僕にだってそれくらいの権利があるはずだ
僕たちは、いつものように、エル・ダバー近辺の
モンスターを間引いた後、帰路についた。
そして宿に戻ろうとすると、シャルロッテが声をかけてきた。
「あの~ちょっといい?」
「なんだい?」
「アルバトロス、この辺のモンスター、私たちで200匹以上間引いたよね?」
「うん。正確な数は覚えてないけど、200匹以上は間引いてると思う。
それがどうしたの?」
シャルロッテは、いたずらっぽく笑いながら、こう言った。
「……たくさん間引きすぎたせいで、村の予算が尽きちゃいました!」
「村の予算が尽きた?」
「うん。村が用意しているモンスター退治の予算も、
無限にあるわけじゃないからね」
「だから、(予算がなくなったから)今年の分の間引きは
これでおしまいってこと」
「まあ、これだけ間引けばモンスターも当分は村に近付いてこないだろうから、
予算が尽きたことは別に問題じゃないんだけどね」
「けど……もうひとつの点が問題なのよね」
「もうひとつの点とは?」
「村の予算が尽きたってことは、 このパーティの仕事も終わっちゃうってこと」
パーティの仕事が終わる……
確かに、このパーティの仕事はエル・ダバーのモンスター退治だから、
それが終わったらパーティの仕事も終わり。つまり解散ってことになる。
僕とアヤは、流れの冒険者だから別の仕事を探せばいいだけだけど、
エル・ダバーの治安執行官であるシャルロッテは、この村を出ることができない。
つまり、ここでお別れだ。
けど、そうなってもシャルロッテには村の治安を守る仕事が残っているから、
別に、パーティが解散しても問題ではないはずだが……
「パーティの仕事が終わるってことは、
シャルロッテとはここでお別れってことだね」
「今まで、おつかれさま」
アヤが、ニタァと笑いながら、シャルロッテに手を振る。
なにがそんなに嬉しいのだろう?
シャルロッテという戦力がいなくなることは、
僕らにとってマイナスであってもプラスではないと思うんだけど。
「その、パーティ解散の件だけど、ちょっと待ってもらえないかな」
「ちょっと待つとは、具体的にどういうこと?」
「いや、今回アルバトロスと組んで、色々なモンスターと戦ってきたじゃない」
「それでわかったんだけど……」
「私、結講冒険者に向いてると思うのよ」
「冒険者に?」
「ええ。私は万能術師だから、防御、攻撃、治療、
色々なことが出来るでしょう?」
「この力があったら、冒険者としてやっていけるんじゃないか、って思ったのよ」
「実際この力、あなたの役に立ったでしょう?」
「まあ、それはそうだね」
確かに、シャルロッテの魔法は役に立った。
モンスターに襲われてケガをした僕を癒してくれたり、
空気の結界を張って、僕の防御力を上げてくれたり、
色々なことをしてくれた。
だから、彼女が僕たちの仲間になってくれるのなら、
こんなにありがたいことはない。
けど……彼女がこの村を出ていくのは難しいんじゃないかと僕は思う。
なぜなら……
「シャルロッテ、キミはこの村の治安執行官だろう?
そのキミが、村を出ていってもいいのかい?」
「別にいいわよ」
シャルロッテが軽いノリで返してくる。
えっ? 治安執行官がいなくなっても、村としては問題ないの?
「本当にそれでいいの? 治安執行官がいないと村が困ると思うんだけど……」
「治安執行官は私ひとりだけじゃないから、別にいなくなっても問題ないわよ」
「しばらく経ったら、別の人が私の後釜として執行官になるだろうしね」
「い、いや、それでも、急にやめるのは問題があると思うよ?」
「ほら、報告とか連絡とかきちんとしなきゃ」
「だから、仕事辞めたらだめだって、ね?」
アヤが冷や汗をかきながら、 シャルロッテを説得し始める。
なんでアヤは、そこまで必死になって彼女を説得しているのだろうか。
まあ、その疑問は置いておこう。
治安執行官のこと以外にも、彼女には、
聞いておかなければならないことがひとつある。
それを、ここで聞こう。
「シャルロッテ、 治安執行官のことを除いても、
キミにはこの村を出ていけない理由があるんじゃないか?
