来客 ─Event─
今日の午後──正確には午後一時半に龍一の家に友達が遊びに来る。
問題は、セレネをどう説明するか、だ。ただの異世界出身の居候なのだが、あの二人のことだ。きっと彼女だのなんだのとからかってくるのだ。そこにセレネが「彼女、とは?」と突っ込んでくるだろう。
ああ、面倒くさい。
ここはもう諦めてそういうことにした方が良いのだろうか。
もう、どうにでもなれ。
■□■□■
同日の午後一時五十分。
「リーチー、遊びに来たぞー。」「開けろー。」
二十分遅れで友達が来たらしい。ちなみに "リーチ" とは龍一のあだ名だ。
「鍵開いてるから、入っていいよ。」
「お邪魔しまーす。」「うぇーい。」
「...その腕、どうしたの?」
「あーこれぇ? この前事故ってよぉー。軽い腕の骨折だってぇー。」
骨折した彼の名前は御主。愛称:ヌシ。喋り方は馬鹿っぽいが、成績は学年トップ。
その右にいるのが朱音海翔。別名:真っ黒海翔。愛称:クロ。
「腕、見せて。」
奥からセレネが出てきてそう言った。
「お? リーチのカノジョかぁ?」
「ただの居候。」
「いいから、腕、見せて。」
「ぉ、おう。」
しばらく主の腕を見た後、セレネが患部に手を翳す。
すると水色の魔法陣の様なものが浮かび上がり、消えた。
「...ぁれぇ? 痛くなくなったー。し、動かせるー!」
「凄ぇや。今んどうやったん?」
「《第十番魔術其四》」
「なにそれぇ。」「なるほどわからぬ。」
「《第十番魔術其一》の応用。簡単な、こと。」
「よくわかんなぁい。リーチはわかる?」
「さっぱりだぜ☆」
「それとセレネ、魔法の使用は最小限にな。なるべく地球人三人以外には知られないようにしてほしい。」
「了解。」
セレネがいた世界では魔法は普通かも知れないが、ここでは大変珍しいものだしな。信用できない人には知られないようにしたい。
「今更だけど、質問。その、大きな、荷物、何が、入って、いる?」
「リーチ、彼女さんに言ってないの?」
「あ、言い忘れてた。今日はお泊まり会で、明日はみんなで海に行くことになってるんだわ。」
「その、ための、荷物、?」
「そう。」
そして龍一はもうひとつ忘れていたことがあったのに気づいた。
「あ、そう言えば、買い物行っていいか?」
現在、家には大して食い物がない。
夏休み初日、セレネを拾ってきた時から食料の消費は今までの倍になっている。
まして一人暮らし "だった" のでそのくらいの食料しかなかった訳だ。
そこから導き出せる答え、それは───
四人分の食べ物など、存在しないッ!
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家近くのスーパーにて。
主と海翔には食料を買ってもらってる。
そして龍一とセレネはというと...
「龍一、どっちの、方が、似合ってる、?」
海ということで、セレネ用の水着を "作る" のだ。そのための材料を買っている。
「右側の方が合ってると思う。」
今のを含めて三種類程買っているが、どんなのを作るのだろうか。
◇
リーチと別れ、割り勘で今日の夕食と明日の朝食を買わされているわっちらは、とりあえず共通の好物である「肉」を買うことにした。
「なに肉食べるー?」
「俺は牛がいいな。」
「わっちも牛食べたーい。リーチはどーだろ?」
「訊いてみる?」
肉の種類
──────────
リーチは何の肉が食べたい?
ちなみにわっちらは牛が食べたい。
返信
Re:肉の種類
──────────
俺とセレネも牛がいい。
今晩は焼き肉かい?
だったらタレがないから買っておいて。
「だって。」
「りょーかい。」
◆
さて会計だ。
自分の金も使われるので大分抑えたつもりだ。
料金は三八七九円。一人一二九三円。
手数料と称してリーチからちょっと多く出してやろうと、別れ際に受け取ったリーチの財布を開けた。
開けると、こんなメッセージが書いてあった。
【この財布には一九九九九円入っていることを確認済だから詐欺ろうとしても無駄だぜ♥】
財布の中身は、一万円札が一枚、五千円札が一枚、千円札が四枚、五百円玉が一枚、百円玉が四枚、五十円玉が一枚、十円玉が四枚、五円玉が一枚、そして一円玉が四枚と、確かに一九九九九円あった。おそらくちょうどで出せという意味だろう。どこまでケチいんだリーチは。
■□■□■
河原家にて
「そういえばもうできたの?」
「うん。あれは、簡単な、部類。」
やはりセレネの裁縫スキルは高いらしく、さっき買ってきた布をもう水着の形に仕上げている。
「はァ?!マジか!」
「すごーいね。セレネ。」
「大した、こと、ない。」
そしてセレネは、そういえば、というようにこう切り出した。
「そういえば、龍一の、パソコンの、 "本人以外進入禁止" フォルダ、あれ、なに?」
部屋の空気が凍った。
「え、えっと、み、見なかったことにしておいて。」
「リーチも年頃かぁー。」
「そういうんじゃないから!」
次回 外出 ─Sea─