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超能力とオンライン  作者: 伊藤隆司
「全ての始まり」
11/28

11話「夕夏side」

 ガタンゴトンと揺れた体に気が付いて目を覚ました。最初はベットが揺れるなんておかしい。お兄さんの仕業かな?と思ったが、周りを見渡してみると、そうではないことが分かった。両手を後ろ手に縛られ、立つことすらままならなかった。縛られた手を解こうと頑張ってみたけど、解くことはできなかった。心配になり、周りをもう一度見渡してみても暗くて何も見えない。

 なんで?どうして?

 と、頭の中を疑問が巡る。

 するとここで、見えない暗闇から声を掛けられた。


「誰かいるんですか?」


 どうやら、私以外にも人がいるみたい。

 でも……この声、何処かで聞いたような……。


「村の子供だよね?」


 私は聞き返す。

 少しの沈黙の時間があったけど、返事はすぐに帰ってきた。


「その声……お姉ちゃん?」


 どうやら、私の予想は当たっていた。

 昼間、お兄さんが猟に行っていた時、一緒に遊んだ白い髪の毛の女の子の声だ。名前はたしか……って、そう言えばこの村の人は名前を持たないんだってお兄さんが言ってたんだった。この子も名前を持ってないのかな?だとすれば可哀想だ。名前も付けてもらえないなんて。

 でも……お兄さんもその話を知っていたんだよね。お兄さんが何もしていないなんてあり得るのかな。あんな性格のお兄さんだけど、根は優しい人なんだ。そんなお兄さんがこの話を聞いて何もしないわけない。何の根拠もないけど、私はそう思っていた。


「お姉ちゃん。暗いから怖い……」


 白い髪の女の子は、私に相談するようにそう聞いてきた。その声は確かに怯えるように震えている。正直に言って私も怖くないことはない。でも、この子が怖がっているのに私が支えてあげないのはあまりにも薄情だと思う。もし、この場にお兄さんがいたら、お兄さんは何の迷いもなく私たちの心配をしてくれるだろう。でも、今はいない。だったら私がお兄さんの代わりを務めなくちゃならない。

 だから、少しでもこの子の恐怖心を和らげるようにしないと。私にはそれしか出来ないから。「大丈夫だよ」と声をかけると、「うん」と小さな声で返事をしてくれた。

 私は声のした方に、手探りでその子を探すことにした。床が揺れる中、私は四つん這いで前に進む。

 すると、手に冷たい物が当たる感触がした。


「きゃっ!」


「ごめん!私だよ」


 いきなり、暗闇で体を触られたら私でも声を出してしまう。私はすぐに謝る。

 触れた手に、もう1つの手の感触があった。

 その手は最初は怯えていたものの、すぐに私の手を握り返してきた。その手はとても冷たい。私はその手を両手で握りしめ、温めるように私の胸に当てる。白髪の女の子も両手で握り返す。体を寄せ合い、温め合うと、何故か心地よい温かみに包まれた気がした。

 私はお兄さんじゃないけど、真似をして冷静に分析することにした。

 多分、私達は誘拐されちゃったのかも知れない。手を縛られているからね……。

 でも、それだけしか分からなかった。お兄さんならもっと色んなことが分かってたんだと思うけど。私にはそんな力はない。


「大丈夫だよ」


 そうやって言葉をかけることしか私に出来ることはないから……。

 でも、今絶対に確信していることが1つだけある。それは、お兄さんは絶対に助けてくれる事。それだけは信じられる。


「お姉ちゃんって、春夜さんがお兄さんなんですよね?」


「あれ?お兄さん、貴方に名前を教えたの?」


「うん」


 あれほどお兄さんは名前を教えてはいけないと注意されていたのに、何でだろう?


「それに、私にユリアって名前を付けてくれたんだ。本当は人に教えちゃダメって言われてたけど、春夜さんの妹さんだったら大丈夫かなって思って」


 初耳だなぁ。

 まさかお兄さんが自分の名前を教えたのだけでなく、人に名前を付けているとは思わなかった。

 と同時に安心した。やっぱりお兄さんは優しかったって思えたから。名前を付けることが出来ないなんておかしいとお兄さんはきちんと思っていたんだ。だから、少し安心した。でも、それを私に教えてくれなかったのは少し残念。私はお兄さんに信頼されてなかったのかな?もしそうならそれも残念。

