけた彼は一気に距離を詰める。

 次に彼が目にしたのは、白刃だ。勿論、刃を向けているのはゼンである。

 男はクロスボウを構える途中で、獲物を腰に差しているナイフに差し替えた。男がナイフを構える前に、ゼンの刃が男を斬った。仮にそのままクロスボウを構えていても、結末は変わらなかったであろう。

「音がしたぞ!」

「急げっ」

 遠くから足音が聞こえてきた。敵は、少なくともあと四人はいる。四人を同時に敵にするのはゼンにとって分が悪すぎる。

 ゼンはリホノに向かって手を大きく振る。“逃げろ”と口で伝えたかったが、仲間がいると連中に勘付かれたくない。彼女も今の状況は察しているだろう。

「伝わってくれよ」

 ゼンは駆け出した。大まかな地形は把握しているつもりだ。少なくとも、地の利はこちらにあると彼は信じたかった。


「いたか?」

「どこにもいねえ」

「そんな訳あるか!

 この村を焼き払ってでも見つけ出すぞ」

「そうだ!

 見せしめに何人か殺せば出てくるだろ」

 四人の男たちが怒鳴りあう様にして話している。男たちが目にしているのは仲間の死体だ。

 四人とも仲間の死に対し怒っているのではない。次は、いつ、どこで誰が死ぬのか。その不安が怒りとなって表れているのだ。屋根の上から、ゼンが見下ろしているとも知らずに。

「四人か。どう始末するかな」

 残る四人は今までの様に簡単には仕留められないだろう。向こう側も姿の見えないゼンに対して警戒している。四人という数の利を生かし、四人一組で動いている。

 四人が背中を合わせ、隙が無いように周囲を見ている。どこからゼンが現れても、一人で対峙することはない。即座に一対四の戦いになる。

 ゼンの頭の中には二つの選択肢があった。一つは、四人を分断することだ。もう一つは、一撃離脱を繰り返すものだ。安全策を取るならば、間違いなく前者だ。後者は危険を伴うが、確実に戦力を削ることができる。

 ゼンが気にしているのは数の問題だけではない。時間の問題もある。このまま残っている四人が、彼に固執し続けるとは限らない。いつ、村の外にいる仲間に応援を頼みに行っても不思議ではない。外にいる連中が参戦すれば、本当に彼一人では手に負えなくなってしまう。

「危険だがやるしかないか」

 ゼンは決意を固める。危険な賭けにはなるが、一撃離脱で数を減らしていくしかない、という考えに彼は至った。

 ゼンが姿を現せば、残る連中はゼンを追跡するのに必死になるはずだ。


「いたぞ!」

 一人が声を上げた。男の目線の先にはゼンが立っている。彼は家と家の間の狭い通路に立っていた。男の視線に入った途端、彼は走り出した。賊からすれば逃げた、と思われるように。

「逃がすか」

 男のクロスボウからボルトが射出される。ボルトはゼンに当たらず、家の壁に命中した。

「追え!」

 ゼンを追って四人が走り出す。ゼンがいた道路は狭く、横に三人はおろか、二人も並ぶことができない。そのため一人ずつ縦に並ぶ形になっている。

「ここだ」

 ゼンが曲がった角に最初の一人が辿り着いた。辿り着いた先には、ゼンが刀を持って待ち構えていた。

「てめっ」

 言葉よりも早く、ゼンは刃を振り下ろした。


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