再会?と男と女と男
ティーポットに手を掴まれ、どうしようか迷っていた時だった。
「ティーポット先生、その子を離してあげて下さい。私がこの子の担当ですので」
凛とした声。
真っ黒だけど毛先は赤色のメッシュのロングの女が現れた。
ティーポット先生という人は『そお?じゃあ任せるわねぇ』と言い、いつの間にか居なくなっていた。
女が振り向くと、ハルクは目を疑った。
「ツバキ…?」
そう名前を呼ぶと彼女は真顔でいた。
ツバキ。
ツバキという名の奴こそ、ハルクが抱える問題…"あの事件"に一番関わっている重要人物である。
彼女はそのツバキ、に瓜二つであった。
彼女の元へ足を進め、そのまま頬を撫でて見詰めた。
(ツバキだ、ツバキだ)
彼女の名前を何回も心で呟く。
"あの事件"から彼女を忘れたことなんか一度たりともなかった。
忘れられなかった。
忘れたくなかった。
「…え?何??」
彼女が眉を下げて困ったようにこちらを見つめ返してくるが、すぐ逸らす。
ツバキの癖と同じである。
困ると眉を下げ見つめ返してくるもののすぐに目線を逸らしてしまう。
「ツバキ、」
「あの、な、んで私の名前…」
久しぶりに会えたと思った彼女は彼を覚えていない様子で、それが受け入れられないハルクは肩を揺さぶった。
「嘘だろ?なぁ、俺だ、ハルクだ。覚えてないのか…?」
「えっ、お、おぼえて…??」
もう一回彼女の名前を呼ぼうとした時だった。
「ツバキちゃん遅…何やってるんだよ、お前。てか、誰?」
やってきたのは金髪のくせっ毛気味な男。
その男はすぐに駆け寄ってきてツバキを守るかの様にハルクの前に立ち、そのアメジストの様な瞳で敵意丸出しで睨みつけられる。
「お前、ツバキちゃんの何?」
妙にツバキに馴れ馴れしい男がとてもハルクにとって癪に障った。
「お前こそツバキの何なんだ」
と、睨み返しながら男に言い放つ。
すると横から割り込む様にツバキが間に入る。
「二人ともっ…落ち着いてって…!」
「ツバキちゃん…でも…」
「リカは先に戻って。この子は私が担当するから、ほら」
ツバキに言われるとリカと呼ばれた男はしぶしぶ校舎内へと戻っていった。
その二人の会話をハルクは呆然と立って聞いていただけだった。
するとツバキがいきなり頭を下げた。
「ご、ごめんなさい!乱暴されてないとは思うけど、大丈夫?リカったら…あ、でも悪気はないの!根はいい人だから!!」
と、落ち着いた様子もなく饒舌になるツバキ。
それをただただポカーンと聞いているしかなかった。
「そ、それと…確かに私はツバキっていう名前だよ。でもね、貴方は知らない。初対面なの。その…ごめんなさい」
「いや、こちらこそすまない。人違い…だったみたいだ、申し訳ない」
とこちらも頭を下げる。
すると先程とは変わって落ち着いた様子で、だが少し寂しげにツバキは微笑む。
「しょうがないよ、ここはそういう所だし…でも良かった。貴方いい人そう。あ、名前は?」
ハルクは言っている事に疑問を抱きながらも、彼女の質問に答える。
「ハルク、っていう」
「ハルク!カッコイイ名前。じゃあ校内にとりあえず行こう。中で色々説明するよ」
そうすると彼女はハルクの手を握ると、グイッと手を引く。
そして中へと駆けていく。
ツバキの手はとても冷たかった。