人生はしょうがないことばかり
今日もまた、いつものように朝がやってきた。
食事や洗顔、歯磨きなど一通りのことを済ませたのち、
パーティのリーダーであるレオンが言った。
「よし、今日もデスオークを狩って狩って狩りつくすぞ!」
それを聞いたみんなは、
「そうね。さっさと狩りつくして報酬をたっぷりもらいましょう」
「デスオークなんて、この私が踏みつぶしてやる!」
「デスオークはかなり危険な魔物よ。気をつけていきましょう」
と三者三様の反応を見せる。
僕はというと……
「今日も怪我をせずに安全に稼げるといいな」
程度の事しか考えてなかった。
なぜ、この程度のことしか考えてなかったのか、その理由は単純だ。
僕はこのパーティの雑用係だから、
別に戦わなくても報酬はもらえるのだ。
戦うのは勇者の仕事、その勇者のおこぼれにあずかるのが僕の仕事。
それだけの話なのだ。
厳密にいうと、僕の仕事は雑用と荷物運び、
そして道化としてレオンたちの機嫌をとることなんだけど、
それはどうでもいいことだ。
要するに、僕は戦力ではなく道化なのだ。
道化師(役立たず)のカードを持つ僕には、
ぴったりの仕事だろう?
本当は僕も、彼女の横に並び立ちたいのに……
僕もおとぎ話の主人公のようになりたいのに……
けど、それは無理だから、どうにもならないことを僕は知っているから。
だから……僕は……
そんなことを考えていると、デスオークが群れをなしてやってきた。
1、2、3……全部で6体もいる。
ここに僕ひとりしかいなかったら、一瞬のうちに殺されていただろう。
でも僕のパーティには、勇者レオンがいる。
レオンが「ふん」と不敵に笑いながら剣をふるうと、
あっというまにデスオークの首が飛んだ。
これがレオンの奥義、ハヤブサ斬りだ。
ハヤブサのように素早く、相手の首などを切り捨てる。
これが出るだけで、敵モンスターは大混乱だ。
いきなり1匹やられ、動揺するデスオークの隙を、
カステルは見逃さなかった。
彼女がその剛剣をふるうと、3体のデスオークが吹き飛ばされた。
それを見て、逃げ出すデスオークをエリザベートが追撃する。
これでデスオーク6体が全滅した。
さすがレオンとその仲間たち、仕事が早い。
僕は何もしてないけど……。
「よし、これでデスオークを6匹倒したな」
「おい、アルバトロス。お前の仕事だ」
「こいつらから魔導鉱石を集めろ」
「はい、わかりました」
といって僕は倒れたデスオークから魔導鉱石を集める。
この魔導鉱石は、色々なマジックアイテムの原料になるので、
いくらでも買い取ってくれる。
魔導鉱石を落とすモンスターは、デスオークの他、
マッドソルジャーなど限られた敵しかいないので、
これを持っていけば持っていくほど、儲かるというわけだ。
そして僕たちは、この森でデスオークを始め、
たくさんのモンスターを狩り、1日を終えた。
1日を終えたら、その後に待っているのは?
