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ワールド・ジャーニー  作者: ノリと勢い
73/117

十三話 其の七

「イド?」

 もう聴くことのできないと思っていた声の元へ、イドは進む。いつも少年を優しく受け入れてくれた存在がそこにいいた。

「――イド」

「……お母さん」

「あなた、イドよ。私たちのイドが」

 イドの母は、隣にいる夫の肩を叩く。夫は目の前の光景に驚嘆し、手に持っていた水瓶を落としてしまった。水瓶は地面に落ち、割れてしまった。中にはまだ水が残っており、地面に水が染みていく。

 イドは両親の元へ走り出す。少年の両親も子供の方へ駆け寄る。親子の間を邪魔する者はおらず、親子は感動の再会を果たした。

 親も子も、再び会えたことを心から歓喜し、涙を流した。もう二度と会えない、そう思っていた。それが、再び会うことができたのだ。

 三人で抱き合い、声が枯れ、涙が尽きるまで抱擁は終わらなかった。

「もう会えないと思っていた。

あなたがいなくなってから、ずっと探していたのよ。私だけじゃない、仲間の皆も」

「ああ。行く場所行く場所でお前の情報を求めたが、有力な手掛かりはないままで。

 そんな折に、連中に襲われて。もう駄目だと全てを諦めかけていたんだ」

「ごめんなさい。ごめんなさい。

 心配かけて、みんなの前から姿を消して。みんなにいっぱい迷惑をかけて」

「いいのよ」

「いいんだ」

「あなたが無事で」

「お前が無事で」

 両親は同時に、同じことを言った。

 その言葉を受けて、イドはより一層泣き出す。今までは泣かぬ様に我慢していたが、それでも涙は溢れていた。

 両親の言葉を受けて、一気にイドの涙腺は崩壊した。一度崩壊すれば、後はただ崩れ行くのみだ。

周りの目も憚ることなく、三人は泣きじゃくった。それを止める者は、その場にはいない。

 その光景を少し遠くから見ている男がいた。男は踵を返し、村の入り口へと歩いていく。


「ところで、あなた。

 今までどこにいたの?」

「そうだ。

 お前ひとりでここまで来たのか?」

「いや、ゼンが一緒に」

「ゼン?」

「誰なの?」

「紹介するよ。ここまで運んでくれたのも、ゼンなんだ。

 待っていてね。すぐに呼ぶから。

 ゼン!ゼン!

 ゼーーン!」

 イドの声だけが響く。呼びかけに応える者はいない。イドは辺りを捜索し、ゼンを探す。

 どこにもゼンの姿はない。自分をここまで連れてきてくれた彼が。先程の場所に辿り着いても彼はいなかった。

「どこにいるの?

 その、ゼン、という人は」

「ああ。ぜひともお礼をいわなければ」

「さっきまでここにいたんだよ。

 僕をここまで連れてきてくれて。疲れたからここで休むって、本当だよ。

ん?あれは……」

 イドの目に一つの袋が映る。あれは間違いない、イドの物だ。ゼンとの旅の間で、イド自身が作った収納袋である。慣れない針仕事のため、形も不格好で外から縫い跡も見える。

「僕の袋だ」

 イドは自身の袋の元へ駆け寄る。一つ奇妙なのは、袋の中身が詰まっていることだ。

 ここに来るまでの道中で、水や食料も心許ない状況になっていたはずだ。イドの分は勿論、ゼンだって事情は同じだ。

 イドは自身の袋を開けた。中には数日分の食料と水、それに小包が入っている。小包は紐で括られていた。イドは固く結ばれた小包の紐を解いた。

 中には銀貨と金貨が入っている。イドが目にしたこともないような量だ。

「ゼン!ゼン!」

 イドの声が空に響く。


「よかったの?

 別れの言葉も言わずに」

 そう言ったエアの声は、涙汲んでいた。

「別れの言葉なんて言ったら、余計に別れるのが苦になるだけだ。

 それに、アイツには帰るべき場所があって、そこに帰ることができたんだ。

 アイツを待っている人もいる。俺とは違ってな。

 それだけで十分だろう」

 ゼンとエアは、村を出て歩き始めている。

「これでイドともお別れか」

「世界は広いんだ。

 旅を続けていれば、また会うこともあるかもしれんぞ」

「そうだね。

 また会うかもしれないよね。

 それに小さい子供を、こんな危険な旅に同行させる訳にはいかないしね」

「手のかかる奴を二人も世話するのは、二度とごめんだ」

「それって私のことも含んでいる?」

「お前以外に誰かいるか」

「セロとかは」

「セロはお前よりもずっと大人だよ」

「なにさ。歳だけで言えば、私がこの中で一番の年長者なんだよ。

 ゼンなんか、私に比べれば孫だよ、孫」

「そんなことより、重要な問題がある。

 さっき、イドに残り少ない食料と水を分け与えたから、俺たちの分がほとんど残っていない。

 節約して、あと二、三日ってとこだな」

「どうするの」

「できるだけ物の消費を少なくして、補給できる場所を探す」

「そんなの何とでも言えるじゃん。また行き当たりばったりなの?」

「いつものことだろ」

「そうだね。

 いつものことだね」

 ゼンたちは、次の目的地に向かって足を進める。


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