最後の騎士と勇者
「そこの6人! ちょっと待て! 戦うのをやめろ!」
「停戦だ! 一時停戦しろ!」
僕が声を張り上げると、戦っている6人の注意がこちらにそれる。
ここで誰かが横やりを入れてくるとは思わなかったのだろう。
「僕は、アルバトロス・コルトハート。バルザール最後の騎士だ!」
「この戦い、僕が預かった! だから、両者戦いをやめろ!」
「お前は……」
レオンがこちらに近付いてくる。
ユウコたちは、さっきまで戦闘していた他の2人と睨みあっている。
レオンがひとりで、僕と話したいということだろう。
僕も片手をあげて、レオンの方に近付いていく。
よかった。これなら、わりと冷静に話し合うことができそうだ。
上手くいけば、戦いが止まるかも……
ずしゃっ!
「……え?」
レオンの剣が、僕の腹を貫いていた。
「な、なんで……」
「騎士きどりのバカが、よけいな横やりを入れてくるんじゃねえよ。
あいつらと共に、ここで死んどけ」
レオンが剣を引き抜いて僕にとどめを刺そうとする。
こんなところで、僕は終わるのか……
そう思ったその時、僕の後ろから誰かがレオンに斬りかかってきた。
「死ぬのはてめえだよ!」
ドメラか……
「シエロ・オラシオン!」
シャルロッテの魔法で、僕のお腹の傷がみるみるふさがっていく。
けど、これだけの攻撃を受けたんだ。
もう僕は、ダメ……
いや、思ったよりダメージはない。
死ぬかと思ったが、内臓も含め、
そこまでのダメージは受けてないようだ。
愚かなる騎士道のおかげか?
「レオンになんてことするの!」
カステルが風のような速さで、ドメラに斬りかかる。
ドメラはそれを受けるが、さらにレオンがドメラの脇から襲いかかってくる。
ドメラは叫んだ。
「じょ、冗談じゃねえぞ!」
そこで僕は素早く立ち上がり、レオンの死角から攻撃を加える。
カキィン!
レオンのアーマーが、僕の剣をはじく、
しかし、レオンの注意を引くことができたようだ。
「まだそんな元気があるのか?さっきのは完全に入ったはずだが、
こいつ、物理法則を歪める能力でも持ってるのか?」
「アルバトロス、左に跳んで!」
僕は、アヤの声を聞いて左に大きく跳んだ。
「フォトン・キャノン!」
「なにっ!?」
白い光線が、レオンの体に直撃する。
この攻撃が直撃した以上、勝負あった……
「やってくれるじゃねえか……」
一度膝をついたレオンが、平然と立ち上がってくる。
こいつ、本当に人間か?
「まず、お前から殺すとするか」
レオンが、アヤの方を見ながら、ぶっそうなことを言う。
まずい、何が何でも攻撃を止めないと……
「いや、ここで死ぬのはお前だ」
その時、黒いショートヘアーの男が、レオンの背後から斬りかかってきた。
「しゃらくせえ!」
レオンが、それを振り向きざま受ける。
この男が誰なのか、僕は知らないが、
少なくとも、レオンを殺そうとしていることは間違いない。
となると、ここで僕がやるべきことは……
僕はレオンの足めがけて斬りかかった。
あのアーマーに守られた体にダメージを与えるのは難しいし、
面積の狭い首を狙うのも難しい。
だが、足なら傷つけることができるはずだ。
「くらえっ!」
レオンが謎の男と戦っている隙を狙って、
僕がレオンの足を切り裂いた。
さすがに切り落とすことはできなかったが、
ダメージを与えることは出来たようだ。
だが……
レオンの足が白い光に包まれたと思うと、
血がとまり、傷が癒えていった。
この魔法は、ユウコの魔法か……
相手は勇者レオン、がむしゃらに戦っても勝つのは難しい。
そう思った僕は、一度戦況を確認することにした。
勇者レオンにとって、最も信頼できる仲間であるカステルは、
大騎士ドメラが食い止めている。
カステルのカードである遍歴の騎士は、大騎士より強いカードのはずだが、
さすがドメラ、カステルと互角に戦っている。
こちらは、援護なしても当分の間持ちこたえると思う。
その後ろの方で、女帝エリザベートが、
謎の桃色ミドルヘアーの女性と戦っている。
こちらの方も、特に問題はないようだ。
そして、魔導賢者ユウコは、
もっとも後方で、魔法を使って味方を支援している。
向こうのパーティの中で最大の脅威であるレオンは、
謎の男と戦闘中だ。
レオンの方がやや優勢だが、
それでも持ちこたえているこの男も、
かなりの実力者なのだろう。
そして、アヤとシャルロッテは、後方で
僕たちの支援をしている。
となると、僕のするべきことは……
「シャイニング・ヴィンベルヴィント!」
シャルロッテの声が聞こえると同時に、僕の体が光に包まれる。
体が軽くなり、力がみなぎってくる。
よし、これなら僕も、僕のやるべきことをやれるだろう。
それは……
「ちっ!お前、さっきから死角をついてくるんじゃねえよ!」
レオンが、僕の攻撃をひらりとかわすと、攻撃を仕掛けてくる。
速い、だが、かわす! かわしてやる!
