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それは騎士道に反している




 こうして、大騎士ドメラという心強い味方を得た僕たちは、

エル・ダバーで稼いだ金貨を、

(モンスターの間引き料と、モンスターが落としたアイテムを合わせて33枚)

武器、防具、アイテムの購入と貯金にあてた後、レパントの森に出撃した。


 デスオークを狩って、魔導鉱石を稼ぐために……


 そうしてレパントの森に足を踏み入れ、

デスオーク狩りの準備をしていた僕たちに、

ドメラがこんなことを言い出した。


「なあ、アヤちゃん。シャルちゃん。ちょっといいか?」

「なによ」

「何か用なの?」


「このパーティは、前衛が俺とアルバトロスの2人、

後衛がアヤちゃんとシャルちゃんの2人だよな」

「それが何か?」

「いや、前衛は大騎士である俺一人いれば十分じゃねえの?」


「いや、アルバトロスもいるでしょ。ねえ?」

アヤが僕の方を見て、同意を求めてきた。

なので、僕もアヤに同意する。


「うん、前衛がひとりだと不安定になるから、僕も前に出たほうがいいと思うよ」

「だから……」


 と言葉をつなごうとした僕を、ドメラが遮る。


「いや、あんたいらないだろ。ただの道化師なんだし」

「つーか、あんたが前にいたら足手まといだろ。大丈夫。後は俺がやるから」

「だから、道化は後ろで雑用しててくれ。な?」


 いきなり、失礼なことを言ってくる。

確かに僕には、大騎士である彼ほどの力はないだろうが、

足手まといだから引っこんでろという言葉は、

仲間に対して向ける言葉として、どうだろうか?


 そう思った僕が、彼に苦言を呈そうとすると……


「ちょっと! あんたアルバトロスに失礼だよ! 何考えてんの!?」


 アヤが、ドメラを睨みつけながら説教しはじめた。


「いい、アルバトロスはこのパーティのリーダーで、

一番年上のメンバーなんだよ」

「そのアルバトロスに対して、その態度はなんなの!?」


 僕に失礼な態度を取ったドメラに、アヤは相当立腹しているようだ。

この場合、アヤをなだめたほうがいいのかな?

と考えている僕に、シャルロッテが怒鳴った!


「アルバトロス、デスオークが来たわ! 戦いの準備を! 早く!」


「わかった!」


 もう余計なことを考えている暇はない、

僕はデスオークを引きつけるために、前に出た。


「ちょうどいい、道化と騎士、格の違いを見せてやるか」


ドメラも前に出てきた。


 この状況ならドメラと僕でデスオークを抑え込める。

後は、アヤの攻撃に任せよう。


「エアリーシールド!」


 シャルロッテが、僕とドメラに空気の結界を張ってくれた。

あとは、いつものようにやるだけだ。


 僕は、前にいたデスオークAとBに斬り込みをかけ、

奴らの注意を引いた。

そして、奴らの攻撃を回避しながら、

軽くカウンターを入れる。


 そうして時間を稼いでいると……


「アルバトロス、どいて!」

アヤの声が響いた。


 その声を聞いた僕が素早くデスオークと距離をとると……


「フォトン・キャノン!」


 いつものように、巨大な光線がデスオークを焼き尽くした。

というか、この光線、前より大きくなってないか?

アヤの魔力が上がったということかな?


 まあ、それはいい。それよりドメラの加勢に行かないと、

と思ってドメラの方を見てみると、


「こんな奴ら、魔法支援がなくても簡単に倒せるぜ」


 デスオークC、Dの死体が転がっていた。

1人で2体のデスオークをもう片付けたのか。

たいしたもんだと思った僕は素直に賞賛の声を送る。


「いや、さすが大騎士だよ。すごいねドメラは」


 と僕が褒めると、彼はこんな答えを返してきた。


「こんなこと、出来て当たり前だろ?」

「まあ、三流のあんたには、ちょっと難しいだろうけどな」


「…………」


 別に、そんな風に返さなくてもいいと思うんだけどね。


「なあ、アヤちゃん、シャルちゃん。どうだ?

