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僕は彼に素敵な幻想を見せられた




「マイ・ドンキホーテ……それはどういう意味?」


「そのままの意味だよ。あなたは私を救ってくれた。まるでおとぎ話のように」


「だから、あなたは私の騎士さまなんだよ」


「いや、そんなことはないよ。あれはたまたまそうなっただけ」

「たまたま上手くいっただけなんだ」


「だから、マイ・ドンキホーテなんて恐れ多いよ」

「恐れ多いって…… 」

「いいかいキミ。ドン・キホーテは …… 」

と僕がドン・キホーテの偉大さを語ろうとすると、

アヤが意外なことを言ってきた。


「アルバトロス、ちょっと待って。私の名前はキミじゃなくてアヤだよ」

「だから、私のことはアヤって呼んでほしいんだけど … … 」


 僕はちょっと考えた末、こう答えた。

「いや、それはちょっと …… 」


 するとアヤはむくれた顔をしながらこう言ってきた。

「なんでよ。私のことを名前で呼んだら、なにか問題があるの?」


「いやそうじゃないけどさ …… あのさアヤ、今まで僕が名前で呼んていた、

言いかえると呼ぶことを許されていた女性はユウコだけなんだ」

「だから、アヤを名前で呼ぶことは、ちょっと難しいかも ……」


 これを聞いたアヤは不機嫌な顔をして黙り込んだ。

その後、彼女は僕に指を突き付けながらこう吠えた!


「つまり!アルバトロスは私と名前で呼び合うような関係になりたくないんだ!」

「そうなんだね!」


 このアヤの剣幕に対して、

「いや、別にそんなことはないけど ……」

と僕が押されぎみになりながら言うと、


 さっきまで怒っていたアヤが急に笑顔になって、

「じゃあこれからは、私のことアヤって言ってねっ!」

と言ってきた。


 彼女の笑顔を見た僕は ……

もう、これはどうしようもないな、と観念するしかなかった。

そうして、僕が観念するのを見ると、

彼女は凄く幸せそうな笑顔で、さらにダメ押しの攻撃をしてきたのだ。


「私のワガママ聞いてくれてありがとね! マイ・ドンキホーテ!」

と。


 さすがの僕も、この言葉は見過ごせなかった。

ここで、きっちりしておかなくてはいけない。

僕はアヤの目をじっくりと見据えながら、はっきりと言った。


「いいかい、アヤ」

「アヤがどう思っているか知らないけど …… 」

「ドン・キホーテは、騎士の中の騎士なんだ」


「そんな、偉大な存在と同じように僕を呼ぶなんて、実に恐れ多い …… 」


 と、僕の正論を聞いたアヤは、すーっと僕に顔を近付けてきた。

な、なんだ? いったい何をするつもりなんだ?

と動揺する僕を尻目にアヤは ……


「いい、アルバトロス。私はあなたと違って

ドン・キホーテのことをよく知らないけれど、

ひとつだけ、わかっていることがあるよ」


「きっと、騎士の中の騎士であるドン・キホーテは、

私があなたのことをマイ・ドンキホーテと呼ぶことを

笑って許してくれるよ。ねっ?」


 そう言ってにかっと歯を見せて微笑むアヤに僕は、

「うん、そうだね」

と返すことしか出来なかった。


 僕だって、本当はアヤにマイ・ドンキホーテと呼ばれて嬉しいんだ。

だから、もうこれはこれでいいですよね?

騎士のなかの騎士、キホーテ卿……


「…………」

「…………」


 そうして、僕と彼女が、なにかいい雰囲気で見つめあっていると、

ある点に気がついた。


「ねえ、アヤ。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」


「いや、なんかさ、アヤ。初めて会った頃と感じが違うなって思ってさ」


「あの頃は、まだ他の人がどんな人がわからなかったし、だから……ねっ?」

といたずらっぽく微笑むアヤ。


 この微笑みを見ただけで、すべてを許しそうになってしまうけど、

それはそれ、これはこれ。

いちおう追及をしておこう。


「つまりアヤは、猫をかぶっていたってこと?」

こう指摘されると、アヤは


「うーん、べつに猫をかぶってたわけじゃないけど、

初めて会う人にいきなり素の自分を

見せるのはどうかなって思って」


 と、舌をぺろっと出しながら答えた。

なるほど。それはそうかもしれないな。と僕が一人で納得していると、

アヤが思わぬ反撃をしてきた。


「私が猫をかぶっていたのは謝ったほうがいいのかもしれないけど、

それはアルバトロスが言えることじゃないと思うよ」


「なんでさ」


「だって、はじめて会った時のアルバトロスは死んだ目をして、

どんな命令でも聞く、奴隷みたいな人だったよ」


「私その時、ああ …… この人、うわさ通りの負け犬なんだって思ってたもの」

「それなのに …… 」



「私のような女の子を救うのは、騎士の誉れだなんで言いだすんだもの!」

「私、目が点になっちゃったよ。何、この人? って思ったもん」


 それはそうだろう。あの時は僕も同じことを思ってたんだから。

まさか、あんなことが自分に出来るだなんて思ってなかったから。

だから、心からの気持ちを込めて、アヤにこう答えた。


「あの時は僕もそう思ったよ」

「アルバトロスもか!」


 アヤは笑いながらそう言った。

もし僕が、あの時何もしなかったなら、

きっと彼女は、今笑えていなかっただろう。

そう考えると、僕もうれしくなる。


 だから僕は、少しハイテンションになりながら、話を続けた。


「そうだよ。僕はレオンのパーティに入った時から。

僕と結婚の約束をしていたユウコが、

レオンのことをどんどん好きになっていってるのに、

それに対して何も出来なかった時から、

一生こういう灰色の人生が続くって思ってたんだ」


「アルバトロス……」


「けど違った!」


 自分の頭を指さしながら、僕は叫んだ!


「ある日僕の中に偉大な騎士が現れて、僕を見たことのない世界に

連れて行ってくれたんだ!」



「彼は僕に、素敵な幻想(ユメ)を見せてくれた」


「だから、僕たちは今ここにいるんだよ」

「わかるかい、アヤ」


 と僕は満足して語りを終える。

ちょっとハイテンション過ぎたかな、と僕が反省していると、

アヤが僕に答えてくれた。

こうやって、いい感じに明るい反応が返ってくるのは、ちょっと嬉しいな……


「うん。その気持ちわかるよ」

「だってあなたは、私に同じことをしてくれたから!」



「もうだめだと諦めた私の前に現れて、素敵な幻想(ユメ)を見せてくれたから!」

「だから私には、あなたの言っていることがよくわかるよ」

「だって私たちは、同じだから!」

「そうだよ……ねっ?」


 とアヤは僕に負けないほどハイテンションになって、

僕の語りに答えてくれた。

そんなアヤの言葉を、僕は素直に受け入れた。



だって僕とアヤは、誰かに素敵な幻想(ユメ)を見せられたもの同士なんだから ……




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