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 都心部より少し離れた場所にある、鉄筋三階建てアパートのワンルーム。 現在十畳にも満たないその部屋には、乱雑に置かれた本や電子部品、ガラクタと言う名のジャンクで溢れかえり、足の踏み場も無いとはこういう事だと、見本にするには十分な様相を呈している。 

 俗に、世間一般ではこのような部屋の事を汚部屋というようだ。

 加えて、壁にはポスターやらコルクボードが所狭しと張り付けられ、元々あった白い壁紙も、フローリングの柄も三センチ四方のスペースを見つける事さえ困難だ。

 そんなカオス部屋の中でも唯一確認できるのは、二台のパソコンデスクとベッドと冷蔵庫。 そして、二人の人間位なものだった。

「季人、もうそろそろ編集は終わったのかな?」

 そう口にするのは、この部屋兼事務所の主、髪も程よく後退し、アラサー目前のウィリアム・フレイザー。 

 彼はタレ目を覗かせる眼鏡を掛け直しながらモニターを見つつ、片手でキーボードをピアニストのように叩き、そのすぐ隣で気怠げにモニターを眺めている水越みずこし季人きとに意識を向けた。

 季人と呼ばれた天然パーマの青年は鼻で笑ってから首を縦に振る。

「……あぁ、この俺にかかればこんなもの、ウィルがクリスマスを迎えるまでには終わらせてやるさ」

 それがクリスマス前夜であれば頼もしくも聞こえたが、今はまだ十一月に入ったばかりだった。

「今朝から君は今まで何をカチカチとクリックしてたんだい? ソリティアか何か?」

 ウィルは呆れながらも、特別本気で責めるわけでもなく、むしろいつも通りだと言わんばかりに溜息と苦笑が口から同時に漏れ、それ以上気にした素振りは見せなかった。 

 季人は答えた後も変わらず、右手を添えたマウスでマウスパッドも敷かないデスクの上を縦横無尽に擦り続ける。

 しかし、それも直ぐに止まり、肺に溜まった息を盛大に吐き出すと、ぐいっと椅子の背もたれに上半身を投げ出した。

「はぁ……もう、だめかぁ?」

 ギシギシと背もたれが抗議するかのように返事をする。 そして、季人の体をズルズルと滑らせて落そうとしてくる。

 季人はそんな事は御免こうむるといった感じで椅子の座面に手をかけて座り直した。

「へはは、今日の閲覧者数は?」

 ウィルが横目に聞いてくる。

「もう全然ダメ。 ROMってるのを含めて五十人もいかねぇよ。 俺とウィルが確認する為にページ開いてる回数の方がカウント稼いでるな」

 季人はモニターに表示されてる編集中のホームページを閉じて、一時停止していた映画を途中再生させる。 そこには、少年が巨大なアンプの前でギターを鳴らし、爆音の衝撃で盛大に吹っ飛んでいく様子が映っていた。

「これはあれだね季人、拾ってくるネタがマンネリ化してきたせいかもね」

「今じゃオカルトだけじゃなくて、哲学ネタも増やしたっつうのに。 いや、ホラーとかのほうがよかったか……チョイスをミスるとはな……」

 季人の呟きに、ウィルがキーボードから手を離して笑いながら季人の方を向いた。

「いやぁ、やりたい事から軸がぶれだしてるともいえるんじゃないかな~」

 ニヤニヤした顔がこれほどに合う男もそうはいないだろうと、季人は横目にウィルを見ながら感心していた。

「そんな事言ったって、ぶっちゃけやってる事は他のサイトと一緒なんだからよ。 真偽問わず有名なものはあらかた出揃って、真新しいネタの取得先は結局オカルトスレ、SFスレの掲示板だからな。 そりゃネタも尽きるって」

