外出 ─Sea─
御主
愛称:ヌシ
自動車メーカー、『四葉』社長である御穂のご令息。
財力があり知力が高くイケメンで性格もいいという、絵に描いたような人だ。
───
「....ィー、リー! 起きて、リー!」
リー? 誰のことだ? と思いながら龍一は目を覚ました。
そして目の前にいたセレネを見て思い出す。
リーとは、昨夜セレネが龍一につけたあだ名だった。
「リーチ真っ先にフラグ回収したね。」
「『絶対に寝ない!』だっけー?」
ニヤニヤしながら───リーチの寝顔ゲット♪とか言う二人に少しだけイラついた。
素晴らしく目覚めが悪かったがそれはいいとして。
四人はヌシの家の車の一つを借りて海に向かっている。
もちろん全員十六歳なので御家のドライバーさんも借りてきた。
「見た目ちっちゃいのに中広いな。この車。」
「まーそれがうちのウリだしねー。」
「それより、いいのかい? ここまでしてもらって。」
「あー。問題ないさー。みんなあんま忙しくないしー。」
大企業の社長様のご令息はやっぱすごいなーと思っていると、
「リー、アレが海?」
「そう、ってすごい人だなぁ!」
「おー、んとだー!」
「マジかあんなに居んの?」
つい昨日一昨日に梅雨が明け、その上急速に真夏日程に気温が上がり、且つ夏休みのはじめとあって、海水浴場は大変たくさんの人で溢れている。
「ちょっと人多すぎでない? 少し減らそうぜ?(笑)」
「縁起でもないこと言うなよ。その言い方は一種のフラグってやつだぞ?」
■□■□■
そこにいたのは、まさしく女神だった。
男子一同は声も出なかった。
その視線の先にいたのはセレネ。
露出多めのワンピース型の水着の上から、生地の薄いパーカーとスカートを着たそれは、ダイヤも霞む美しさと輝きを放っていた。
普段は頭と手しか見えない分、そのギャップにいっそう美しく見える。
「眼福だ。」
「ああ。」
「異議なーし。」
「あ、あんまり、見られると、そ、その...」
「顔真っ赤にしてもじもじしてる辺りが堪らん。」
「ああ。」
「異議なーし。」
「と、ところで、ここに、何しに来た?」
場の空気が凍った。
「な、なぁ。海って何をする物なんだ?」
人生で初めて海に来た四人には、まして内一人は『海』そのものを知らなかった状態では、海遊びなど知っているはずもないのだ。
「フッ この俺、クロが知っているとでも?」
「海、どうやって楽しむんだろー?」
「ですよねー。よしッ、go〇gle先生!へるぷみー!」
「肝心なところ、無計画、だね。」
ごもっともだ。
「宝探しとか西瓜割り、あとはスポーツとかして楽しむらしい。」──よくわからぬが。
龍一は検索結果をまとめて報告する。一般的にはこんな遊びをするみたいだ、と。
「なるほどねー。」
「宝探しが簡単でいいんでないかい?」
「宝? 海には、宝がある?」
「いや、天然の宝を探そうっていうのじゃなくて、自分達であるものを宝として決めて、それを誰かが隠して、隠した人以外でその宝を探す、ってゲームだ。」
「楽しそう。やる。負ける気、しない...!」
「決定だな。」
■□■□■
ルール
・一平方メートルの中に宝を不参加者二人が埋める。
・参加者二人は、スタートの合図で同時に探し始め、五分以内に先に見つけた方の勝ち。
・負けた方が進むトーナメント戦で、一番負けた人は全員にジュースを一本ずつ奢る。
・宝は深さ三十センチ以下の位置に埋める。
・二人同時に見つけた、もしくは二人とも時間内に見つけられなかった場合は二人とも負けとする。
・魔法の使用は反則、負けとする。
第一試合
リーチvsクロ
「よーい、スタートー!」
宝探しに於いて大切なことはただひとつ。全体を見ること。
全体には、不参加者も含まれる。というより、不参加者はなにも言わなくても場所を教えてくれる。
人が物を隠すと、その隠した場所を何度も確認することが多い。また、隠した場所の近くを探されると表情に変化がある場合が殆どだ。
この考察より導かれし答え、それは...ッ!
「ここだ!」
「第一試合、リーチの勝ちー!」
第二試合
セレネvsヌシ
「よーい、スタートッ!」
知らぬと思うが、わっちの別称はサーチャー。どんなものでも三十秒以内に見つけてきた。
そのわっちの勘が示す場所、それは...ッ!
「みーっけ♪」
「第二試合、ヌシの勝ち!」
第三試合
クロvsセレネ
「ちなみにぃ、これが最後の試合だよー。」
「よーい、スタート!」
魔法が使えなくても、物質が放つ魔力はわかる。
砂と違う種類の魔力があるのは四ヶ所。
『宝』と似た魔力を感じるのは二ヶ所。
まずは、こっち...!
「...なにこれ?」
見つけたのは、謎の黒い石だった。
気を取り直して、もう片方の魔力源に飛び付く。
「第三試合、セレネの勝ちー!」
「というわけでクロ、ゴチになります!」
「マジかぁ...」
次回 黒き石 ─happening─