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僕と彼女のおとぎ話




 僕たちは、それなりに強力なモンスターである

デスオークを2体倒すことができた。


 だが、次もこう上手くいくとは限らない。

デスオークの群れや、もっと危険なモンスターが出てくる前に、

さっさとここから離れるべきだろう。


「いつまでもここにいたら、どんなモンスターが出てくるかわからない」

「だから、この森からさっさと出ようと思うんだけど……」


 と僕が提案すると、アヤもそれに同意してくれた。


「うん。そうだね。またデスオークが出てくる前に、ここから出よう」

「けど……いったいどこに行く気なの?」


「まずは、バルザール王国の中央街道を目指そうと思う。

この森を南に抜けると、2日ほどで中央街道に出る」

「中央街道はそんなにモンスターが出てこないところだから、

そこからアテルノまで帰るのがいいと思う」


「確かに、中央街道まで行けば、そう危ないことにはならないよね」

「じゃあ、とりあえずそこまで行こうか。その前に……」


 と言って、アヤは倒したデスオークが落とした魔導鉱石を回収した。

そういえば、デスオークは魔導鉱石を落とすんだった。

すっかり忘れてた……


 その後、僕らは帰り道に出てきたモンスターを倒しながら、

中央街道に戻り、そこからアテルノに帰ることができた。

大きなケガもせず、生きて帰れて本当によかった。


 そして、僕たちは今回の旅で得たアイテムを

武器屋などで換金して、冒険者ギルドに戻った。

すると、ギルドの職員(男性)が僕たちに話しかけてきた。



「ん?お前勇者の寄生虫じゃねえか。なんでお前だけ戻ってきた?

まだレオンは戻ってきてないのに」

「そう言えば、魔導師のお嬢さんも一緒だな。いったいどうしたんだ?」


 僕は、さて、どうやって説明してみたものかと考えていると、

僕のかわりに、アヤが簡潔に答えてくれた。



「私が勇者レオンに犯されそうになったところを、

アルバトロスが助けてくれたの」

「おとぎ話の、騎士のように!!!」


 アヤが指を突きつけて、どうだ!という顔をしながら説明してくれた。

するとギルドの職員は……


「はあ?勇者の寄生虫がそんなことするわけないだろ。

お前、何夢見てるんだ? 大丈夫か?」

と呆れた顔で答えた。


 そりゃそうだ。僕自身、あんなことが出来るなんて思ってなかった。

そういう状況になっても、何も出来ないと思っていた。

だから、そんな夢物語をギルドの職員が信じないのは当然だ。


「で、寄生虫、実際のところ何があったんだ?

やばいモンスターにでも襲われて敵前逃亡したのか?」

「まあ、お前なら敵前逃亡くらい平気でするだろうが……

ほんと、お前どうしようもないな」


 確かに、僕は仲間を見捨てて敵前逃亡をしてもおかしくない男だ。

デスオークに襲われた時も、アヤを見捨てて逃げだそうとしたしね。

だが、今回はそうじゃない。信じられないことだがアヤの言うことが正しい。

それをどう説明すれば、この人に信じてもらうことができるのか……


 そんなことを考えていると、まわりからヤジが飛んできた。


「おい!寄生虫! お前には恥というものはないのか!」

「敵前逃亡して仲間を見捨てるなんて、本当にろくでもないクズね」


「まあそんなクズはどうでもいいけど、レオン様は大丈夫なの?

レオン様がいないと私……」

「これだから寄生虫は……」


 とひどい言われようである。

まあ、僕は勇者の寄生虫に過ぎないし、そんなことを言われてもしょうがないか。

今までずっと、レオンに食べさせてもらってきたわけだし。


 ん?待てよ。今まで僕はレオンのおこぼれをもらって暮らしていた。

けど、今僕のご主人様であるレオンはいない。

と、言うことは……



「黙れえええええええっっっ!!!」



 僕の隣から、凄い大声が響いた。

アヤ?いったいどうしたんだ?

