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ワールドアパート1/ハムレットの笛吹き少女   作者: ジント
7F ハムレットの笛吹き少女
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28/32

セレン・レイノルズ

 切っ掛けは、些細なものだった。


 好奇心という、幼心に大抵付随している感情を母の中に置いてきた自分が、唯一興味を持ったもの、それが母のフルートだった。

 

 毎日、父と一緒に聞いていた母が奏でる笛の綺麗な音色は、物心つく頃からあこがれの対象だった。


 ろくに吹けもしないのに、母の笛が欲しいといつまでもせがむ私。


 そんな私に、父が初めはこれで練習しなさいとプレゼントしてくれた、銀のホイッスル。


 落としたり無くさないようにと、首から掛けられるようにしてくれた、初めての自分の楽器。

 

 一つの音しか出せないとぐずっていた私に、父は困り顔で、そんな私達に、母はいつも向日葵のような優しい笑顔を向けていた。

 

 本当は、その小さなホイッスルをもらった時、恥ずかしくて口にはしなかったけど、とても嬉しかった。

 

 これで、ほんの少し、母に近づけたような気がしたから。


 いつかは母の様に、素晴らしい音色を奏でる人になろうと、心に決めた時だから……。




「……」

 まぶたが重い。

 目を開けたはずなのに、視界はぼやけたままで、殆ど何も見えない。

 それどころか、手足さえも、鉛で出来たかのようにいう事を聞かない。

 だけど手のひらには、父がくれたホイッスルが収まっているのが分かって、嬉しかった。

「……」

 夢を見ていた気がする。 とても懐かしく、優しい夢を。

 自分で壊してしまった……二度と戻らないあの日々を、もう一度見る事が出来た。 もうすぐ、それすらも思い出せなくなるだろうけど、それでも、たとえ夢だとしても、嬉しかった。

「……」

 あの人は、私を助けてくれた。

 私達の問題に巻き込んでしまったのに、助けてくれた。

 

 ――だけど、せっかく助けてくれたけど……もう痛みも感じない。


 両親以外で、話していて楽しかったのは初めてだった。 ほんの少しだけど、楽しかった。


 もう少しだけ、もっと別の事を、話してみたかった……。



 もう少しだけ、色んなことを話してみたかった。



 外の世界の、色んなことを、話してみたかった。

 





 もっと、聴いて、欲しかった……。

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