二人の女と女
「つーかーれーたぁ」
「ふふ、お疲れ様ですわ、リン様」
ーーリカと入れ違いで二人の女が入って来た。
「おかえり、リン、ネネ」
「ただいま戻りましたわ、ツバキ様」
「あー!ツバキおねーちゃんの特製の匂いする!!」
リンとネネ、と呼ばれた彼女達。
リンと呼ばれた女の子は綺麗に真っ青な髪色をしたショートカットの女の子。前髪はアシンメトリー。子供っぽい喋り方が特徴的だ。
ネネと呼ばれた彼女は紫色の髪色で、編み込みをいれており、後ろで団子にしてまとめている。清楚な白いドレスを身にまとっている。
「あら…?そちらのお方は?」
「新入生。色々説明する為に連れてきた」
「そうでしたのね。こんにちは、大変だったでしょう?入学式まではごゆっくりなさって下さいね」
ネネはふわりと柔らかく、温かく微笑んだ。
物腰柔らかい喋り方をしていて、良いところのお嬢様なんだな、と伺える。
リンはハルクの目の前に来て、ニコニコと見詰めている。
ハルクは少しばかり気まずそうに見つめ返して問う。
「…何か用か」
「ふふ、おにーちゃんって結構かっこいいと思って!」
「…そうか」
元々褒められ慣れていないハルクは照れくさそうにリンから目線を逸らす。
「おにーちゃん、リンはね、リンドウって言うんだよ!リンって呼んでね?」
「自己紹介が遅れてしまい申し訳ございませんわ。わたくし、ネネと申します。以後お見知りおきを」
リンは相変わらずニコニコしながらこちらを見ている。
ネネはスカートを少し持ち上げ会釈した。
「俺はハルク。好きに呼んでくれて構わない」
「ハルク様…なんだか、貴方のイメージにぴったりですわ」
ネネは微笑む。
「そうか。ありがとう」
ハルクはぶっきらぼうにお礼をした。
"ある事件"以来すっかり人との関係が疎遠になってしまった今、こうして人と関わる事が久しく関わり方を忘れてしまっている、というのが正しいだろう。
彼が今関われる精一杯の言葉であった。
「ハルクおにーちゃんは何が得意なの?」
「何が、得意?」
「まだ何も教わってないから特にないよ、ね?ハルク」
「…あぁ。リンは何が得意なんだ?」
「リンはね、召喚魔法が得意なんだよ!」
「ふふ、リン様はこう見えて召喚魔法使いですのよ?」
「リンね!こう見えて獣に乗る、ライダーなんだよ!あ、ネネおねーちゃんの方が凄いけど…」
召喚魔法…自分の中に眠る守護神ーー獣を召喚する魔法であり、獣は自身の精神と一心同体で大きさを変えられたり操れる事が可能だ。
獣は守護神みたいな物なので人によって姿形は違う。
ライダーとはその自身の獣に乗る人の事である。
ライダーは体力や精神力、魔力等を大量消費する為とても難しく、この学園でも数人しかこなせていない。
「…お前は凄いんだな」
「ライダーは出来ませんけど、変身魔法ならわたくし得意としておりますわ」
変身魔法…獣を具現化せず、自身に力や魔力を投与し、自身の姿を変える魔法である。
この魔法もまた困難な魔法の一種で、かなりの体力や精神力、魔力を必要とする。
こんな困難と言われる魔法を使えるのにも関わらず、何故このチームは最下位なのかがハルクは疑問に思っていた。
「私は元々体力がらないから軽く魔法を使うかこのナイフくらいしかないの」
「ツバキおねーちゃんは細すぎだよ!色白すぎだし~…」
あはは、と温かい空気が流れた。
そんな中ネネが急に黙り込む。
「…………」
「…ネネ?」
「放送が流れますわ。ハルク様、今はとりあえずわたくしの言う通りになさって下さい」
ハルクはとりあえずネネに従う事にした。
ツバキは苦笑いしつつ耳を塞ぎ、リンは嫌そうな表情で耳を塞ぐ。
「耳栓を、なさってください」
「わかった」
耳を塞ぐ。
聞こえないように、聞こえるように。
すると耳を塞いでいてもうるさいと思える音量でギターの放送が流れる。
『ハァイ!新入生のみなサン!!』
男にしては声が高い放送が教室、廊下、校内中に流れている。
『もう何かしら説明受けてる?受けてなーい??まァそんなことどうでもいいよネ~とりあえず…体育館にシューゴー!』
ブツンと放送が切れたと共にリンが吐き捨てるかの様に大声を張る。
「テメェの放送いっつもうるせぇんだよ!ボケウサギが!!!」
ハルクは呆然とその声を聞きながらも驚きを隠しきれなかった。
子供っぽい喋り方で、俺のことはおにーちゃん、ツバキやネネのことをおねーちゃんと呼ぶあどけない表情、声からは想像出来ない位の大声と口調。
ハルクはただただ困惑し、驚いていた。
「リン様落ち着いて下さい。ハルク様が大変困惑していらっしゃいますわ」
「えっ…あぁ、おにーちゃんごめんね」
さっきの表情と打って変わってヘラ、と笑顔になる。
「じゃあ体育館に行こうか」
ハルク達は体育館へと移動する事にした。