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しょせん人間なんてそんなもの




「ねえ、アルバトロス」


「なに? ユウコ」


「私、おおきくなったら……あなたのおよめさんになりたいな」



 ……………………



 僕はふと、昔のことを思い出していた。


 僕がまだ、幸せな幻想を見ていた頃のことを ……


「おい!お前何してる!さっさと料理の用意をしろよ!」

「は はい!ただいま用意します!」


 そう言って、僕は急いで料理の支度をし始める。

急がないと、またお叱りを食らってしまう。

そうならないうちに、早く料理を作らないと ……


「まったく、本当に使えないやつね」

金髪の少女が、そう言って僕を怒鳴る。


「使えない奴は、いつまでたっても使えないのね」

赤い髪の女性が、あきれながら僕に悪態をつく。


「この人、昔から使えない人だからしょうがないよ」

黒い髪をした少女 …… ユウコがそう言って僕をけなす。


「お前は雑用しか出来ないんだから、この程度のことはきちんとこなせよ」

こう言って、いらついた眼で僕を見下している容姿端麗で金髪の男が、レオン。


 運命のルーレットで勇者のカードを引いた男。

つまり、選ばれし者だ。


 選ばれし者は、彼だけじゃない。

金髪で長い髪の少女カステルも、赤い長髪の女性エリザベートも、

黒髪でショートヘアーの少女ユウコも、皆選ばれし者だ。


 それぞれ遍歴の騎士、女帝、魔導賢者のカードを引いている。


 この世界では、16歳になったら皆が運命のルーレットを引き、

何らかの力を手に入れる。


 そのカードの中で、当たりのカード(強力なカード)を引いた者だけが、

選ばれし者と呼ばれる。


 ここにいる人間は、皆特別なカードを引いた、選ばれし者なのだ。

…………僕を除いて。


 だから僕は、こうして勇者レオンのパーティで雑用をしている。

それしか出来ることがないから。


 もっと敵のレベルを落とせば、例えばゴブリンや

ウルフハウンドのような小物が相手なら、

僕も前線に立って戦える。


 こう見えても、勇者レオンのパーティで5年間下積みをしてきた身だ。

だから、その程度の敵なら1人でも倒せる。


 でも、ドラゴンや巨人のような強力な敵が相手だと、ほとんど何も出来ない。


 当然のことだけど、勇者レオンのパーティが倒す敵は、

ドラゴンのような大物が多い。

だから僕は、日々雑用をしているんだ。

足手まといに、ならないために ……


 僕が料理の後片付けをしていると、勇者レオンが話しかけてくる。


「おい、今日はお前もお楽しみに参加しろ」

「 …… いいんですか?」


「ああ、日頃雑用をしているお前への報酬だ」

「好きなだけ気持ち良くなれよ、クズ」


 にやつきながらそういうレオンに、僕はせいいっぱい媚びた顔でこう言った。

「ありがとうございます」


 それから1時間ほど経ち、体を休めていた魔導賢者ユウコが結界を張り始めた。

ここは、バルザール国の中にあるレパントの森だ。

町の中ではなく森、それも大きな森なので、当然、モンスターが出没する。

なので、警戒を解いてゆっくりするのは非常に危険だ。


 でも、僕たちのパーティには 魔導賢者ユウコがいる。

一度ユウコが結界を張ると、6時間は魔物が襲ってこなくなる。


 ドラゴン等の強力なモンスターの中には、 結界を無視して、

力ずくで襲ってくる敵もいるけど、そういう大物が来ても、

勇者レオンや遍歴の騎士カステルが持っている、

シックス・センスの能力があれば、

不意うちを受けそうな状況でも、態勢を立て直して反撃することができる。

だから、こんな森の中でもお楽しみの時間が取れるのだ。


 ちなみに、お楽しみの時間とは何か、そんなこと言うまでもない。

こんな森の中で楽しめることといえば ……


 そんな事を考えていると、すぐそこからカステルの甘えた声が聞こえてくる。

もう、お楽しみの時間が始まったようだ。


 今日は、僕も参加していいとレオンから許可を受けている。

だから、僕もこの時間を楽しもう。

嫌なことを、忘れるために。



 僕がレオンの方を見ると、彼の近くに3人の女がはべっていた。

今はカステルとお楽しみ中のようだ。

他の2人は、物欲しそうな顔をしてレオンを見ている。


 そんな2人を無視して、僕はカステルとレオンが愛し合うのをじっと見ていた。


 僕は、レオンの恋人である彼女らと愛し合うのも、

触れ合うのも禁止されているが、

許可を受けている時に限り、覗き見ることと自分で楽しむことは認められている。

だから、僕はせいいっぱい楽しむんだ。


 そうすれば、嫌なことを、この現実を忘れることができるから。

そう、僕は現実逃避をするために、この現実を生きているんだ。


 なにか矛盾しているって?

確かに、矛盾しているさ。

けど、人間ってそういうものだろう?