 お兄さんが名前を教えたんだったら、私が教えても問題は無い。


「それじゃあ、私の名前も教えよっと。私の名前はね……夕夏って言うの。私のことは夕夏でいいからね、ユリアちゃん」


「はっはい。夕夏お姉ちゃん」


「違うよ。なんか恥ずかしいなぁ。夕夏でいいって」


「ゆ、夕夏……お姉ちゃん」


 うーーん。やっぱり無理強いはしない方がいいのかもね。呼びたいように呼ばせてあげればいいよね。呼び方なんて、私にこだわりは無いしね。

 いつのまにか、ユリアちゃんの手も温まってきた。あれだけ震えていたのに、いつしかその震えは収まっている。それはもう怖くないってこと。それか、怖いことをただ忘れているかも知れないけどね。

 お兄さんは超能力者だから、こんな状況もなんとかするんだろうな。

 私の職業は光の……そうだ!光だ。私は光の精霊術師だった。この暗闇をなんとかできる。

 私は集中して、精霊を呼ぼうとするがいくら呼んでも、呼べない。それじゃ、今度は魔法を使ってみようと、小さく「ヒール」と呟くと、私の手の周りが少しだけ光って消えた。その流れで精霊に心で「お願い」と声をかける。すると、小さく薄く私の手が光った。


「すごぉーーい」


 ユリアちゃんが興味津々に見てくる。

 ちょっぴり恥ずかしいけど、これで光は灯す事が出来た。あとはお兄さんが助けてくれるのを待つだけ。

 そういえば、お兄さんに教えてもらったおまじないがあったな。


「ねぇ、ユリアちゃん。お兄さんから聞いた、恐怖心が無くなるおまじないを教えてあげるよ」


 私がまだ小学校低学年、ちょうどユリアちゃんと同じくらいのある日、私とお兄さんは家で2人きりだった。その日の天気は雷雨だったから、雷が次々となって、家は停電してしまった。その怖さで私は大声で泣いてしまった。その時に私にお兄さんが教えてくれた怖く無くなるおまじない。


「ユリアちゃんが今1番怖い物か嫌いな物を思い浮かべて……」


 覚えてはいないけれど、あの日の私はここで雷を思い浮かべたんだと思う。


「浮かんだ?」


 ユリアちゃんは頷く。


「じゃあ、それを食べて」


 ユリアちゃんは首を傾げた。

 覚えてはいないけど、あの日の私も似たように首を傾げたと思う。だって今でも食べる意味が分からないんだもん。でも、それは結局関係ないんだけどね。だってお兄さんのこのおまじない。どちらかと言えば、人を3回飲み込む。みたいな心理的な事ではなく、普通に力技だからね。


 パァァン


 と、ユリアちゃんの前で手を叩く。

 ユリアちゃんは驚きのあまり、声も出ていなかったみたい。

 お兄さんが言うには「恐怖心は恐怖心でかき消せる。ある恐怖心にそれ超える恐怖心を与えてやれば、怖くなくなる」らしい。その言葉通り、雷に怖がっていた私はそれ以来雷が怖くなくなった。それは本当におまじないだった。

 食べる行為の意図は、よりある恐怖心を深めさせる為らしいけど、いつもそれがよく分からない。

 そして、お兄さんがいる言うには「でも、これは2度は使えない奥義なんだ」らしい。

 確かに……同じ人に同じことをしようとしても、何をするか分かっているので驚かない。効果は半減どころではないからね。


「どう?怖くなくなった?」


 聞いてみると、ユリアちゃんは大きく頷いた。お兄さんのおまじないはやっぱりすごい。

 その時、いきなり乗っていた何かが止まった。

 誰かが歩いて横を通っていることが分かる。垂れ幕がかかっていて、見えなかったけど人だった。

 ここで、気が付いた。

 もしかして、さっきの手を叩く音を聞いて様子を見に来るんだ。

 小声でユリアちゃんに語りかける。


「ユリアちゃん。急いで寝たふりして、何があっても起きちゃダメだからね」


 ユリアちゃんは頷いて静かに横になって、目を閉じた。私も元いた場所に戻り、手の精霊に礼を言って光を消してもらった。私も横になって寝たふりをする。すると、垂れ幕がめくられた音がした。すると、光が入ってきた。どうやらランプを持っているらしい。それから会話する声が聞こえてきた。