この道化より俺の方が強いだろ?」

「冒険者として使えるだろ?」


「だからさ、これからこのパーティの指揮、俺がとりたいんだけど。どうかな?」

「これからは俺がパーティの指揮をとる。アヤちゃんとシャルちゃんは俺の補佐、

それで、道化は雑用係兼囮、それでどう?」


「…………」


 僕は言葉を失った。それじゃまるで、パーティの乗っ取りじゃないか。


 このパーティは僕とアヤの2人で作ったパーティだ。

それを新参者であるドメラが乗っ取るのは、どう考えてもおかしい。

これは明らかに、騎士道精神に反する行為だ。


 仮にも大騎士のカードを持つものが、こんなこともわからないなんて……


 だから、僕ははっきりと言うことにした。


「ドメラ、確かにキミの言うとおり、

僕よりキミの方が冒険者として優秀だと思うよ」


「だろう? さすが負け犬だけあってよくわかってるじゃないか」

「だったら、リーダーの座を俺に譲……」


「だか、キミの要求は騎士道に反している」

「……はあ?」


「だから、キミの要求は騎士道に反していると言ってるんだよ」

「新参のキミが、パーティのリーダーである僕から、

指揮権を取り上げるなんて、何を考えてるんだ?」


「これは、騎士の世界では謀反に当たる行為だ」

「お前、それでも大騎士か? 大騎士のカードに選ばれた者なのか?」

「騎士まがいの愚か者め! 恥を知れ!」


 そう言った僕に、アヤは親指をぐっと立ててくれた。

それでこそ私の騎士、そう言いたいんだと思う。

うん。キホーテ卿に騎士道を教わったものとして、

相手がだれであろうが、言うべきことは言わないとね。



「…………はあああっっっ???」

「お前、何言ってるんだ?」

「騎士道に反してるとか、騎士まがいの愚か者とか、

わけわかんねえこと言ってるんじゃねえよ!」


「ふざけんな!」


 ドメラは怒っているようだ。

お前のやっていることは騎士道に反する。

だから恥を知り、騎士道を学びなおせ。

こんな簡単なことが、なぜ彼にはわからないのだろう。

 

 大騎士ともあろうものが、こんな簡単なことがわからないとは……

おかしな話である。


 こうなったら、僕が彼に騎士道を教えてあげるしかないな。

ということを考えていると、シャルロッテが話に割り込んできた。


「まあまあ、ドメラ。そんなに怒らないでよ」

「この人、ちょっとアレなのよ。道化なのよ」

「だからね。冷静になって……」


「……わかったよ」


 シャルロッテの話を聞いたドメラは、少し冷静になったようだ。

これで話し合いができる。



「ドメラ、キミがそんなことを言うのは、騎士道というものの素晴らしさを

よく知らないからだと思う」

「だから、どうだろう。僕とキミで、騎士道というものを、

より深く学んでみないか?」


「そうすれば、きっとキミは偉大な騎士になれる」

「ドン・キホーテのような、偉大な騎士にね……」



「だから! そんなの学ばねーよ!」

「つーか騎士道って、いつの時代の話だよ」

「今の時代、騎士だって騎士道のことを建前としか思ってないだろ」

「まして、俺たちは冒険者だぜ? 騎士道なんて学んでどうするんだよ」


「…………」


「沈黙ってことは、騎士道なんて学んでも意味がねえってことだな」


「騎士道を学ぶことで、人は理想に近付くことができる」


「騎士道を実践することで、人は誰かに幻想(ユメ)を見せることができる」


「どうだい? 騎士道ってすばらしいものだろう?」


「…………」


 ドメラは沈黙した後、僕の目をまっすぐ見て、こう言った。


「なあ道化、いやアルバトロス、ひとついいか?」

「なんだい?」


「…………お前はそれで、正気のつもりか?」


「…………ドン・キホーテのように、

僕も少しおかしくなってるのかもしれないね」

「けど、それがどうした?」


「いいか、ドメラ。僕は騎士道を知る前、ただの負け犬として生きてきた」


「勇者レオンにユウコを寝取られても、

レオンやユウコにゴミを見る目で見られても、

僕は何も出来なかった。だから僕は、すべてを諦めて生きてきたんだ」


「けど、ある日僕の頭の中にドン・キホーテがやってきて、


 最高の幻想(ユメ)を見せてくれた。騎士道という最高の幻想(ユメ)を見せてくれたんだ」


「その幻想(ユメ)に、僕は救われた。だから僕は、ドン・キホーテのように、


風車に(ろくでもないげんじつ)立ち向かって、彼から教わった、

最高の騎士道を見せつけてやるんだ!」


「昔の僕みたいに、すべてを諦めてうずくまっている奴に、

僕の大好きなアヤに、そして僕の大切な人たちに、

最高の騎士道を見せてやるんだ!」


「それの、何が悪いいいいいいっっっっっ!!!」


「…………」

「そうかよ」


 ドメラはそう言ったきり、何も言わなかった。



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