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唯一にして最高の恋人




「シャルロッテ、僕は……」


「ちょっと待って!」

「その前に、その返事の前に、私の話を聞いて!」


 アヤが必死になって僕の言葉をさえぎってくる。

僕は、彼女が何を言うのか聞きたかったので、

シャルロッテの言葉に返事をせず、しばらく黙ることにした。


「アルバトロス、私は、あなたの唯一にして最高の仲間、そうだよね」

「うん」


「私はそれで満足だった。先のことはわからないけれど、

当分の間はそれでいいと思ってた」


「でも、それじゃダメだった。 シャルロッテがアルバトロスに目をつけた。

このままほっといたら、他の女の人も

アルバトロスに目を付けてくるかもしれない」


「だから、私はあなたとの関係を前に進めようと思ったの」

「あなたの 唯一にして最高の仲間から……」

「唯一にして最高の恋人に!」


                   

「アルバトロス、あの時、あなたに素敵な幻想(ユメ)を見せてもらったときから」

「私は、あなたのことが好きでした!」

「あなたのことを考えると、好きすぎて眠れなくなっちゃうくらい好きでした!」


「だから、私とお付き合いしてくださいっ!」

「私だけの騎士さまっ!」


「…………」

「…………」


「私だけの……騎士さま?」

「そうだよ、アルバトロスは、私だけの騎士さまだよっ!」


「私に素敵な幻想(ユメ)を見せてくれた、私だけの騎士さまだよっ!」


「そうか……そうだよなあ」

「うん、そうだよな。そうだったよな、ははは」


「……アルバトロス?」


「いや、ごめんアヤ、ちょっと大切なことを忘れていただけだよ」

「僕が何者だったか、どこの誰に薫陶を受けてきたのか、

生き方を教えられてきたのか、ということをね」


「そ、そう……まあ、それはいいよ。それでさ、アルバトロス」

「その……さっきの返事なんだけど……」


 僕は、アヤをじっと見つめながら、地面に膝をつけた。


「アルバトロス?」


「アヤ、僕の唯一にして最高の恋人、あなたに……」


「生涯の、愛と忠誠を誓います」


「……うんっ!!!」


 こうして僕とアヤは、両想いの恋人になった。

まるで、おとぎ話のように。

それが、気に入らない人がひとりいるようだけど……


「ちょ、ちょっと待ってよ! 何今の?」

「わけがわからないんですけど!」


 シャルロッテが動揺しながらかみついてきた。

まあ、それはそうだろう。

シャルロッテが僕に告白してきた結果、こんなことになったんだから。


「いや……冷静に考えたら、これはこれでいいのよね」

「アルバトロスがアヤと私、ふたりと同時に付き合えばいいわけだし」

「そうよね? じゃあアルバトロス、さっきの返事、聞かせてくれないかしら」


 シャルロッテがさっきの告白の返事を聞いてくる。

それを聞かれたら、僕はこう答えるしかない。


「すまないけど、僕はもうアヤと付き合ってるから、

キミと付き合うことは出来ないよ。本当にごめんね」


「いや、別にふたりと同時に付き合ったらいいじゃない」

「2人以上の女性と同時に付き合っている男性冒険者、けっこういるわよ」

「なんなら、私は2番目の恋人ってことでいいから……」


 アヤが、不安そうな顔をして僕を見てくる。

僕が自分以外の女性と付き合うのが嫌なのだろう。


 そういう男性冒険者が何人もいることがわかっているけど、

貴族や大物の冒険者がたくさんの女を囲っていることも知っているけど、

それでも、僕が自分以外の誰かと付き合うのがいやなのだろう。


 だいじょうぶ、キミの気持ちはわかっているから。

キミを悲しませるようなことはしないから。


 だから、僕は彼女にこう答える。


「シャルロッテ、僕はキミを2番目の恋人になんてすることはできない」


「だってそれは、騎士道に反するから……」


「……えっ? 今なんて?」


「だから、キミを2番目の恋人として迎えることは出来ないって言ったんだ」

「2人以上の女性に、同時に愛と忠誠を誓うのは、騎士道に反するだろう?」


「アルバトロス……それでこそ、それでこそ私のアルバトロスだよ!」


 アヤが、幸せそうな、心底満たされた顔で僕を見る。