そう、お楽しみの時間だ。
今日も僕はおこぼれにあずかる許可をもらった。
今日は主に、ユウコが抱かれる日だ。
僕の大好きなユウコが、僕の前でレオンに抱かれる。
甘い、媚びた声を上げて。
僕は、それをじっくりと見ながらお楽しみの時間を楽しむわけだ。
ユウコの視線が、僕に突き刺さるが、
そんなもの、たいしたことはない。
気持ちよくなってしまえば、嫌なことを忘れられるのだ。
だから僕は、レオンに征服されているユウコの顔を、
にっこりと素敵な笑顔を見せて、
心を許した相手に抱かれているユウコの顔を見ながら、現実逃避に励む。
これこそが、僕の唯一の取り柄だから。
こうして僕たちは、レパントの森で1週間ほど過ごして荒稼ぎしたあと、
レパントの森の近くにある街、アテルノに帰投した。
そこで僕を待ち受けていたのは……
そう、報酬の分配である。
デスオークなどのモンスターを2週間ほど狩り続けた結果、
僕たちのパーティは金貨を130枚ほど稼ぐことに成功した。
普通の冒険者パーティが1カ月で稼げる金額が金貨十数枚、
よくて数十枚であることを考えると、
いかにこの稼ぎが破格であるかがわかる。
アテルノからレパントの森に行って帰ってくるのに1週間かかったことを
計算に入れても、3週間でこの稼ぎである。
まさに、ぼろもうけと言えよう。
「さて、報酬の分配を始めようか」
「みんな、いつもの比率で分配するという事でいいよな?」
とレオンが言うと、皆がその意見に賛成した。
もちろん、この皆とはカステル、エリザベート、ユウコのことである。
僕が頭数に含まれていないのは、言うまでもない。
そして、報酬が分配される。
パーティのリーダーであるレオンが金貨50枚、他の3人が26枚である。
いつも同じとは限らないが、だいたいこれくらいの比率で分配される。
そして僕の取り分は……
「おい、アルバトロス。おこぼれをやろう」
そう言ってレオンが金貨を2枚手渡した。
「ありがとうございます!」
そう言って僕は大いに喜んだ。
おこぼれは金貨1枚の時が多いので、
2枚もらえた僕は、小躍りしそうなほど喜んだ。
これだ、このために(あとユウコのHシーンをのぞくために)
僕はこの徒党に寄生しているんだ。
「よし、報酬の分配も終わったから、各自いったんここで解散するか」
「は~い」「わかった」
「次は何時にどこで落ち合うんだ?」
「次は3日後の12時でいいだろ。場所はここ、アテルノ冒険者ギルドで」
「そうか、じゃあまた3日後……いやもしかしたらもう少し早く会うかもしれないけど……」
「わかってるわかってる」
「会いたくなったらいつでも俺のもとに来いよ」
「うん……」
そういって、顔を赤くしながらカステルが出て行った。
エリザベートもそれに続く。
そしてユウコはレオンと行動を共にするようだ。
……おこぼれをもらいたい。
それができたら、心の中にあるモヤモヤしたものも晴れるから。
気持ち良くなって、嫌なことを忘れられるから。
「あの、レオン様」
「ん?なんだ?おれはこれからユウコとデートするんだよ」
「なんか用か?」
「あ、あの、レオン様。今日もおこぼれを頂きたいのですが……」
「またおこぼれの要求か」
「お前、本当にそう言うのが好きなんだな」
「アルバトロス、確かお前、こいつと昔結婚の約束をしたって言っていたな」
「それなのに、こいつが俺に抱かれるのを見てコクわけか」
「お前アレか?寝取られマゾってやつか?」
「ド変態じゃねえか……マジで引くわ」
僕は、媚びた笑みを浮かべたまま何も語らない。
そんな僕のことを、ユウコは冷めた目つきで見ていた。
まるで虫けらを見るような目つきで。
そして一言……。
「アルバトロス、気持ち悪いよ」
僕は、貼り付けた笑顔を浮かべることしかできなかった。
確かに僕は、気持ち悪い男だ。
昔から好きだった子が、自分よりはるかに優れた男に抱かれるのを見て、
性的興奮しているのだから。
だけど……別に僕はそうしたくてしているわけじゃない。
そうしないと辛すぎるから。
気持ち良くなって現実逃避しないと、胸が焼き尽くされるくらい苦しいから。
あえて、こういうことをしているだけだ。
元はと言えば、キミが僕のことを捨てるから悪いんじゃないか。
そう言おうとしたけれど……やっぱりやめた。
だって今さら、どうしようもないから。
だから僕は諦める。
救われることも、好きな人と結ばれることも諦めて、ただこう言う。
「僕におこぼれをください」と。
2人は、そんな僕を無視して出ていった。
当然だ。こんな気持ち悪い男、誰だって無視するだろう。
けど、これは、生まれつき決まっていたことなんだ。
僕が、道化師のカードを手に入れてしまった時から、
決まっていたことなんだ……。
だから、僕がすべてを諦めてこういうふうに生きるのも、しょうがないだろう?