まるでおとぎ話のように
ゴールデンデスオークの一撃をかわして、
カウンターを仕掛ける。
相変わらず、たいしたダメージはないようだ。
だが、これを続けていくしかない。
このまま続けていれば、いつか……
「アルバトロス!」
アヤの用意が出来たようだ。
僕が離れると、いつものように白い光線が、
ゴールデンデスオークの体を貫く。
この攻撃、ダメージは通っている。
それは間違いない。
ただ、ゴールデンデスオークを沈めるには、
少し火力が足りないようだ。
それでも、このまま戦い続けるしかない。
ドン・キホーテのように、最後の、最後まで……
その時、後ろから疾風のごとき速さで、
ひとりの男が飛び込んできた。
「待たせたな。アルバトロス」
美しい銀髪をたなびかせて、大騎士ドメラが帰ってきたのだ。
「なんで……」
なんで今帰ってきた? と問いかけようとする僕を、
ドメラが制する。
「おっと、話は後にしてくれ」
「今は、こいつを片付けないといけないからな」
そう言うと、ドメラはゴールデンデスオークに飛び込んで行った。
「シャイニング・ヴィンベルヴィント!」
これは、シャルロッテの声だ。
シャルロッテも、僕たちを助けに戻ってきたのか……
ドメラの体が、まばゆい光に包まれていく。
その光に包まれたドメラが、大剣をふるうと、
ゴールデンデスオークの体がぶちぬかれた。
身体能力を強化する魔法を使った後、
渾身の一撃を仕掛けたという事か。
だが、これくらいでゴールデンデスオークが倒されるわけがない。
ゴールデンデスオークが、ドメラに一撃を入れる。
ドメラはこれをひらりとかわすと、僕のもとへ戻ってくる。
「あんなの食らったら、ただじゃ済まねえ」
「ここは慎重に攻めないとな……」
僕もドメラの意見に同意する。
「そうだね。一撃をもらわないようにしながら、
少しずつダメージを与えて行こう」
「アルバトロス、ドメラ、横に逸れて!」
アヤの指示通り、僕たちが横にそれると。
いつものように、白い光線がゴールデンデスオークに直撃した。
ゴールデンデスオークがふらついている。
今なら、この化け物を倒せるかもしれない。
「シャイニング・ヴィンベルヴィント!」
今度は、僕の体がまばゆい光に包まれる。
これが、シャルロッテの支援魔法か。
体中から力が湧き出てくる。
素早さも増したように思える。
これなら……いける!
僕たちは、左右からゴールデンデスオークに斬りかかった。
相手が体制を崩している今が、奴を倒すチャンスだ。
「これがすべてを断ち切る俺の剛剣だ」
「くらえ! オルランドゥ・スマッシュ!」
ドメラの剣が光を放ったかと思うと、
ゴールデンデスオークの右足を、一瞬のうちに断ち切った。
ゴールデンデスオークは、片足を失って動けない。
その隙をつき、 僕は狼狽するゴールデンデスオークを突きまくった。
必殺技なんて持たない僕は、狂ったように、
ゴールデンデスオークの残った足を突きまくったのだ。
こらえきれなくなったゴールデンデスオークは、
地面に倒れ伏す。
ここまで来たら、後はアヤの仕事だ。
仕事を終えた僕たちが、左右に展開すると、
アヤが、いつものように叫んだ。
「フォトン・キャノン・ドライ!」
3本の白い閃光に包まれたゴールデンデスオークは、
耳をつんざくような悲鳴を上げた。
そして……
ゴールデンデスオークは、動かなくなった。
「やったのか?」
「もし仕留めたのなら、こいつの体が金色の魔導鉱石に
変わり始めるはずだけど……」
そうシャルロッテが言うのとほぼ同時に、
ゴールデンデスオークの体が縮みはじめる。
そして、金色の巨大な魔導鉱石だけが残った。
「体が金色の魔導鉱石に変わった。これは確実に死んでいるわね」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あたりを沈黙の霧が包む。
この沈黙を最初に破ったのは……アヤだった。
「アルバトロスっ!」
アヤは僕に抱きつくと、
大粒の涙を流しながら、こう言った。
「よかったよお……ふたりとも死なずにすんで、
よかったよお……」
「うん……そうだね。本当に……よかった……」
僕とアヤは何も考えずに抱きしめあう。
本当に、よかった。
アヤを守れて、僕が死なずにすんで、
本当によかった……
数分間抱き合って、お互いが落ち着きを取り戻したところで、
ドメラが僕に話しかけてくる。
「アヤちゃん。アルバトロス。すまなかったな」
「お前らを置き去りにして、逃げたりして」
やっぱりふたりは、アヤがこけたのを知った上で、
それを無視して逃げ続けていたわけか。
別に、それを責める気はない。
もし、僕がドン・キホーテを読んでいなければ、
頭の中に彼がやってこなければ、
きっと、同じことをしていたと思うから。
アヤのことを見捨てて、逃げていたと思うから。
だから、僕は彼に何も言わない。
彼の気持ちが、よくわかるからだ。
けど、アヤはどう思っているのだろう?