わかってるよ。キミの気持ちは。

キミの気持ちを傷つけるようなことを、決して僕はしないから。

これまでも……そして、これからも。


「き……騎士道に反するから付き合う事が出来ないって……」

「そんな答え、あり得ないと思うんだけど!」


 シャルロッテが、顔を真っ赤にしながら僕に詰めよってくる。

まさか騎士道を理由に告白を断られるとは思ってなかったのだろう。


 そりゃそうだ。騎士道なんて時代錯誤の妄想か、ただのお題目に過ぎない。

そんなものを真面目に信じて、女性からの告白を断るなんて、

正気の沙汰じゃない。


 けど、僕が薫陶を受けた騎士の中の騎士は、

まともな人じゃなかった。


だから、僕がまともでなくなったとしても、しょうがないだろう?


「確かに、普通はそんな答えはありえない。

騎士道を理由に告白を断るなんて、ありえない話だ」


「けど、僕のなかではあるんだよ」

「騎士というものは、二君に仕えないものなんだよ」


「そうだよ。その通りだよ」

「アルバトロスはもう私に仕えてるから、他の人には使えることが出来ないの」

「残念でした!」


 アヤが指を突き付けながら、得意げな顔をしてシャルロッテに迫る。

ドヤッ!って感じの顔だ。

そんなアヤも、かわいいんだよなあ……


「けど、けど……」


「さらに言わせてもらうと、今回のキミの告白は、

二重の意味で騎士道に反している」


「二重の意味で?」


「そうだ。シャルロッテ、キミには将来を誓いあった婚約者がいるだろう?」

「その婚約者を捨てて、僕と付き合う?」

「シャルロッテ、それは……」


「騎士道に反しているっ!」

「騎士道に反しているっ!」


 なぜかアヤが、

シャルロッテに指を突き付けながら僕の言葉を復唱してくれた。

なんか、うれしいな。こういうの。

いや、そのことは今は考えないでおこう。

本題に戻らないと……


「さらに言えば、これはシャルロッテだけの問題じゃなく、

僕の問題にもなってくる」


「キミの婚約者であるレオナルドの立場にたって考えると、

僕はシャルロッテを奪った悪漢ということになる」

「これは討伐されても文句の言えない事態だよ」


「けど、大勇者ヒデトが異世界から持ち込んだ書物の中には、

湖の騎士ランスロットという騎士がいて……」


「その人は存在そのものが騎士道に反しているだろ」

「何もそこまで言う事はないと思うんだけど……」


「たしかに、湖の騎士は、騎士の中の騎士だった」

「彼は円卓の騎士の中でも最強クラスの力があったし、

確かな騎士道も合わせ持っていた」


「けど、湖の騎士ランスロットは、それらすべての功績を帳消しにして、

あまりある悪行を行った」


「ランスロットの話を知っているシャルロッテなら、

それが何のことなのかわかるだろう?」


「…………」


「え? なに? そのランスロットって人は、

何をやらかしたの?」


「私、その話の事よく知らないから、その人が何をしたのか

よくわからないんだけど……」


「ランスロットは、主君であるアーサー王の妻ギネヴィアと、

不義密通をしたんだよ」


「え?それって王様の奥さんと不倫したってこと?」


「そうだよ」


「それはダメだよ! いくら強くて優れた騎士でも、

そんなことしちゃ絶対にダメだよ!」


「さらに言えば、そのことが原因となって、

国を二つに分けた戦争が始まるんだ」


「アーサー王とランスロットの戦争がね」


「……そのランスロットって人、騎士の風上にもおけない人だよね」


「そうだね。ただ勘違いしないでほしいんだけど、

ランスロットという人は、騎士道も良心もない、

外道騎士ではなかったんだ」


「基本的に、彼は勇敢で立派な騎士だった」

「ただ一つの過ちが、彼から騎士道と、

その偉大な名声を奪い去ったんだよ」


「僕はランスロットにはなりたくない」

「僕は、風車に立ち向かう道化、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャのように

なりたいんだ」


「だからシャルロッテ、僕はアヤのため、

そして僕自身のためにも、この告白を受けることは出来ない」


「わかって……くれたかい?」



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