「へはは、違いない」

 二人が運営しているホームページ、“ワールドアパート”は、どこにでもある……さらに言えばありふれているSF・オカルトサイトだ。

 世界の不可思議な現象から七不思議、オーパーツやサイコなネタまで取り扱うまとめサイトのようなものだ。

 決して人気のないジャンルではない。 むしろ世の中にはそういったものを好む人種の方が多いだろうと思い立ちあげたホームページだった。

 ネッシーや水晶髑髏など、次々と捏造という真相が明かされるものが出て来てもなお、テレビでは特番が組まれ、特集雑誌は刊行されていく。

 しかし、世界は広いと言うべきか、同じくらいネットの世界も広大と言うべきか。

 思い立った頃には当然その先駆者が数十年も前からいるわけで、後追いのように始めたとしても、老舗と比べると、ニューブランドを広めるには多大なる宣伝努力をしなくてはいけない。

 検索エンジンへの登録は当然として、既に存在している老舗サイトへのポスター貼り……もとい、リンクの申請。 滞ることなく続けるホームページの更新。 率先した新情報への探求心。

 と、ここまではどこのサイトでも当然のように行っている。 と言うより、やっていなければ話にもならない。

 だから、逆に考えれば、そこまでやれば多少なり閲覧者は増えるだろうと思っていた。

 結果は全身を弛緩させた季人の姿が表している。

 正直言って、甘かったというのがワールドアパートの創設者であり管理人でもある季人の心中だった。

「世の中の奴らはもうちょっとこう、非現実的な話題に胸を躍らせるって事は出来ないのかよ。 男に生まれたからには、誰しもが一度は大きい生き物や乗り物に憧れを抱くはずだろ。 それの延長がSFとかオカルトだろ……」

 それはDNAレベルで原初より人に刻まれている宿命だと本気で季人は思っている。

「いやいや。 胸躍らせる連中はもっとうまく立ち回ってるさ」

「……例えば?」

 ウィルはその問いに答える前に椅子から立ち上がり、辛うじてフローリングの見えるポイントへと足を延ばし、つま先立ちで移動してから手を冷蔵庫へと伸ばす。 そして、開いたその先に整然と並んだエナジードリンクの一つを取り出した。

「例えば、既に広まっている非現実満載のポピュラーな二次元とか。 バンバン広告費を使っている鉄板どころのSF映画やオカルト小説、アニメ、その他もろもろ。 いや、そもそもだよ、季人……」

 たどった動作の逆回しでウィルは椅子まで戻り、プルタブを開けた。 炭酸が音を立てて缶から逃げ出す。

「運営サイトの命題がオカルトミステリーってのはいいと思う。 最高だ。 僕だって大好きだしね。 ジュール・ベルヌもロバート・A・ハインラインも大好きさ。 まぁ、けど正直飽和してるよ。 世界中に何十、何百、何千ってある内のサイトの一つにしては、特別真新しいものがあるわけでもない」

 ウィルの言葉に「だよな……」と季人は返す。 まぁ、自分でも分かってはいるんだけど、とは言葉を続けなかったが。

 考えてみれば知りたかったり興味を持ったならwikiを見た方がよっぽどまとめられているかもしれない。

 そう考えると、体からどんどん力が抜けていく。 意気消沈で体が重い。

「言っちゃあなんだけど、うちに見に来るのなんて、たまたま訪れた暇人か、万分の一で訪問する一軒くらいだ」

 ニヤニヤ顔を崩さないまま言うウィルの言葉に、季人の体は椅子の上を再びズルズルと下って行き、体に至ってはまもなくスライムにでもなりそうな位グニャグニャになっていた。

