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ワールド・ジャーニー  作者: ノリと勢い
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八話・其の五

 太陽が昇る頃に一行は朝食をとり、再び歩き始めた。

 日中、エアが出てくることはなかった。ゼンの夜番のお供をしていたため、ポーチの中で寝息を立てている。

 この日も天気は良く、歩く分にはちょうど良い天気であった。空は快晴な一方で、4人の関係は曇ったままである。

 陽が真上に輝く頃には、一行は森の前までたどり着いていた。

「今のところは問題なしか……」

「いつまで続くかな。ずっと続けば文句なしだけど」

 四人は森に入る前に、休憩を取っていた。ミーネとレーパの様子に変わったところはない。疲れている様子はあるが、問題はなさそうだ。

「しばらくしたら、森に入るぞ。

 隊列は今のままで。俺が先頭、ハーディーが殿、二人は間。

 それと、レーパ。お前にこれを渡しておく」

 ゼンはそう言うと、レーパにクロスボウを手渡した。

「僕には撃てません、そんな物騒なもの」

「いいから持っておけ。いざというときに備えてな。

 それに、そいつで撃つのは人間だけじゃない。その日の晩飯もだ」

「晩飯?」

「ああ。都に帰るまで手持ちの糧食だけじゃ、どう考えて量が足りん。森から出るのは、入る以上に困難だ。食料のためだけに一々、周辺の村に立ち寄ることはできない。

 だったら、森の中で調達するしかない。そいつで狩るんだよ、生き物を」

 レーパは渋々、クロスボウを手に取った。

「そいつは簡単だ。目標に向かって、引き金を引くだけだ」

「僕が撃つより、あなたが使った方がより確実に仕留められるんじゃ」

「勿論、俺も狩るさ。道具はこれから作る。

さあ、行くぞ」

 ゼンたちは森の中へと入っていった。

 森に入ってからは少し速度を落としながら歩いた。ゼンは何度も後ろを振り返り、ミーネとレーパの姿を確認する。

 流石に道が少し険しくなってきている。ゼンたちに関しては何も問題はないが、間にいる二人は足を挫くことがないかが懸念であった。

 生い茂る木々によって日光が遮られ、まだ昼だというのに辺りは少し暗い。それに加え、湿気が多かった。額から、背中から汗がにじみ出てくる。

 しばらく歩くと、間にいる二人の息が切れ始めた。

「休憩するか」

「ま、まだ歩けます」

「そうだ。早く都に帰らないと」

「いいや、休憩だ。ハーディー、それでいいな」

「ああ。俺も休憩するのに賛成だ」

「休憩するぞ。二人とも水を飲んでおけ。

 ハーディー、二人の世話を頼む。俺は獲物を探してくる」

「晩飯までには帰って来いよ」

「すぐ戻ってくる。

 レーパ、悪いがウロスボウを貸してくれ」

 ゼンはクロスボウを取ると、森の奥へと消えていった。今まで進んでいた速度とは比べ物にならない程であった。


 ようやくミーネとレーパが一息ついた頃であった。

「おつ、戻ってきたね」

 ハーディーが指さす方にゼンはいた。先程は何も持たず三人の前から姿を消したが、目の前にいるゼンは何かを背負っていた。

「どうやら、何かを狩ってきたようだね」

 更によく見ると、ゼンの右手には曲線を描く一本の木の棒がある。太さは手で握れるほどの何の変哲もないものだ。

「よいっしょっと」

 三人のところに帰ってきたゼンは、背中に背負った動物を下した。動物の大きさはそれなりであった。恐らく子供と同じくらいの重量だろう。表面は毛皮で覆われており、鱗などはない。動物の腹にはクロスボウの矢が一本刺さっている。それ以外には目立った外傷はなく、眠っているようにも見える。