 そんなことを考えていると、 ユウコが冷ややかな目をしながら僕にこう言った。


「最低 …… 」


 それを聞いたエリザベートはこう答えた。


「こいつが最低のカスなのは、いつものことじゃない」

「私たちのような選ばれし者に寄生することしかできない、寄生虫なんだから」

「ねえ、そうよね。私の言っていること、間違っていないわよね」

冷ややかな目をしながら、彼女がそう言ってきた。


 そう言われたら、僕はこう答えるしかない。

「はい、僕は、アルバトロス・コルトハートは、

レオン様やエリザベート様の寄生虫でございます」


「 …… ねえ、前から思ってたんだけど …… 」

「あんた、キンタマついてんの? モノあるの?」


「いちおう、ついてはいますけど …… 」

「いえ、もちろんレオン様のモノに比べたら本当に粗末なものですが …… 」


 そう言って愛想笑いをする僕を、 エリザベートはゴミを見る目で見る。

おお、凄い目で僕を見てくるな。

そうだよ、僕はゴミだ。生まれつき、僕はゴミなんだ。


 人間として、冒険者として才能がない上に、

ろくなカードを僕は引けなかった。

だから、生まれつき、僕はゴミなんだ。


 生まれつきのゴミ、ただそれだけの話なんだ。

何も難しいことはない、ただそれだけだ。

僕はもう、生まれた時から負けているんだ。

勇者レオンが、生まれた時から勝っているのと同じように。


 僕がそんなことを考えていると、

エリザベートがユウコにこんなことを言ってきた。


「何かの間違いで、レオンじゃなくてこんなゴミと恋人になっていたらと思うと、ぞっとするわね」

「ねえ、ユウコ。あなたは特にそう思うでしょう」

「私と違って、本当にそうなっていた可能性があるんだから」


 それを聞いたユウコは、ただ一言こう答えた。


「そうね。もしレオンのような優秀なオスと出会わなかったら、

この負け犬と付き合っていたかもしれない」

「それを考えると …… 」


 彼女は、感情のこもってない目で僕を見る。

きっと彼女にとって、僕と過ごしてきた日々は、おぞましい物か、

なんの意味もないものなのだろう。


 そりゃ当然だ、彼女のような優秀なメスにとって、

僕のような劣ったオスは何の価値もない。

だから、そういう態度をとるのは当然のことだ。


 そこに僕は納得しているから、彼女に対して含むところは何もない。

劣ったオスである自分が捨てられるのは、当然のことなのだ。


 だから、彼女についてはただ、こう思っているだけだ。

しょせん人間なんて、そんなもんさ ……


 そうこうしているうちに、お楽しみの時間が終わり、

勇者たちは寝袋を使い、川の字になって寝始めた。

その彼らを見ながら、僕は見張りをしていた。


 寝る前に、ユウコが結界を張ってくれたから、

そんなに気合を入れて見張る必要はないのだが、

誰も見張りをせずに寝るのは危険性がある。

だから、僕が見張りをするのは当然のことだ。


「……カード召還」

僕がそう唱えると、何もない空間からカードが1枚召喚された。


「 …… やっぱり、何も変わってないよな」

そう言ってため息をつく僕の手には、1枚のカードが握られていた。

ひとりの小男が、周りの人に指をさして笑われているカード、

道化師のカードが。


 カードは、その持ち主になんらかのプラスの影響を与えてくれるものだ、

勇者のような当たりカードになると、そのプラス面は計り知れない。

兵士や学士のような、たいしたことのないカードでも、

そこそこのプラス面はある。


 だから、努力した兵士カードの持ち主が、

適当に生きている大騎士カードの持ち主を倒すこともある。


 けど、基本的にはカードの優劣イコール、人生の優劣だ。

運命のルーレットで、どんなカードを引き当てるかが、

その後の人生に大きな影響を与えるのだ。


「道化師のカードを引き当ててしまったら、もうどうしようもないよなあ」

僕はそう言ってため息をつく。


 道化師は、何のプラス面もないはずれカードだ。

つまり、このカードは、あってもなくてもどうでもいいカードなのだ。


 そういうカードを引き当ててしまった僕と、

勇者のようなカードを引き当てたレオンとでは、

人間の価値、オスとしての優秀さに雲泥の差がある。


「だから、こうなるのも仕方がないんだよなあ」

「本当に、仕方がない、どうしようもない …… 」


 そうしているうちに、僕は少しずつうとうとし始める。

今日は、素敵な夢が見れるかな?

現実がこんなんだから、せめて夢くらいは、素敵な夢を …… 見たいなあ ……


……………………

……………………


「おい!お前何寝てるんだ!ふざけんじゃねえよ!」

レオンの蹴りで僕は起こされた。


「す、すいません!申し訳ありません!」

すぐに僕は土下座してわびを入れる。


 まだ寝ぼけているので、何がどうなってるのかよくわからないが、

レオンが怒っていたら無条件でわびをいれるしかない。

こうしないとパーティから追い出されてしまうかもしれない。


 僕は雑用とは言え、勇者レオンのパーティの一員なので、

そこそこのお金を(もちろん他の仲間とは圧倒的な格差があるが)

もらうことができる。

レオンのパーティを追い出されると、それができなくなる。


 それは困る。だから、僕は必死にわび続ける。

「申し訳ございません!申し訳ございません!」


 レオンの端正な顔立ちが歪んでいる。

かなり怒っているようだ。

こうなったら、相手の怒りがとけるまでわびるしかない。

そうしないと、僕は ……


「ぐふっ!」

レオンは僕の頭に蹴りを入れると、ひれ伏す僕にこう言った。


「次からは気をつけろよ」

「はい、レオン様。次からは気をつけます」


「こいつ、本当に役に立たないやつ…… ]

「けど、そんなこいつを養ってるレオンって凄く優しいよね」

「だから、レオンって好きなんだ~」

そう言って、カステルがレオンに媚びる。


「うん。私もそうだよ。レオン大好き!」

ユウコもにっこりと白い歯を見せながら、レオンに媚びた笑顔を見せる。


「さすが、私たちのダーリンね」

エリザベートもレオンを褒めたたえる。


 もし……僕が勇者のカードを引いていたら、

ユウコの笑顔は、僕だけに向けられていたのかな。

昔、僕たちが幼馴染だったころ、そうだったように ……


















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