「はぁ……。 どうすりゃいいんだぁ……ぁ……ぁ……」

 見る人が見ればゾンビ映画に出てくるそれか、死にかけのモブキャラのようだ。

「へはは、そんな今にも絶命しそうな声を出すなよ季人。 まぁ見てる分にはチャップリンを見ているより愉快だけどね」

 季人はそろそろ腰が痛くなってきたので勢いをつけて椅子に座り直す。 

「景気よくこの状況を打開できそうなアイデアは無いのか参謀」

 そんなものがあれば開設当初にやっているけどさぁ、と内心つぶやく季人が中空をぼぉっと見つめる。

「ん~、そうだね~。 そんなもの無い……事もない」

 季人がその言葉の意味を理解し、自身を再起動させるのに三秒ほどかかった。

「……え、うそ? あるの?」

 危うく、耳を素通りしそうになる最後の言葉を取りこぼすところだった。

「無い……事もない」

 先と全く同じニュアンスで言うウィル。

「諸葛ウィル先生、この哀れな面倒臭がり屋を、今すぐ現状打開の解へと導いてください~」

 頭を垂れ、その上で拝むように両手を合わせる季人。 そして有り難さを秤に掛けたら一切針が振れなさそうな声で季人は先を促す。

「別にそんな真新しいことじゃ無いよ。 ただ、こういったオカルト系サイトでは、そうそうやってる所はないだろうなっていう程度」

「……?」

 今一要領を得ないウィルの話に、季人の頭の中はポンポンと疑問符ばかりが風船のように膨らみ、直ぐに音を立てて弾けていく。

「だからね、暴いてあげればいいのさ、そのオカルトっていう特上のネタが包まれた薄紙の中身を。 誰だって、びっくりするような手品を見せられた後は、そのタネを知りたくなるだろ? 秘密、謎っていうのは、人の心を引き付ける最高のファクターだからね」

「……それはつまり、色んな所から拾ってきたオカルトネタの実証やら検証をしろって事か?」

「YES。 今の時代、魔法や秘術で答えが収まるような事はないんだから、秘密っていう煙の先には必ずタネっていう火の気がある。 もちろん、既にテレビや雑誌で検証済みのものだって山ほどあるけど、やってないものだってまだまだ星の数ほどあるし、これからもどんどん出てくるだろう。 それこそ、専門家がこぞって取り組んでいるのにもかかわらず、未だに説明不可能なものだって、今この部屋に転がっている雑誌の数ほど存在しているんだから」

 季人はしばしば床に散らばった専門誌や雑誌を見下ろして得心する。    

「……確かに、実際どのサイトでも情報を載せたりまとめたりするだけで、話としてはそこで完結してる。 そこから先っていうのはあんまり見ないな」

 それこそ、大体がすでに出ている検証結果をまとめるだけで、自分達で検証をしているサイトはそれほど多くはなさそうに思える。

 謎を探求して発表しているのも、研究者か考古学者、大学の教諭くらいなものだ。

「だったら、もうやる事なんて目をつむったって瞼の裏側に浮かんでくるだろう?」

 エナジードリンクをゴクリと飲み干したウィルはそのまま空き缶をゴミ箱へと放り投げた。

 そしてそれは見事にゴミ箱の縁に当たって床へと落下した。 なんとも締まらない。

 だが、現状を打破するための進むべき方向性は見えた気がした。

「季人、僕達はそこから一歩踏み込んでみればいい。 ネタの解答編を、僕達が見せてあげるのさ。 研究者でも考古学者でも専門家でもない僕達が、僕達の主観でね」

 ウィルは転がった空き缶を拾い上げ、改めてゴミ箱へと押し込んだ。

「……いいね。 面白そうじゃん」

 確かに子供の頃も今も、手品は見せられた後、無性にどうやったのか知りたい欲求に駆られていた。 速攻でやり方をユーチューブで検索もしたし、専門書をネットの通販サイトでポチったのも一度や二度ではない。

 乗り気を見せた季人に、ウィルが頷く。

「まぁ、実証不可能そうなものや、明らかに創作が入っているものは出来ないけれど、不可思議な現象に怪談系、過去に起こった怪事件にオーパーツ。 世の中・・・・・・ひいてはネット上にゴロゴロ落ちているネタを、僕らなりに突き詰めた明確な解を見せるっていうのは、結構いけると思うよ。 動画なんかも入れると面白いかも。 それだけ苦労と、金がかかりそうだけど」

 そう言いながら、ウィルが親指と人差し指で輪っかを作る。

「ああ、我らがホームページはSF・オカルトサイトもとい、SF・オカルト検証サイトってところか」

 ……いいかもしれない。 

 日がなパソコンの前でマウスを動かしているよりは体を動かすことになるだろうし、足を使うのはそれほど嫌いじゃないと、季人は頭の中で検証作業をしている自分を思い浮かべる。

