七月の手紙
お兄様へ
初夏の香りを感じる季節になりました。と、定番の言葉を使ってみましたが、初夏の香り、とはいったいどんな香りなのでしょうか?私は貴族でありながらも貧乏なせいか、そんな香りを感じられる情趣は残念ながら持ち合わせておりません。感じるのはうだる様な暑さばかり。初夏というか、もはや夏です。いえ、初夏も夏なのですけれど、爽やかな雰囲気を醸し出すこの名前に詐欺られているような気がします。暑い。とにかく暑いのです。どこいった爽やかさ。お兄様は夏が一番好きな季節とおっしゃっていましたけど、私は夏は好きではありません。命の危険すら感じます。命の危険……そうです。お兄様聞いてください。ええ、もう予想はついていることでしょう。そうです。上司のことです。
私は常日頃あの上司のせいで、命の危険を感じていましたが、今回はひどいです。許せる範疇を超えています。あいつ私を空に連れいったんです!
上司の種族は吸血鬼。空だって飛べます。ニンニクも十字架も太陽の光も効かないのに、しっかりと羽があるんです!むかつきます!私だって空には憧れていました。翼を持たない種族なら誰だって空を飛んでみたいと思うことでしょう!でも!だからって!上司に抱えられながら空を飛びたいとは思いません!私は空を自分の力で安全に飛ぶことを望んでいたのであって、決して!上司に抱えられただけの不安定な状態で飛びたいなどとは思っていないのです。景色はどうですか?とか聞かれましたけど、そんなの悠長に見ている暇など存在しないです。怖い!ただ怖い!ひたすら怖い!めっちゃ怖い!
これがお兄様とかならば、私を落としたりしないでしょうからまだ余裕はあったでしょうが、相手は上司です。いつ気まぐれにその手を離すのかと戦々恐々。
楽しそうに笑っている上司に殺意しかわきませんでした。慣れてきたとか言いましたけど、どうやら私の勘違いだったようです。辞める、辞めないの問題ではなくなってきました。……私、生き残れるのでしょうか。彼の元で。
命の危険を思い出したメアリーより