「これで肉が食える」

「二人ともよかったね、休憩が伸びそうだ」

「じゃあ、そっちは任せた。

 今度はこっちが休憩の番だ」

「任せてくれよ。今日は肉が腹いっぱい食えるぞ

 今日食えない分は保存しておけば、数日は持つしな」

「それで力の付くもんを作ってくれ」

 ハーディーは慣れた手つきで動物を解体し始めた。ゼンもその光景を見ていたが、ハーディーの手つきはゼン以上である。ゼンも何度も動物の解体を行ったことはあるが、あそこまで素早くは解体できなかった。

 ハーディーの手元は迷うことなく、水が流れるように淀みなく動いている。ナイフで厚い毛皮を紙のように切り裂いていく。

 ゼンはしばらくハーディーの作業風景を見ていたが、途中から手ごろな石の上に座る。ゼンは手に持った木の棒をナイフで加工し始めた。

「何をしているんです?」

 ゼンに声を掛けてきたのはミーネであった。

「レーパにクロスボウを貸したから、代わりの武器を作ってるんだ」

「やっぱり、クロスボウをあなたが使った方がいいんじゃ。その武器は僕が使いますよ」

「言っておくが、そっちの方が使いやすいし、狙いやすいぞ。

 弓矢は力もいるし、的に当てるのにもそれなりの練習がいる。お前の場合、まずは体を鍛えるところから始めないと」

「クロスボウでいいです」

「それがいい。そら、返すよ」

「お前たち、そろそろ行くぞ」

 ハーディーの声がした。ゼンたちが振り返ると、既に解体作業は終わっていた。獲物の皮を使った即興の袋に肉を詰めて、持ち運びやすいようにされている。

 しばらく休んだ甲斐もあり、そこからは休むことなく四人は進んだ。先日と同様に陽が完全に沈み切る前から、寝床の準備に取り掛かる。

 夕食の準備は引き続きハーディーが担当することになった。材料は勿論、ゼンが狩った動物の肉だ。ゼンの願望は、焼いた肉を口一杯頬張ることのできる料理である。が、その願いは叶わなかった。

 ハーディーが用意したのは鍋であった。

「ゼン、悪いが水を汲んできてくれ。

 お前のことだ、水のある場所もおおよその見当がついてるんだろう」

「わかった。あの二人はどうする?水浴びでもさせて、気分転換でもさせるか」

 ゼンとハーディーの後ろにいる二人は、ずっと座ったままである。体に異常はないが、とにかく疲労が溜まっていた。レーパに至っては、船をこいでいる。

「体を洗うのは明日でいいだろう。今行くよりも、朝一で行く方が気分も爽快になれるしね」

「そうだな。じゃあ、行ってくるわ。

 あと、肉はそのまま頬張りたいんだが」

「お前の分は別に取ってあるよ。

 あの二人に肉塊を食うだけの元気はないだろうしね」

「それもそうだな

 じゃあ、行ってくる」

 ゼンは再び三人の前から姿を消した。ミーネとレーパはゼンが居なくなることに対して何も言わなかった。何かを言う元気すら残っていない。

 ゼンが返ってくるのは想像以上に早かった。先の単独行動により、ゼンは水流の位置を予測していいた。そのため三人が考える以上に早く帰ってきた。両手に水の入った袋、背中にも大きな袋を背負っている。

「さすが~、早いね」

 両手、背中に荷物がある状態でもゼンの動きは素早かった。それに息も切れていない。平坦な道ならともかく、凹凸のある険しい道を荷物を持った状態で動けるというのはゼンのなせる業である。

 ハーディーが同じ状態で同じ道を踏んだとしても、ゼンのように素早く動くことはできないであろう。

「じゃあ、俺は工作の時間に移るわ」

 ゼンは視界の端に移ったミーネとレーパを見る。二人とも仲良く寝ている。その方が余計な気を使わないため、ゼンにとっても有難い。

 ゼンは昼間に拾ってきた木の棒を手に取る。様々な方向に伸ばし、強度を確認する。腰のナイフを抜き、棒を削り始める。その作業はしばらくの間続いた。

 しばらくすると、ゼンの背後から空腹を刺激する香りが漂ってくる。一日中、動いているゼンからすればたまらない風味だ。作業をしているが、意識は完全に料理の方へと向かっている。