キホーテ卿の薫陶を受けた僕なら、これくらい出来るはずだ!
「おおおおおっ!」
サーカスの道化師のような動きでこの攻撃をかわした僕は、
体勢を立て直して攻撃を仕掛ける。
いきなり不意打ちをしかけてくる、騎士道のかけらもないクズめ!
くたばれっ! くたばれっ! くたばれっ!
レオンの体に攻撃を当てるが、
当たりが浅いのか、アーマーにはじかれる。
「こんな攻撃でやられるか、ザコめ!」
レオンの攻撃が来る!今度はさらに早い。
かわせない?
「俺を忘れるな!クズが!」
謎の男が、レオンの顔を狙って斬りかかってくる。
「おっと、やばい!」
レオンはとっさに攻撃を止めると、横に大きく跳んで、それをかわす。
「フォトン・キャノン・ドライ!」
後ろから、アヤが光線を放ってくる。
その光線は、敵陣後方、ユウコのいるところに着弾した。
しかし、ユウコにダメージはない。
結界か何かを張って、防御に成功したようだ。
僕は、レオンが横に着地した、その隙を狙って、
もう一度切りかかる。
もう一度、足を狙ってやる。
ぶちぬけっ! 神速でぶちぬけっ!
「そうなんども同じ手をくらうかよっ!」
レオンが逆に距離を詰めてきた。
肩から袈裟掛けに斬り込みをかけてくる。
今から回避行動を取れるか?
ダメだ、今からではかわせない。
こうなったら、こうなったら!
風車に立ち向かうしかない!
僕は相討ち覚悟で、レオンの足を切り落としにかかる。
レオンは肩、僕は足、この流れだと僕は死ぬかもしれない。
だが、だが、
「風車に立ち向かうとは、こういうことだあああああっっっ!!!」
そして、僕はレオンの足を切り裂いた。
けど、僕の肩はばっくり切り裂かれた。
これは、もうだめだ、僕は、もう……
「よくやった、後は俺がやる」
「くそっ!右足が動かねえ!冗談じゃないぞ!」
「おい!ユウコ!なんとかしろ!俺を……」
「フォトン・キャノン!」
「ごめん!こっちは何も出来ないよ!」
「くそったれええええっっ!!!」
……………………
……………………
……………………
「うっ…………」
「アルバトロス! だいじょうぶ!? だいじょうぶなの!?」
僕が目を開けると、そこにはアヤがいた。
確か僕は、レオンと戦っていたはず、
あれから、戦いはどうなったんだ?
「アルバトロス。もう大丈夫だよ。アルバトロスの傷はシャルロッテが
癒してくれたし、レオンたちは、もうここにはいないから」
「ここにいない……じゃあレオンたちはどこにいるんだ?」
「あいつらは、あの世に行った」
アヤの近くにいる黒髪の男が、そう言った。
この人は、さっき一緒にレオンと戦った人だけど、
いったい誰なんだろう?
