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人は少しの愛と幻想があれば正しい道に立ち戻れる




 僕がシャルロッテと、腹を割って話し合ってから1週間の月日が流れた。

あれからシャルロッテは、婚約者であるレオナルドのもとに毎日通いつめ、

必死になって説得した。


 その結果……


「アルバトロス、ようやく彼に納得してもらえたわ」

「アルバルトスたちと一緒に旅に出てもいいって」


「ただ……ひとつだけ条件があるんだけど、聞いてくれる?」

「なんだい?」


「1か月に1度とは言わないけど、出来るだけ頻繁に

エル・ダバーに帰らせてくれない?」


「いつまでも私が帰ってこないと寂しいって、彼も言ってるし、

私も彼とまったく会えないのは、寂しいから……」


 宿屋のロビーにあるソファーでくつろいでいたアヤが、

ここで話に割り込んでくる。


「私も婚約者に会えなくなるのは寂しいって……

シャルロッテ、あなたその婚約者を捨てようとしてなかった?」


「いや、あの時はさ、アルバトロスがここまでの道化とは思わなかったから」

「それに、彼と何日も本音で話し合ってると、なんて言うか……」


「ああ、私この人にこんなに愛されてるのかって、

彼のこと愛しくなっちゃってさ」


「やっぱり、私は彼のことが好きなんだってわかったら、なんかさ、

ずっと彼と一緒にいたいなって思って、それで……」


「ねえ、アルバトロス、この人本当にいい加減だよね」


「まあ、それは否定できないけどね……」


「で、シャルロッテ、ひとつ聞くけど、そのレオナルドって婚約者に、

今回あったこと、すべて話したの?」


「それとも、アルバトロスに告白したこととか、

婚約者を捨てようとしたこととか、

その辺の都合の悪いことは隠して話したの?」


「もし後者だったら、私は人として、あなたのことどうかと思うよ」


 アヤが冷ややかな目をしながらシャルロッテに問いかける

彼女は一途な人だから、こういうのが許せないのだろう。


「……その辺のことは彼に全部話したわよ」

「ひたすら謝りながら、隠しごとをせずに彼に話したわよ」


「それで、その人はなんて言ったの?」


「シャルロッテが本当はどんな人なのか、どんなことを考えていたのか、

それがよくわかったよ」


「シャルロッテ、あなたはろくでもない人だ」


「クズと言っても過言ではないよ」


「けど……それでも僕は、シャルロッテのことが好きなんだ」


「だから僕と結婚してください!」


「って言ったのよ! あの人そう言ったのよ!」


「その状況でプロポーズをしたの?」

「それはまた、凄いことになったね……」


「それで、その後ふたりはどうなったの?」


 シャルロッテは、どうだまいったかという顔で、左手の薬指を見せた。

すると、そこには……


「どう、これが、彼が私に捧げてくれた聖なる指輪よ」


「これって結婚指輪だよね」

「ということは……」


「そういうことよ!」


 シャルロッテが勝利のVサインをする。


 色々あったことで、ふたりの絆はより深まったということだろう。

人間は、弱い生き物だし、間違いを犯すこともある。


 でも、少しの愛と幻想があれば、

また、正しい道に立ち戻ることができるのだ。

ねえ、そうですよね。

ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ……


 その後、僕たち3人は、仕事を探してアテルノに行くことになった。

エル・ダバーには、もう冒険者としての仕事がないからだ。

アテルノに行くのは1か月ぶりだな……

そんなことを考えながら旅をしていると、

2日ほどでアテルノに到着した。


「やっぱりアテルノはいいわね。エル・ダバーよりずっと大きくて素敵」

「シャルロッテは、アテルノに来たことがあるのかい」

「昔、2回ほどね」


「エル・ダバーの治安執行官をやっていた時、この町に用事があって来たのよ」

「そうなんだ」

「じゃあ、シャルロッテはパラゴンって定食屋さん知ってる?」


「あそこの定食、本当においしいよ」


「へえ、そうなの。 じゃあ今度行ってみようかしら」

「そうだね。一度みんなで行ってみようか」

「けど、その前に一度ギルドへ行って、お仕事をもらわないとね」

「そうね」


こんな話をしながら、僕たちは冒険者ギルドに向かった。

そして……


「うーん、今はろくな仕事がないね……」


「そうだね。ねえ、ギルドの職員さん。

もう少し、ましな仕事は紹介できないの?」


 冒険者ギルドの職員は、つまらなそうな顔をして、こう答えた。


「すまねえが、今はろくな仕事が入ってなくてな」

「アテルノから、他の街に向かうキャラバンを護衛する仕事ならあるが、

あまり報酬は高くない」


「それなら……レパントの森で、デスオークを倒した方が、

いいかもしれないね」


「私とアルバトロスの2人だけで、デスオークを倒しに行くのは危ないけど、

今はシャルロッテもいるし……」


「ねえ? どうかな、アルバトロス」


 アヤは、目をキラキラさせながら僕に訴えてきた。


 アヤがそれを望むのなら、ここは素直にうなずいていた方が

いいかもしれない。


 けど……


「アヤ、僕たち3人じゃ、まだデスオークを確実に倒すのは

難しいと思うよ。せめてあと1人仲間がいるといいんだけど……」


「たしかに、前衛の戦士がもうひとりいたら、

安全に敵を倒すことができるね」


「けど、そんな人がそう都合よく見つかるかな?」


 そう言って、アヤが考えこんでいると

ひとりの男が僕たちの前に割り込んできた。


「おい、あんたらは前衛の戦士を探しているのか?」


「だったら、俺のことをパーティに加えたらどうだ?