ドメラとシャルロッテが自分を置き去りにして
逃げたことを、どう思っているのだろう?
そう思った僕が、アヤの方を見ると……
アヤはいつもと同じ顔をしていた。
特に、怒っているわけではないようだ。
なので、僕はアヤに発言を促してみる。
「アヤ、ドメラたちに何か言いたいことがあるなら、
言ったほうがいいよ」
そう僕が言うと、アヤはこう答えた。
「別に、何も言う事はないよ。まああんな化け物が出てきたら、
そりゃ、ひとりふたり脱落してもそのまま逃げ続けるよね」
「アルバトロスが、私の事を置いて逃げたら、
私は凄いショックを受けると思うけど、
アルバトロスは、私の為にここに残ってくれた」
「ゴールデンデスオークと、一緒に戦ってくれた」
「だから、私はそれでいいの。私は、それだけで十分だから!」
そう言って、アヤは笑う。
おとぎ話の、ヒロインのように。
この笑顔を見てるだけで、僕は救われる。
きっと僕は、この笑顔を守るために、
あの化け物と戦ったんだ。
「そうか……ありがとよ」
「それはそれとして、ひとつキミに
聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
「なんだ?」
「なぜキミは、あのタイミングで戻ってきたんだ?」
「あのタイミングで戻ってくる理由なんてないと
思うんだけど……」
「そうだね。後で、なんであの時逃げたの? って責められることを
考えたら、そのまま逃げた方が都合がいいよね」
「それなのに……なぜ?」
この問いに、ドメラは予想外の言葉を返してきた。
その答えは……
「お前たちを見捨てて逃げるのは……
騎士道に反するからだよ」
「き、騎士道!? 騎士道はアルバトロスの専売特許だよ!
ねえ、アルバトロス!」
アヤは心底仰天したようだ。
まさか、ドメラがこの言葉を使ってくるとは
思わなかったのだろう。
僕もこの答えには驚いた。
彼が、騎士道というものを理解して、
それを実践するのは、まだ先の話だと思ったからだ。
けど、そうではなかったようだ。
ドメラは話を続ける。
「いや、俺はお前のように騎士道に
かぶれちまったわけじゃねえぞ」
「今でも、そんなものはバカバカしいと思っている。
けどな……」
「ここでお前たちを見捨てて逃げたこと、
姉ちゃんの前では話せないな……って思ってさ」
「あの姉ちゃんの前で、隠し事はしたくないって
思ったんだよ」
「そこまで考えたら、もう選択肢はふたつしかない」
「姉ちゃんに言えない、後ろめたいことをひとつ増やすか、
姉ちゃんが誇れるような俺になるかだ」
「だから、俺は……」
「後者を選んだんだよね」
「そういうことだ」
ドメラが、なぜ今になって戻ってきたのかは、よくわかった。
彼の騎士道に反するような真似を
したくなかったのだろう。
じゃあ、シャルロッテはなぜ戻ってきたんだろう。
そう思った僕が、シャルロッテの方を見ると……
「私が戻ってきた理由はただひとつよ。それは……」
「それは?」
「私、ひとりでこの森をうろつきたくなかったのよ」
「私ひとりで森をうろついている時に、
デスオークが何体も襲ってきたら、私、死んじゃうでしょ?」
「それなら、アルバトロスたちと合流した方がいいと思ったのよ」
思ったよりも自己中心的な理由だった。
一度は逃げたけど、やっぱり仲間を見捨てることは
出来なかったから戻ってきたとか、
そういう答えが返ってくるのかと思ってたんだけど……
「まあ……これ以上くだらないことをして、
レオナルドに幻滅されたくないってのもあるけどね」
「私は一度、彼に幻滅されてるから、
これ以上幻滅させたら、今度こそ見捨てられるかもしれない」
「結婚して1カ月もたたないうちに離婚なんて、
私は絶対にいや!」
「だから私は、あなたたちを助けに戻ったのよ」
「デスオークから身を守るため、
そして、レオナルドに見捨てられないためにね」
「そ、そう……」
僕とアヤは顔を見合わせたが、
アヤは、ただ首をふっただけだった。
もう、どうでもいいや。
そう思ったのかもしれない。
僕としても、シャルロッテに含むものは何もないので、
彼女に戻ってきてくれた礼を言って、この話を打ち切った。
そして、僕たちは五体満足でアテルノに帰投した。