「村を出ていけない理由?そんなものはないけど」
「そんなことはないだろう。キミにはレオナルドという婚約者がいる。
そうだろう?」
「村を出て冒険に出たら、その婚約者と頻繁に会うことができなくなる」
「それは困るんじゃない?」
「別に、そんなこともないけど……」
「というか、どこで レオナルドのことを知ったの?
私、あなたにその人のこと話した覚えはないけど……」
「そのレオナルドさんが僕に話しかけてきたことがあってね。
まあそれは置いておこう」
「それより、さっき、別にそんなこともないと言っていたけど、
現実問題、婚約者となかなか会えなくなったら困るんじゃないの?」
「将来、結婚するんだし……」
と僕が言うと、彼女は僕をじーっと見て、こう答えた。
「私は、将来あなたと結婚しようかと思ってるんだけど」
…………
「は、はああああああっっっ???」
「ちょ、ちょっと、あんた何考えてるの!!!」
僕とアヤは、ほぼ同時にすっとんきょうな声をあげた。
そりゃそうなるだろう。婚約者と会えなくなったら困るだろうという質問に、
こんな斜め上の回答をされたら、誰だってそうなる。
「あんた、バカじゃないの? バカ! バカ! バカ!」
アヤがパニックを起こしながらシャルロッテをののしる。
僕もパニックを起こしかけていたが、シャルロッテだけは冷静だった。
「別にバカじゃないわよ。ちゃんと考えた上で物を言っているわ」
「いい、まず私とレオナルドとの婚約は、
私がこの村にい続けることが前提の話よ」
「私がずっとこの村で暮らすなら、この村か近隣の村の男から
結婚相手を選ばないといけない」
「そのなかで、レオナルドが一番私と合いそうだから、婚約しただけよ」
「私がこの村を出ていくなら、村の近くとか、
そんな狭い範囲で結婚相手を選ぶ必要がなくなるでしょう?」
「だったら、婚約を破棄しても問題はない、違う?」
「も、問題大ありでしょ! そんな、
一度婚約した相手をそんなことで捨てるなんて……」
「シャルロッテ! あなたは悪よ!」
アヤがびしっと指を突きつけてシャルロッテを糾弾する。
アヤは、相手に指を突きつけて語るのが好きなんだな。
まあ、そういうところも好きなんだけど。
いや、今はそういうことを考えている場合じゃない。
シャルロッテのことを考えないと……
「悪って言われてもねえ。私は今の状況を整理した上で、
物を言っているだけだし」
「とにかく、私は今すぐこの村を出ていっても何の問題もないわけよ」
「治安執行官の件も、婚約者の件も、
どっちも私の足を引っ張るような問題じゃないの」
「わかってくれた?」
「いや、わかんないから!」
「というか、なんでさっきアルバトロスと
結婚しようと思ってるとか言いだしたの?」
「本当に、あんたの言ってること、わけわかんないから!」
たしかに、婚約破棄の話が、なんで僕と結婚してもいいと
いう話になってるんだろう。
それとこれとは別の話だと、僕も思う。
だから、単刀直入に聞くことにした。
「シャルロッテ、その話は僕も聞きたいよ」
「なんで、僕と結婚してもいいなんて話になってるんだい?」
「それは簡単な話よ。あなたと3週間ほど組んで、
一緒に戦いをして、わかったことだけど……」
「あなた、意外に素敵だもの」
「そんなことは、わかりきってるよ!」
「そ、そうかな……僕はそうは思わないんだけど」
僕とアヤの声がハモる。
そんなことはわかりきってるって……
アヤは、僕のことをそういう風に思ってくれてるのか。
なんか、嬉しいな。
「いや、わかりきったことじゃないわよ。」
「アルバトロスは、騎士とか戦士じゃなくて、
道化師のカードの持ち主って聞いたから、
これははずれかー、たいしたことないなって思ってたもの」
「けど、実際にその戦いぶりを見てみたら、決してはずれじゃなかった」
「それどころか、凶暴なマッドオーガを倒して、私のことを守ってくれた」
「素敵なところを見せてくれた」
「だから、将来この人と結ばれるのもありかな~って思ったのよ」
「ありじゃないよ!」
アヤの猛烈な突っこみが入る。
目をカッと見開きながら、指を突きつけて怒鳴っているアヤの顔は、
正直言って怖い。
さすがに怒りすぎじゃないかと思うんだけど、
なんで彼女は、そこまで怒っているのだろう。
唯一にして最高の仲間である僕を、
シャルロッテに取られそうになっているから?
