Re: 1
長文をどかんと書くより、短い話を書くほうが向いているので、その思いついた短編を長編にしたてる方法を実験しています。
どのくらいの頻度で更新できるかわかりませんが、ゆるーくお付き合いいただけたら幸いです。
“はて、どうしたものか。このままだと巷にきく「ポイ捨て」は必至だな。俺は底にわずかに酒を残した空き瓶となってしまった。俺の胴をむんずと掴み、でもそのわりには覇気のない歩き方をする中年親父が、とぼとぼ河原へ向かう。事情は知っているんだ、なんせ酒瓶だからな。おでん屋のベンチに腰を下ろして静かに大根に箸をつけ、ちびちびビールを煽る中年はだんだんと気持ちが高ぶってきたらしく、愚痴を延々と吐いた。聴き続けること2時間、まだ酒が少し残っているからなどと道理の通らない言い訳をし、ろくに酔うこともできずに俺を片手に店から出てきて、今。「どうしてこうなってしまったんだ……」それはこっちの台詞だ。俺は本来ならリサイクルの回収に出されて仲間と合流する予定だったんだぞ。こんな河原で無残に置き去りにされたいわけがない。突如、うぉぉという雄叫びとともに俺は投げ出された。嗚呼、思いは届かなかったか。宙に浮いてから着地するまでの時間、おとぎ話ならばいろいろと回想するんだろうが、ここは現実、重力はそんな余裕を与えなどしない。ゴトン、と砕けた。いってぇ。あーあ、割れちまったらリサイクルしてもらえねぇじゃねぇか。俺もここまでか。諦めて周りを見回す。瓶として生まれてこの方、こんな感覚は初めてだ。砂地にごろんと横になると、薮がこんなにもくすぐったい。川のささやきがからっぽの体に共鳴する。そして、上は――細い細い、切られ捨てられた爪のような白い月だった。散らかった数多の星から輝きを奪うことなく佇む、痩せた月だった。その初めて見た空に包まれて、俺はいつしか眠った。その後の俺の話か? 安心しろ、しっかりリサイクルしてもらえた。なんでも、交通事故で死んだ野良猫を弔うための花を生ける器として、俺は再利用されている。首をなくしたおかげで頭が広がり身長が低くなったのが好都合だったようだ。夜になるとまだまだ細い月が顔を出す。
よぅ、と花をゆらして挨拶する。月は優しく光を投げかけて、やっぱり優しく佇んでいる。”
湊に読ませて第一声。「これをコンテストに出すの? うわー、ないわー」
うるさいだまれ。自分の文章力を1番よくわかっているのは自分だもの。こんな猛暑日に、にクーラー完備の図書館に連れてきてやった姉に感謝するどころかぶちのめすたぁ、いい度胸をしている。
その時だった。
「けっこうよさげだけど?」
聞き慣れない声にびっくりして腰が浮いた。
「俺にもちゃんと読ませてよ、そうだ、メールで送っといて。はい、これメアド」
はい、につられてなんとなく受け取ってしまった。“Nkoyazawa@cc.world”と書かれている。
「小矢沢信房です、よろしくね、新人さん」
小矢沢と名乗る男は軽く手を振って、セミの鳴きしく炎天下へと出ていこうとした。
「ちょっと待って」
ぼんやりしていた私を湊の声が覚ました。
「ね、この“cc”って、なに?」
「また今度教えてあげる」
振り向きざまにそう答え、また前を向いて歩いて行く男からは、やけに記憶に残る爽やかな薄荷の香りがした。でもそれもすぐに外気の熱にかき消されて、あとに残ったのはメールアドレスの紙だけだった。