「なんか、聞こえたって本当かよ。2人ともまだ寝てんじゃねーか」


 1人の大人の男の人の声が聞こえた。

 ちょっとだけ、お兄さんである事に期待したけど、ダメだったみたい。

 すると、もう1人の大人の男の人の声が聞こえてきた。どうやら2人組らしい。


「おっかしいな。聞こえたんだけどな」


「なんだお前、ついに頭だけでなく耳まで悪くなったのかよ」


「うるせーよ」


「コイツらも、いつまで寝てんのかな。こんな危機だってのによ。起きてんじゃねーか?」


 ドキッとした。

 でも、私はグッと声を堪えた。

 薄く目を開けて、ユリアちゃんを見てみるとユリアちゃんも声を出すことを我慢していた。


「ま、そんな訳ねぇか」


 そう言って、男の人の声はしなくなり、また同じような暗さが私たちを襲った。

 そして、車体を揺らせながら再び出発した。

 慎重に目を開け、体を起こす。

 先程消してしまった精霊の光をもう一度照らす。今度は簡単に灯す事が出来た。

 ユリアちゃんの肩をトントンと叩き、小さく声をかけると、ゆっくりと目を開けた。ユリアちゃんは大きく欠伸をした。どうやら眠たいらしい。昼間に沢山遊んだもんね。


「夕夏お姉ちゃん。私たち大丈夫なのかな……」


 ユリアちゃんはとても浮かない顔をしていた。

 でも、あの時声を出さずに我慢をしていたからユリアちゃんはとても凄いと思う。とっても怖かったと思うけど……。

 でも、ここで私が悲観になっても悪い方向に進むだけだ。私には人の心を落ち着かせることしかできないから、それくらいは貢献しないと。


「大丈夫だよ。絶対にお兄さんが助けてくれる。私はね、それだけは信じてるんだ」


 これは、私の独白だ。

 実際には、お兄さんが助けに来てくれるのを願っているばかりだ。私はお兄さんに期待している。お兄さんは必ず来てくれると。それをずっと心に留めて自分の恐怖を押し殺している。それがなかったらとっくに頭のなかが真っ白になっていた。そうなってないのはお兄さんとユリアちゃんのおかげかな?

 ユリアちゃんもお兄さんを信じているのか、そんな顔をしていた。決して諦めた表情じゃない。その勇気が私の勇気も掻き立てる。ネガティブだった気持ちがだんだん楽になってきた。


「……大丈夫……大丈夫……」


 何度も、何度もそう言い聞かせた。

 ユリアちゃんに聞かせたい気持ちもあったけど、それでも、本当にこの言葉を聞かせたかったのは私自身にだ。それは少し間違いか、聞かせたかったのは私の怯えた心にだ。


「そうだね、大丈夫だよ」


 ユリアちゃんが無理に笑顔を見せて、そう言ってくれた。その笑顔はとっても私を救ってくれた。なんだか安心できる。この子にはそんな力がある。人を安心させることのできる、そう、私と同じような空気感を放っている。性格は正反対だけど、オーラがなんとなく似ている気がするんだ。

 もう一回、強く手を握り直す。

 子供の手は小さい。けど、暖かい。

 お兄さんと初めて手を繋いだあの日を思い出す。

 お兄さんは多分覚えてないだろうけど、私は鮮明に覚えている。

 遠くに行ってしまうのが、どことなく嫌だった。


「お兄さん……」


 暗闇の中で、少しばかりの光を見て私は少し寂しくなった。もうこのまま会えないのではないだろうか。そんなマイナスな気持ちばかりが頭に出てくる。


「夕夏お姉ちゃん大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ」


 いけない!私ったらこんな顔を子供の前で見せちゃうなんてダメダメだね。私は両手で自分の口角を上げる。そして最上の笑顔でユリアちゃんを見る。


「あれ?止まった」


 先程走り出したばかりなのに、この乗り物はまたすぐに止まった。でも、物音を立てた覚えはない。人差し指を口元に当て「しーーっ」とユリアちゃんに口を閉じるように言った。ユリアちゃんも両手で口を押さえて、声を出さないように気を付けている。

 私は光を消し、そーっと元いた位置に戻る。けど、幕は一向に開く気配がない。もしかして、さっきの人達は休憩に入ったのかもしれない。

 だとしたら今がチャンスだ。犯人達が休憩しているうちに逃げ出してしまおう。

 そう思い、ゆっくりと閉じていた垂れ幕を下から捲り上げる。


「やっぱり目が覚めてやがったか……」


 なんで!

 私の目の前には、私が起きていると言っていたあの大人の人が垂れ幕の向こうでこちらを見ていた、そのもう1人の大人の男は、火をつけた木の棒を持っていた。それ、名前なんて言うんだっけ?た……た、た、忘れちゃった?

 2人は私が出てきたのを見るなり、ニヤリと笑う。

 あ……あぁ……どうしよう………

 見つかってしまった。この荷台の上では逃げる場所もない。

 でも、2人の男の人は私を殺そうとしたり、少し言いづらいけど、私たちの体に興味を持ったりはせずに私たちの足をさらに縄で縛った。これで、私たちは身動き1つすら出来なくなったけどそれで良かったとも思った。体は無事なんだし。

 そうして、垂れ幕は閉じられ私たち2人は真っ暗闇に再び戻ることになった。

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