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唯一にして最高の仲間




「だから、この人は仲間に入れないで、

私達だけでやっていこうよ。ねっ?」


 そう言って、アヤがにーっと微笑む。


 そこなんだよな。僕は彼女のこういうところに

惹かれてるんだよな……


 けど、それと彼女を仲間に入れるかどうかは別の話だ。

さて、どうしたものかと考え始めていると……


「あなた……ええとたしか、アヤ・カンナズキさんだったわね」


「そうだけど……それがなにか?」

「じゃあこうしましょう。カンナズキさん」


「私は、あなたたちがこの村から出て行くまでの

臨時のパーティメンバーになる」

「あくまで臨時のパーティメンバーだから、

仲間なんて大それたものじゃない」


「これならどう?」


 シャルロッテが、青色の長い髪をかき上げながら、

そう言ってきた。


 それに対してアヤは……


「……あくまで臨時のメンバーとして、私たちとは一歩引いたところにいるなら、

私はあなたをメンバーに入れてもかまわないけど」

と答えた。


 彼女を、仲間としてではなく一歩引いた同僚として受け入れるなら、

アヤに文句はないようだ。


 でも……なぜアヤは仲間というものに、

そこまでこだわるのだろうか。


 彼女をどういう待遇で入れようが、

別にアヤには関係ない話じゃないか。


 そこが気になった僕は、アヤに単刀直入に聞いた。


「アヤ、なぜキミは彼女を仲間にするのを嫌がるんだい?」


「…………」


 アヤは、こっちをじっと見ていた。

僕も彼女を見つめ返したが、

アヤはその僕をさらに見つめるだけで、

何も言わなかった。


 ???

なぜここでアヤは黙るのだろうか。

彼女は、はっきりと物事を言うタイプだ。

そこがチャームポイントなのに、なぜここで黙るのだろうか。

それは妙だと思った僕は、アヤにそのことを問いただそうとしたが……


「まあ、その話はまた今度でいいじゃない」

「とにかく、あなたたちは私の事を、臨時のパーティメンバーとして

受け入れてくれるのよね?」

とシャルロッテが話に割り込んできた。


 ああ、僕はそれで問題ないけど……

という感じでアヤを見ると、


「うん。それならいいよ」

と答えた。


「ということで、僕たちはキミを臨時のパーティメンバーとして迎えようと思う」

「これからよろしく」


 と言って彼女に手を差し出すと、

「これからも、ずーーーーっとよろしくねっ!」


 と言って、アヤが僕の手を握って握手した。

そう……アヤが僕の手を握って握手したのだ。


「……えっ?」

シャルロッテは動揺しているようだ。


 それは無理もない。はっきり言って僕も動揺している。

ここは僕とシャルロッテが握手するシーンのはずなんだけど……


「あの……アヤ?」

「なに?」

「なんでキミが、僕と握手するんだい?」


「僕は、シャルロッテと握手するつもりで手を差し出したんだけど……」

「私、まだしてもらってないよ」

「なにを?」

「だから……握手!」


 ちょっと待って。アヤは何を言いたいんだ?

正直よくわからない……


「……私がまだ、アルバトロスと握手してないのに、

この人が先にアルバトロスと握手するのは……

おかしいよね?」


「ね? おかしいよね?」


 ああ……そういうことか。

アヤは、唯一にして最高の仲間である自分を差し置いて、

シャルロッテが僕と握手するのはおかしいと言っているんだ。


 なるほど……確かにおかしいかもしれない。

「そうだね。確かにこれは、僕がおかしかったよ。」

「アヤ、ごめんね」


 と僕が言うと、


「わかってくれたらいいんだよ!」


 とアヤが答えた。


 アヤは、寛大な心で僕のことを許してくれたようだ。

そんな僕たちを、シャルロッテがどこかバカにしたような目つきで

見ていたような気がするけど……気のせいだろうか?