だから、やきもちをやいて怒っている?
まさかね……
「シャルロッテ! これ以上ふざけたこと言ったら、
その顔めがけて、フォトン・キャノンぶちこむよ!」
「ほんとうに、いいかげんにして!」
「まあ、そんなに怒らないでよ」
「冷静になって考えたら、そんなに怒る必要はないでしょう?」
「なんでよ!」
「アヤ、あなたは私にアルバトロスを取られると思ってるんでしょうけど、
別に取ったりはしないわ」
「……そうなの? けどさっきシャルロッテは
アルバトロスと将来結婚するって言ってなかった? だったら……」
「別に、いいじゃない。彼があなたと私、
ふたりと同時に付き合っちゃえば済む話でしょう?」
「は……はあああああっ???」
「あんた、何言ってるの! そんなのおかしい! おかしいし!」
「別におかしくはないわよ。冒険者や貴族の中には、
何人もの異性と同時に付き合っている人がたくさんいるわ」
「いわゆるハーレムパーティってやつね」
「あなたがアルバトロスを私に取られたくないって言うんなら、
それになったらいいんじゃないの?」
「…………」
アヤはぽかーんとしている。
あまりの展開に開いた口がふさがらないのだろう。
「で、どう? アルバトロス」
「私は、あなたが望むなら、今日からでもあなたの恋人になる用意があるけど、
あなたは、どうしたい?」
…………
正直言って、こんな日が来るとは思わなかった。
好意を抱いている女の子とは別の人から、
告白される日が来るなんて、予想すらしなかった。
だから、どうしたらいいのか、正直よくわからない。
いや、どうしたらいいのか、本当のところはわかってるんだ。
ここで、シャルロッテの告白を受け入れて彼女と結ばれ、
その上でアヤに告白をする。
アヤの性格上、僕がアヤ以外の女性と付き合った上で、
アヤに告白すると怒るだろうけど、
そこをうまくなだめれば、同時にふたりの女性と付き合うことができる。
冒険者として、男として考えると、これが最高の答えだ。
実際、そうやってうまくやっている冒険者はたくさんいる。
勇者レオンは、ユウコ、カステル、エリザベート、
3人の女性と同時に付き合っていた。
他にも、愛人や現地妻のような女性が数人いるから、
それらの人も含めると、10人近くの女性と同時に付き合っている。
そうだ、レオンは同時に10人の女性と同時に付き合っているのだ。
僕は、ユウコに捨てられたのに。
愛しているから、僕のことを捨てないでとすがったのに、
ユウコは、僕のことを捨ててレオンのもとへ行ったのだ。
レオンには、それが許された。
僕のような劣ったオスから、愛する人を略奪しても許された。
美しい女性10人と、同時に付き合うことすら許されたのだ。
それなのに、僕にはなにも許されないのか?
シャルロッテとアヤ、2人の女性と同時に付き合うことすら許されないのか?
そんなはずはない!
僕にだって、それくらいの権利はあるはずだ!
だから、僕は……