「おい、起きろ」

 集中力を保てなくなったゼンは、作業を中断した。これ以上、空腹のまま、後ろの香りを無視して工作するのはゼンにとって無理であった。

 ゼンに揺さぶられ、二人は目を覚ます。まだ疲れが抜けきっていないのか、二人はまだ気怠そうだ。

 そんな二人の目の前に出されたのは、肉と野菜がふんだんに入った鍋である。二人の表情が一気に曇った。寝起きに鍋一杯に入った腹に来る食べ物だ。二人が強張っても不思議ではない。

「疲れていても食え。そうしないと明日も歩けないぞ」

「そうそう。このゼンを見習いなよ。鍋に加えて、買った動物の肉も食うんだぜ

 ほら、要望の肉だ」

 ハーディーが差し出したのは肉塊であった。肉塊、そう表現するしか他なかった。ゼンはその肉塊に一直線に齧り付いた。獣のように、鋭い歯で肉を口の中に放り込んでいく。その勢いは衰えることなく、徐々に肉塊は小さくなっていく。

「本当に焼くだけでよかったのかい?少しくらいなら味付けもできたのに」

「十分だ。こうやって肉に頬張れる。それだけで。

 二人も見ているだけじゃなくて、口を動かせよ」

 その光景を見ているだけで、ミーネとレーパは腹が膨れそうになる。

 それでも二人は口を動かし、食べ物を意の中へと送り込んでいく。意識は食べたくないと叫んでいるが、それでも意識を追いやり無理やり口に放り込んでいく。

 そうしないと明日、明後日と続く旅路に耐えられない、それだけの思いで二人は食べていく。料理の味は文句なしで、それが数少ない救いであった。

 二人にとっては苦しい時間である食事も終わり、あとは寝るだけだ。今晩はハーディーが先に見張りをする番だ。二人は晩飯を食べるとすぐに寝てしまった。ゼンもすぐに就寝の準備をする。

「じゃあ、また起こしてくれ」

「また夜食でも作っておくよ」

 ゼンにとって久しぶりであった、誰かとともに睡眠を共にするのは。師を失ってからは一人で暮らしていた。旅に出てからも、誰かとともに動くということはなかった。普段であれば目を閉じれば、すぐにでも寝つけるのだが、この日はなかなか眠ることができなかった。

「交代の時間だよ」

 気づけば、ハーディーがゼンの横に立っていた。

「不用心だな。お前がそこまで深く眠るなんて。

 それも、外で。こんな信用できない奴がいる横で」

 ハーディーの言う通りであった。

 外で、しかも追手がいるかもしれない状況で、ゼンは想像以上に寝ていた。

 昨晩はこれほどまでに熟睡していたわけではない。疲れもまだ溜まってはいない。なぜここまで深く眠っていたのか、ゼン自身にも理由は不明である。

「じゃあ、俺は寝るから。後はよろしく~」

 それだけを残すと、今度はハーディーが眠りへと入った。

 ゼンの頭は冴えているものの、心にわだかまりが残ったままである。頭が冴えている分、先の失態にどうも心が落ち着かない。

 こういう時は単純な作業をする、それがゼンの一種の回復方法だ。昼の作業の続きを行う。

 目の前には焚火があるだけで、周囲は暗闇だ。今日に限っては、エアも起きてこない。一人で自己と向かい合うには、もってこいの状況だ。

 木の棒をナイフで削る。それだけの作業をゼンは淡々と行う。何度も形状を確認しては、細かい部分を調整していく。その行為は幾度も続いた。

「こんなもんか……」

 ゼンの行為はようやく終わった。その頃には、既に少しだが明るくなってきていた。

「弦は、確か」

 ゼンは立ち上がり、セロの下を訪ねる。何個もぶら下げている袋の一つに手を入れ、弦の元になる紐を手に取る。

 手にした紐を棒に括り付け、即席の弓が完成した。矢はクロスボウのものを流用すれば問題ない。それでも足りなければ、木の枝などでも作成することができる。

「よし……」

 ゼンの小さな、小さな声がふと漏れた。

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