驚く僕を尻目に、アヤが津波のような勢いで語りだす。


「アルバトロスはね! レオンにひどい目にあわされそうになっていた私を、

救ってくれたんだよ!?」

「おとぎ話の、騎士さまみたいに!」


「この人が、騎士道を見せてくれなかったら、

今の私は暗い顔をして泣いてたんだよ!」

「アルバトロスは、私の騎士さまなんだ! それを! それを!」



「寄生虫よばわりするなあああっっっ!!!」



……………………


 ギルドを沈黙が包んだ。まさかこんなことになるとは

誰も思ってなかったのだろう。

僕もそうだ。寄生虫うんぬんの話から、

こんなことが起こるなんて思ってなかった。


 だって、僕の人生の中で、

僕のかわりに他人が真剣に怒ってくれたことなんて、

今まで一度もなかったのだから。


               

「アルバトロスはね……私に幻想(ユメ)を見せてくれたの」


               

「おとぎ話みたいな、素敵な幻想(ユメ)をね」

「だからね。この人は勇者の寄生虫なんかじゃないの」



 アヤの剣幕に押されて黙っていたギルドの職員が、ここで始めて口を挟む。

「勇者の寄生虫じゃないのなら……いったいこいつはなんなんだ?」


 するとアヤは……


「じゃあこの人はなんなのかって?

そんなの決まってるじゃない。この人は……」



「バルザール最後の騎士!!!」



……………………


 皆、アヤの言葉に何も言わなかった。

そりゃそうだろう。勇者のおこぼれをもらっていただけの男を

「この国最後の騎士」だなんて、大げさにもほどがある。


「……ねえ。おかしいと思う? アルバトロス、おかしいと思う?」

「う、うん。さすがにこの国最後の騎士というのは大げさすぎるんじゃないかな。

なんていうか、その、いろいろと」



「そんなことはないよ。アルバトロスも知ってると思うけど、

ドン・キホーテの中だけじゃなく、

この国でも騎士道という思想は廃れてる。時代錯誤な考えだよ」


「ただの貴族の儀礼としての騎士道はあっても、それ以上のものじゃない」


               

「けどあなたは、私に時代錯誤な幻想(ユメ)を見せてくれた」


       

「騎士道という幻想(ユメ)を見せてくれた」


「だからあなたは、最後の騎士にふさわしいんだよ」


                         

「けど、仮にそうだとしても、まだ僕はアヤにしか幻想(ユメ)を見せていない。

それなのに最後の騎士というのは、いくらなんでも大げさなんじゃ……」



「だったらさ、他の人にも幻想(ユメ)を見せたらいいじゃない」

「他の人にも?」


「そうだよ、この国には不幸な人、幻想(ユメ)を見たい人が大勢いる」

           


「その人たちに、素敵な幻想(ユメ)を見せたらいいんだよ」



「おとぎ話より、素敵な幻想(ユメ)を!!!」



 それは、あまりにも壮大な幻想だ。

僕なんかに出来るわけがないと思う。

けど、もしここにあなたがいたら、迷わずに、その道を進むのでしょうね。

風車に立ち向かう、愚かな道化師の道を。


 たいした力のない僕に、あなたの真似事が

どこまで出来るかわからないけれど……

キミとあなたがそれを望むのなら、僕もその道を進もうと思う。

最後の、最後まで。



「……わかったよ。僕もアヤの言うとおりだと思う」

「じゃあ……」


「けど、僕ひとりじゃ、その道を歩み続けることはできない。

最低でも、信頼できる味方がひとりはいないとね」

「アヤ……これは僕からのお願い、心からのお願いなんだけど……」

「その、ひとりになってくれるかい?」


「私でよければ……喜んで!!!」


 アヤは、決意に満ちたまなざしを僕に向けながら、そう答えてくれた。


 こうして、僕と彼女のおとぎ話が始まったんだ。



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