プロローグ
世界には今、人間と龍が生息している。
いや、もっと言えば植物もだ。
この世界の生き物達は一つ一つの個体に力を宿している。
力とは簡単に言ってしまえば何かを産み出すことだ。
例えば火を創り出したり、水を創り出したり、はたまたものを別の何かに創り変えたりと……。
何かを創りだす・創り変える能力を全ての生物が持っている世界で独りの少女は逆の、それこそ、全てを無にする能力を持っていた。
全てを無にする能力、それは決して創る・創り変える等の能力ではない。
例えば、全てを無にする能力と無になるように創り変える能力を比べてみてくれ。
1の値があったとすると、その1に全てを無になるように創り変える能力を使ってみるとしよう。
現象としては1に対しての逆の力、逆の性質をぶつけて無かったことにするのだ。
つまり1に-1をぶつけて0が出来るだろう。
だが、無にするように創り変える能力ということは何かを掛け合わせて創った物が0だから0=無ということだ。
この能力の場合、0が無と定義されてしまっているのだ。
ノートに鉛筆で何かを書いて消しゴムで消すことと一緒だ。
だけど、どんなに高性能な消しゴムでも鉛筆の跡まで消すことはできない。
無にするように創り変える能力はそういうことだ。
完全に1を無=0にした状態なので1の消した跡の0が虚数として残ってしまうのだ。
最も、対象を人間に例えるならば
その人間を無にする、つまり自分から見てその人間の姿を見えなくさせるように創り変えるのだ。
だから、能力を使ったところで自分が感知出来ない虚数空間にその人間は存在していることになる。つまり存在を消しても記憶には定着するのだ。
だけど全てを無にする能力はまず、定義、無=0が存在しない。
能力を使えば完全にその人間の存在は消されてしまう。
記憶にも定着することはなく存在事態が無かったことになってしまうのだ。
しかし、少女は自分の能力で消した人・生物のことを覚えている。
いつも、罪悪感に囚われてしまうのだ。
村の人は能力で消された人々のことは覚えていないが、荷物を届けようとしたけど誰に届けるか忘れてしまったことや、生活感のある家で誰が住んでいたか小さい村だから分かる筈なのに思い出せない、との矛盾等が生まれ最初は混乱していた。
でも、村の人々はそれが少女の仕業だと気づいていく。
何故なら消えた何かが必ず少女の痕跡を残していたからだ。
そして、村人は少女を忌み子と呼ぶようになった。
毎日、石を投げられ、唾を吐かれ、罵詈雑言。
だけど、石を投げられた少女は血を流すものの、傷はすぐ塞がり跡も残らない。
この事で村人達は本格的に恐怖し、少女を村から追い出した。
少女はその腹いせに村を……否、素直に村を出ていった。
少女にも感情はある。
誰が好き好んで人を消すものか。
それを楽しむ人はいるかも知れないが、少なくとも少女はその部類には入っていない。
村を追い出された少女はある程度、能力をコントロールできるようになったため無闇に人を消すことはなくなった。
だが、追い出された村には戻ることは出来ない。
だって少女が化け物だということは村人達が知っているから。