 とにかく、僕たちはシャルロッテと組んで仕事をすることにした。

そして翌日……


「……これで全員揃ったわね」

「それじゃ、さっそく狩りに行こうと思うのだけど……」


「その前に、ひとつ確認してもらっていい?」


「どうぞ」


「このパーティは、あなたが前の方でモンスターを引きつけて、

それを後ろからカンナズキさんが叩く、

その2人を私が魔法で支援する、

という構成のパーティでいいのよね?」


「まあ、そんな感じだけど……」


「あなたが最前線で戦う、このスタイルで本当に大丈夫なの?」


「騎士でも重装歩兵でもない、ただの道化師のあなたに任せて、

本当に大丈夫なの?」


 僕が前線で戦うという点を、シャルロッテがしつこく問い詰めてくる。

この仕事は、道化師には荷が重いと思っているのだろう。

たしかに、それはその通りなんだけど……


「まあ、シャルロッテのいいたいことはわかるよ。けど……」


と僕が続けようとしたら、いきなりアヤが話に割り込んできた。


「だいじょうぶ!アルバトロスならきっとやってくれるよ!」

「だって、あなたは私の……」


「騎士さまだからね!」


 そう言って、にいーっと微笑むアヤ。

彼女のそんな笑顔を見ていると、

どんなことでもできるような気になる。


 それがたとえ、何の根拠もない幻想であったとしても……


「はあっ……まあいいわ。とにかく、あなたが前線に立って

敵の攻撃を引き付けてくれるということでいいのよね」

「はい。」


「わかった。じゃあ私はあなたを魔法で支援するわ」

「あなたに強力な結界を張ってあげる」


「結界を張る?それをすると僕はどうなるんです?」


「結界が効いている間、あなたが敵の攻撃でケガをしにくくなるわ」

「要するに、結界が敵の攻撃を和らげてくれるのよ」


「それがあれば、僕が大けがしたり死んだりしにくくなるということですか」


「そうよ」


「わかりました。ではシャルロッテさんは結界をお願いします」


「わかったわ」


「じゃあ一度、このやり方でモンスターを間引いてみましょうか」

「そうね」


 こうして、僕らはエル・ダバーを出てモンスター狩りを始めた……


「あそこにワイルドファングが4匹いるわ」

「まず、あれから片付けましょうか」


 エル・ダバーを出て10分後、さっそくモンスターを4匹見つけた。

ワイルドファングは、獣のようなモンスターで、

素早い攻撃を得意とする。


 だから、この連中を叩くには、不意打ちが一番だ。

だけど……


「やつら、もうこっちに気がついたみたいね」

「こうなったら、不意打ちは諦めて正攻法で行きましょう」

「となると、まず私たちがすべきことは……」


 彼女は僕の方をじっと見ている。

まさか、彼女は僕に気があるのでは……

ということを考えていると


「エアリーシールド!」


 シャルロッテが呪文を唱えると、

僕は体のまわりに空気の鎧のようなものが出来ていた。

これは……


「それは空気で出来た、鎧のような結界よ」

「それがあれば、相手の攻撃をある程度は軽減できるわ」

さっき彼女が僕を見ていたのは、この結界を作るためだったのか。


「アルバトロス!ワイルドファングが来たよ!」

「おねがい!私たちを守って!」


「わかった。アヤも攻撃のほう頼む!」

「うん!」


 それだけ言うと、僕はワイルドファングのほうに斬り込みをかける。

僕は、あくまで囮だ。

敵を倒す必要はない。

ただ、敵を引き付けてさえいればいいんだ。


 だから僕は、敵の間合いに大胆に踏み込む。

ワイルドファングが脅威を感じるくらい、大胆に。


 それを見たワイルドファングは、僕の方に襲い掛かってきた。

しかし、1体だけはアヤの方に向かっていく。

これはまずいな……


「シャルロッテ!そっちに1匹行った!」

「アヤを守ってくれ!」


 と僕が言うと、彼女は状況を理解して素早く魔法で攻撃を始めた。

魔力をためる時間があまりなかったので、たいした攻撃は出来ないだろうが、

それでも、時間稼ぎと足止めくらいにはなるだろう。



 これで、あっちの方はなんとかなる。

なのでその間、僕はこの3匹とじゃれあっていよう。

そうすれば、後はアヤがなんとかしてくれるだろう。

そんなことを考えていると、ワイルドファングAが攻撃をかけてきた。


 僕はその攻撃をかわす。

勇者レオンのところにいた時、僕はこの手の囮役を何度もこなしている。

だから、回避することと逃げることには自信がある。

その経験をいかして、僕は敵の攻撃を避け続ける。


 たまに反撃しながら、ひたすら敵の攻撃を回避し続ける、

そうしていると……


「エルカイザーランス!」


とアヤの声が響いた。


 その瞬間、後ろから巨大な氷の矢が飛んできた。

その矢が、ワイルドファングA、B、Cを貫く。

体を貫かれたワイルドファングたちは、なすすべなく息絶える。


「これは凄いな……」

と僕が感心していると、向こうから

「どう? アルバトロス!」

と自慢げに語るアヤの声が響いた。


 これで、敵モンスターは全滅か……

いや、もう1体いたんじゃないかと思って

アヤのほうを振り返ると、残りのワイルドファングは

既に倒されていた。


シャルロッテが仕留めたのだろう。


 この調子で僕たちは、エル・ダバー近郊にいるモンスターを

次々と倒していった。

すると、いつのまにか日が暮れ始めた。


「だいぶ日が暮れ始めてきたけど……ねえアルバトロス。

そろそろ村に帰ったほうがいいんじゃないの?」


「そうだな……じゃあ今日はここまでにしよう」

「うん」


「そう……じゃあ今日の分の報酬は、明日の朝に渡すわね」

「そこで報酬をきっちり等分しましょう」


「わかりました」



「そういえば……今日の分の報酬ってどうやって計算するんですか?」

「僕たちが自己申告したモンスター討伐数をもとに、報酬を決めるんですか?」


「ええ、基本はそうなるわね」

「自己申告をもとにして作られた書類に、

書類の正当性を保証する証拠をつける必要があるけどね」


「証拠ですか?」


「たとえば、モンスターの角とか尾のように、何か特徴のある体の一部を

持ってくれば証拠になるわ。今回は村の役人である私が

モンスターの討伐数を記録しているから、何の問題もないけどね」


「もう話はない?じゃあ一度村に帰りましょうか」


 このようなやりとりの後、僕たちは村に帰った。


 そして翌日も、翌々日も同じように狩りをして、金を稼いでいった。

そのまま順調に狩りを続けていきたかったけど、

世の中、そううまくはいかないものだ。

今回も、そうだった。


 それは、僕たちがいつものようにモンスター狩りをしていた時だった。


 その時も、僕が前で敵を引きつけ、

後ろからアヤが攻撃するいつものパターンで、

モンスター相手に危なげなく勝利を収めていた。


 だいぶモンスターを倒したし、そろそろ村に引き返すか……

という時に事件が起こった。

危険な人食い鬼、マッドオーガを見つけてしまったのだ。


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