俺なら、あんたらの役に立てると思うぜ」


 そんなことを言ってきた銀髪の彼は、

がっしりとしている上に、背が高い、

つまり、生まれながらの戦士のような体をしていた。


 これは強そうだ……


 彼を仲間に加えたら、僕たちのパーティはより強くなるだろう。

そう思った僕は、彼の話をじっくりと聞くことにした。


「キミを仲間に入れるかどうかを決める前に、

いくつか話を聞いておきたいんだけど、いいかな?」


「ああ、いいぜ。何でも話を聞いてくれ」


「まず、キミの名前を教えてもらいたい」

「あと、キミのカード名と冒険者歴、ついでに年齢も」


「俺の名前は、ドメラ。ドメラ・ハルナイトだ。冒険者歴は3年、

年齢は20歳。そしてカード名は……」


「大騎士だ」


 大騎士という言葉に、シャルロッテが敏感に反応した。


「大騎士……当たりカード、選ばれし者じゃない」


「ああ、そうだ。俺は選ばれし者だ。

だからパーティに入れておいて損はないぜ」


「大騎士が前にいたら、狩りが安定するわね。

ねえアルバトロス、彼を私たちのパーティに

入れたほうがいいんじゃないの?」


 シャルロッテは、彼をパーティに入れるのに賛成のようだ。

僕も、大騎士である彼を仲間に入れることに賛成だ。

となると、後はアヤの意見次第か……


「アヤ、キミはドメラをパーティに入れたほうがいいと思う?」

「僕は彼をパーティに入れたほうがいいと思うんだけど……」


「……戦力にはなりそうだし、アルバトロスが入れたいっていうなら、

それでいいんじゃないかな」


「ということで、こちらはキミを仲間に入れることに、

異存はないけど……」


「ドメラはどうかな?僕たちのパーティに入ってくれるかい?」

「ああ、俺はあんたらのパーティに入るつもりだ」


「ということで、これからよろしく頼むぜ」

「うん、こちらこそよろしく」


「あと、こっちからも聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「なんだい?」


「俺は、アルバトロス、あんたのことは知っているが、他の奴は知らない」

「僕のことは知っているの?」


「ああ、あんたのことは知っている。道化のアルバトロスといえば、

この辺では有名だからな」


「そう……」


 たぶん、有名と言っても悪い意味で有名なのだろう。

勇者の寄生虫とか、そういう意味での名声なのだろう。

良い意味での名声がまるでない僕は、そう思うことにした。


「でだ……俺はあんたのことは知っているが、他の2人のことはよく知らない。

だから、2人に自己紹介をしてほしいんだが……」


 レオンのいうことももっともだ。なので僕が2人に自己紹介を促すと、

2人が自己紹介を始めた。


「私は、アヤ・カンナズキ。18歳。魔導師のカードを持ってます。

冒険者歴は1年です」


「あと、そこにいるアルバトロスとお付き合いしてますっ!」

「だから、私は誰ともお付き合いできませーん! わかりましたかあ?」


 アヤがニコニコしながら、ドメラの前で、僕と付き合ってることを暴露した。

なんか、恥ずかしいな……と僕が思っていると、

青いロングヘアーをたなびかせて、シャルロッテが自己紹介を始めた。


「私はシャルロッテ・アルベール。23歳、万能術師よ。

冒険者歴はほとんどないけど、村の治安執行官として、

モンスターと戦った経験があるわ」


「だから、足手まといにはならないと思う」


「そうか、アヤちゃんにシャルちゃんか、覚えておくよ」


 相手をちゃん付けで呼ぶドメラに、シャルロッテが苦情を言う。

「私、あなたより年上なんですけど……」


 不満げに苦情を言うシャルロッテに、ドメラはこう答えた。


「まあ、いいじゃねえか。そんなに怒んないでよ。シャルちゃん」


「…………」



「まあ、私もアルバトロス以外にちゃん付けで呼ばれるのは、

あんまり好きじゃないけどね」


「あ、そういえばさ、アルバトロス、ひとつ聞いていい?」

「なに?」

「アルバトロスって、何歳なの?私、まだアルバトロスの年聞いてないけど……」


 そういえば、僕の年齢を教えてなかったな。

そう思った僕は、素直に彼女に年齢を教えた。


「僕の年齢は、25歳だよ」

「25歳かあ。じゃあこのなかでアルバトロスが一番年上だね」


「そう言われたら、そうだね」

そう返した僕に、アヤはこう言った


「私のことを、あなたの経験でうまく導いてね。

頼りにしてるよ、アルバトロス!」





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