 普段はインドア派な自分も、延々と閉鎖空間にいたのでは気疲れしてしまう。

 これはきっと、自分にとってもサイト運営においても転機となるかもしれない。

「好きだろ? そういうの。 非現実も非実在も古今東西余すことなく大好きな季人君は」

「もちろん。 ていうか、誰だって好きだろう? フィクションは乾いた心を満たす為にあるんだから。 少なくとも俺はそう思ってる。 それが実はノンフィクションだったと知った時なんて全身の毛穴が開くぜ」

 それはきっと、トレジャーハンターが古びた地図片手に、在るかどうかも分からない宝を発見した時の高ぶりとほぼ同義だろう。

「それは間違いない……けどいいのかい?」

 そこでウィルは言葉と場の空気を一旦リセットするかのようにそんな事を口にする。

「何が?」

「自分から進めておいて何だけど、これからやろうとしているのは、ある意味フィクションの中身を掘り下げることにもなりかねないよ?」

 それはつまり、フィクションという幻想をリアルの元にさらけ出すこと。 誰もが思い描いている非実在のそれを、手に触れるくらい身近に……月だと思ったら煎餅だったぐらいにまで引っ張り込むことだ。

 ウィルが危惧していることも、季人には十分理解出来ている。

 例えるならば、近年次々と正体が明らかにされているUMA、未確認生物だ。

 何かの見間違い、力作を使っての捏造、DNA解析による照合等々。 次々と真相が暴かれていく未確認だった生物達。

 地球上にはまだまだ発見されていない生物がいる中でも、度々その姿と名前が浮上する彼らの人気は高く、魅入られた人達は少なくない。

 それが、実は少し発育のいいダイオウイカだったとか、実は両足立ちになっただけの熊だったとか、切なくなる現実を突きつけられると同時に、未知の生物に対するときめきは奪われ、急速に興味を失っていく。

 それと似たようなことをするのだと、ウィルは確認しているのだ。

「……」

 検証するとはそういう事。 これまでとは違い、ただネタを引っ張ってきてはそれをまとめてサイトに乗っけるのとはまるで違う。

 この世の不可思議、オカルト、SFその他諸々《もろもろ》に期待を膨らませる内容を書いて、夢やロマンを誇張していた今までとは・・・・・・。

 だが、 季人の心中は既に決まっていた。

「ウィル、確かにそれも一理ある話だ。 もしかしたらこれは全国、いや、全世界のオカルトファンの魂に鼻くそを擦りつける行為にも等しいのかもしれない」

「うん、何故ナイフを突き立てるみたいな表現が出てこなかったんだい?」と突っ込むウィルの問いは、何故か遠い目をして自分の世界へと旅立った季人には届いていない。

「けどよ、もしかしたら無粋な行いなのかもしれないけどよ、自分達が思い描いていた幻想が、実はほんの少し手を伸ばせば触れることが出来る代物なんだって確信に変わる事は、手品のタネ明かしを見るくらいワクワクするだろ。 何より、幻想を夢見る者達は、そこにリアルを求めるし、自分を投影するものなんだから」

 不思議な物ほど、不可解な事ほど、その先へと踏み込みたくなるのは人の常。 見たくなければ見ない方がいい。 それで幻想が保たれるのならば、瞼を閉じるくらいどうってことない。 だが、それはおそらくマイノリティに属する方だろう。

 オカルト、SFが好きな者は……本当に好きな者ならば、自分の立ち位置はそこから一歩引いたものじゃなく、そっち側に大きく足を踏み入れて、自己を没入させているものなのだから。