「あの、すいません。あなたはいったい誰なんですか?」
「なんであなたがレオンと戦っていたのかとか、
なんでレオンが僕に襲いかかってきたのかとか、
さっぱりわからなくて……」
「俺は、ルイス・マティアス。リベンジャーの一人だ」
「リベンジャー?」
「レオンへの復讐者のことだよ」
「俺とリリアナは、 リベンジャーというパーティを作り、
レオンへの復讐を目標としていた」
「だが、まだやつを完璧に仕留めるには力が足りない。
そこで、軍資金を稼ぐために他の3人と臨時パーティを作り、
この森で狩りをやっていたんだが、そこにレオンたちが現れた」
「俺たちは、まだレオンを殺す準備が整ってなかったので、
何もせず立ち去ろうとしたが、ここでレオンが仕掛けてきた」
「奴は、目障りな俺たちを殺そうとしたんだろう」
「俺たちがもっと強くなったら、自分がどうなるか、
それがわからないほど、奴も馬鹿ではないからな」
「町から遠く離れたこの森の中で何が起ころうが、それは冒険者の自己責任だ。
殺人罪でしょっぴかれたりすることはない」
「それがわかっていたレオンは、ここで俺たちを殺そうとしてきた」
「臨時のパーティメンバーである3人の仲間は、
相手が勇者レオンと分かると、さっさと逃げ出したので、
俺たちは2人で、レオンたちと戦うことになった」
「これはまずいことになったが、
こうなったら俺たちだけでレオンを殺すしかない」
「そう腹をくくってレオンと戦っていたら、お前たちが来たわけだ」
「なるほど……じゃあ僕は、結果的にあなたたちの仇討の手伝いを
したってことですね」
「そうだな。その点に関しては感謝する。ありがとう」
「まあ、僕は本当は、あなたたちの戦いを
止めようとしにきただけなんですけどね」
「けど、なんでレオンは、戦いを止めに来た僕を殺そうとしたんですかね?」
「それはわからない、お前のことが嫌いだったのか、
簡単に殺せるとなめてかかったのか、
もっと強大な敵になる前に殺しておこうと思ったのか、
何かほかに理由があるのか、それは、本人でないとわからない」
「そうですか……」
「レオンたちはあの後どうなったんですか?
僕、途中で気を失っちゃって、その後のこと、覚えてないんですよ」
「レオンは俺が殺した。お前が足を斬って、
レオンが身動きとれなくなったところは覚えてるか?」
「はい、そこまでは……」
「そこから、レオンに態勢を立て直す暇を与えず、めった斬りにした」
「斬れるところから斬ったからな、あれだけ斬ればどんなやつでも死ぬ」
「そうですか……」
「で、レオンが死んだことで動揺して隙ができたカステルという女を、
そこの銀髪の男が仕留めた」
ドメラがカステルを殺したのか……
「それで、勝負あったと判断した残りの2人が降伏してきた」
「そのふたりも、殺したんですか?」
「いや、俺たちの仇はレオンだけだ。
他の奴は手向かってこない限り、殺しはしない」
「だから、そのままふたりは逃がした」
「カステルという女と違い、あのふたりはレオンが死んでも、
そこまで動揺してなかったから、
レオンの仇打ち、と俺たちを狙うようなことにはならないだろう。
そう判断して、逃がしたんだ」
「まずかったか?」
「いや、そんなことはないですけど……」
エリザベートはともかく、ユウコには生きていてほしい。
アヤや僕、あるいは他の仲間の命がかかっていたら、
僕はそちらを優先するけど、そうでないなら、
ユウコには出来るだけ生きていてほしい。
それが、僕の本音だ。
だから、彼女が生きていてよかった……
「その後、お前の仲間がお前を回復魔法で回復して、
今に至るわけだが……他に、聞きたいことはあるか?」
「いや、別に……」
「そうか、じゃあ俺たちは街に帰るぞ。
もうここにいる意味が、俺たちにはないからな」
「リリアナ、行こう」
「ええ。じゃあ行きましょうか。けど、その前に……」
「バルザール最後の騎士、あなたのおかげで、
私たちは彼女の仇を討つことができたわ」
「ありがとう、本当にありがとう……」
僕たちに深々と礼をした後、彼らは去っていった。




