意欲 ─Learning─
翌日。
「おは…よう。」
「お、おはよう。…ねえ、近くね?」
起きたら目の前に人の顔があってビックリしかけた。それが美少女だったからよかったものの、それ以外だったら軽く失神してた。
その美少女とはセレネ。
長く、青みがかった白髪で青眼。それでいて綺麗な白い肌をしている。
異世界から召喚されたらしいのだが、宿の当てがないので家に居候している。
龍一はベッドから起き上がり、テレビをつけて朝食の準備をはじめた。
「龍一、質問。これ、何?」
セレネは朝強いんだなーとか思いながら、眠い目を擦って答える。
「それはテレビだ。」
「テレビ…テレビジョン、電波で実景をそのまま遠くに送って、映写する装置…?」
「へえ、辞書にはそういう風に書いてあるんだ。」
"テレビを知ってますか?"という質問は愚問でしかないのだが、それを詳しく説明してくれとなると難しい。
わかりきった言葉でも、それを辞書で調べるのは面白いかもしれない。
「で、龍一。今、何、作っ、て、る?」
「パンを焼いてる。あと2分で焼けるから、ちょっと待ってて。」
「わかっ、た。」
■□■□■
時刻はかなりとんで、同じ日の午後4時。
朝食をとった龍一らは、市役所に向かった。
セレネの住民登録をするためだ。
異世界からやってきたセレネは、住民票を持っていない。
これではなにかと不便なので登録をしてきた。
できるかどうか不安だったが、なんとかうまくいった。(職員さん、マジ感謝します!)
その後、昼飯を食べ、食料品の買い出しをしたりセレネ用の衣類を買おうとしたら「自分、で、作る。」とか言うから生地を買うことになったりした。
現在、龍一はネトゲを、セレネは裁縫をしている。
画面に反射してセレネが見えるが、なかなか上手い。
さっき使い方を教えたばかりのミシンを簡単に使いこなしている。
「ん。…でき、た。」
「へ?」
振り返るとそこには、──見覚えある深藍色の生地で作られた── ローブのようなものがあった。
シンプルなつくりに見えるが、よく見ると複雑な構造をしている。
丸二日頑張れば龍一でも作れそうだが、セレネはそれを一時間で仕上げた。
…セレネ、裁縫スキル高過ぎ。
驚く龍一を他所に、セレネはバタンと倒れ込みこう言った。
「もう、限界。空腹、耐えられ、ない。」
「い、今作るから待ってて。」
今日の晩飯はカレーだった。
どうやら日本式のカレーは、セレネのいたエルなんとか帝国にもあったらしく、懐かしいと言っていた。
今は、2人で寛いでいる。どうやらセレネはテレビが気に入ったらしい。
「この、薄い、板、不思議。」
だと。
寛いでいるとはいえ、今は夏休み。
やはり山のように宿題が出されている。
はじめの方に全て終わらせる派の龍一は、今、宿題の山と戦っている。のだが。
「…スッゴくやりずらいんだが。」
「どう、か、し、た?」
「テレビはもういいのか?」
「だめ。でも、こっち、も、気になる。異世界、の、知識。」
セレネが龍一の宿題をめっちゃ見ている。一人で静かに黙々と勉強したい派の龍一としてはちょっと…
「…教えようか?」
「頼む。」
それから一時間、高一の数学をバッチリ教えた。
教えたことを次から次へと覚えていくのがちょっと面白かったし、やりがいがあった。
「この、世界、楽しい。エルカディア、に、ない、もの、ある。」
「そう。もしよかったら、俺が小一の頃から貯めてきた教科書読む?」
「読む。」
素晴らしい学習意欲だなーと感心しつつ、押し入れにしまっておいた ──放置されていた── 教科書を見つける。
「ほい。計九年分の教科書。」
「感謝する。とても。」
それから寝るまで勉強会の開催だ。
■□■□■
「そうだ、そういえば明日は友達が遊びに来る日だ。」
「龍一、の、友達…! 新たな、異世界人!」
…そう捉えるのな。
目を輝かせてそう言ったセレネに、龍一は心のなかでそう呟いた。
次回 来客 ─Event─