 それは現実逃避なんかじゃない。 現実の延長線上に必ず存在していると確信しているからこその一歩だ。

 それに、と季人は思う。

 この世界には、まだ誰の目にも触れていない、誰かに解明されたがっている謎だって、きっとあるだろう。 

 誰にも理解されず、誰からも見向きもされないようなネタは、きっと両手では足りないほどあるはずだ。

 その探求を誰かではなく、自分の手で行う事なんて、普通はしない。

「誰からも見向きもされないようなネタから、誰もが挑戦したネタに対しての検証を、殆ど素人の俺達が、俺達なりにアプローチ・・・・・・」

 これは、やるしかないな……という季人の独り言のような呟きに――。

「何故なら?」と、今日一番のにやけ顔でウィルが眼鏡を直す。

 何故かって? そんなの決まっている。

 誰よりも非現実性が好きで、誰よりも未開が好きで、誰よりも……。

「暇じ――」

「暇人だからだッ」とウィルが言葉を被せた。

「ちょっ、間違ってないけどそこは俺が言わないと決まらなくないか?」

「ノン、ノン、ノン。 それは違うな季人。 そんなセリフ、言ったところで何も決まらない」

 まるで深夜帯にやっている外国人のショッピング番組の如く饒舌に、それでいてはっきりと口にするウィルの言うことはもっともだった。

「ま、じゃあそういう方針で、これからのサイト運営は決まりだな。 今日はとりあえず、その検証するネタ探しをして、本格的に動くのは明日からにしよう」

 季人はそう口にしてから、テレビのリモコンを床から拾って電源ボタンを押した。

 ワンテンポ置いてから画面に現れたのは、見慣れている民放のお天気お姉さん。


『……続いては、全国各地のお天気です。 今日の天気は全国的に晴れ模様が続き、この季節としては比較的暖かい一日となるでしょう。 東京の最高気温は十七度。 最低気温は十度となっています』

 

「日中はそんなに着込まなくても良さそうだな」

 ここ連日で続いていた寒さも弱まりそうだった。

 しかし、週間天気予報ではその暖かさも今日限り。 季人は精神的に十グラムほど沈んだ。


『ここで、速報です。 都営大江戸線、都庁前駅でまたも失踪事件が発生……』


カメラの外からアナウンサーへと原稿が渡され、緊迫した空気がこちらまで感染してくる。

「物騒だね。 連日このニュースだ」

 ウィルの言う通り、最近になってどの局でも頻繁に目にするニュースだった。

「確か、同じ場所で、同じ時間に神隠し……大体決まって終電間際だったか。 こういうのこそネタになりそうだけど、進行形の事件じゃ野暮ったい憶測にしかならなさそうだしな」

 それに、そういうのは自分達のサイトが扱うべき時案じゃないと季人もウィルも自重していた。

 今起こっている事件に手を伸ばすという事は、マスコミ子飼いの専門家か、根も葉もない三文記事を書くゴシップ屋と何も変わらない。 

「当初は非行、もしくは家出の線が濃厚だったけど、失踪したのは素行に問題のない者達ばかりだったらしいね」

「いや~分らねぇぞウィル。 そういう大人しい子も、三日会わなければ大きな成長遂げてるっていうだろ?」

「それって三国志の呂蒙が言ったやつだよね。 でもそれって男子限定じゃなかった?。 失踪してるのは女の子ばかりだっていうじゃないか」

「だからさ、一夏の恋を迎えられなかった子達が、遅めの開花を迎えた可能性もあるだろ」

 名を馳せた三国志の軍師も、現代社会の性の乱れまでは読み切れなかっただろう。 というより、そんな考察に名前を出して欲しくなかったに違いない。

「にしては、全員同じ場所で股を開くのは不自然でしょ。 開花だけに」

「うまいこと言ったつもりか? せめて心を開いたと言ってくれよウィル」

「へはは。 まぁとにかく、君がいつもお世話になっているあのにもちゃんと注意するように言っておかないと」

 この話はこれでお終いと、ウィルは鼻歌を交えながら作業中だったパソコンに向かってキーボードを叩き始めた。

「……あいつに? 必要無いんじゃねぇかな~」

 季人は思い浮かべた人物が、そういう類からは縁遠いと早々に見切りをつけ、意識を切り替えて再び視聴中だった映画を見始めた。


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