三月の手紙
お兄様へ
どうしましょう。お兄様。私、恋人ができました。相手はまさかの上司です。ええ、あの上司です。なんでこんなことになったのか、その、私にも今だに信じられないのですけれど、とりあえず説明させていただきますね。
私、三月でお仕事を辞める、とお兄様に言ったじゃないですか。ですので、二月の段階でその旨を上司にもお伝えしたのです。辞めるのなら早めに言った方が良いでしょう?調整とかもありますし。
もちろん上司には理由は言いませんでしたよ。上手く、それっぽい嘘の話をしました。ですが、それで上司は納得しなかったのです。
すっかり忘れていましたが上司は参謀と言われるような方。私の嘘などバレバレだったのです。
それで、本当の理由はなんだと問い詰められまして……私は誤魔化そうとしたのですけれど、上司が自分のことを嫌になったのだろうなんて言うから反射で逆です!と答えてしまって……。ええ、失言でした。いえ、その言葉があったからこそ今があるのですけれど、その時はしまった!となりました。
上司も聞き流せば良いのに逆とはどういうことですか?としつこく追求してきて!それで、とうとう私言ってしまったのです!だから好きだからです!と。
もうあの時の上司のきょとんとした顔。は?と口にされた時には、終わったと思いました。これから散々からかわれるんだ、と絶望しました。上司がこの手の話をからかわない訳がないですもの。もう、今すぐ仕事を辞めようかと (まあそんなことできないのですけれど) 本気で考えていたら、上司がそれはもう真っ赤な顔になりまして。
上司は吸血鬼です。故に肌は不自然なほどに白いです。その顔が本当にトマトのように赤くなったのです。
そうして顔を赤くした上司が嘘はつかないでください!とか言ってきて。なんだか、その決めつけた言い方にイラッときて嘘じゃない!と私は自分の想いも、辞める理由も全部ぶちまけてしまいました。
先ほどの絶望感よりも言っていやった!という満足感に溢れていた私に、だいぶ間を置いて上司は自分も同じ気持ちだと言ったのです!
次は私が信じられなくて……。だって上司ですよ?上司がからかってるんだろうと、相手にしなかったら今度は上司が先程の私のようにぶつけてきました。
その話によると上司はどうやら五月頃から私のことがその、好き、だったようです。
いろいろアピールしてたのに……とか言ってきましたけれど、正直そんな心当たりがなくて、されてないと言ってみれば、まさかのトラップで助けたり、空に連れてったり、食事に誘ったりだったそうです。私ずっと嫌がらせだと思ってました……。だってトラップ仕掛けたのは上司なんですよ?そんな上司に空に連れてかれたんですよ?毒とか仕込んできた人から食事に誘われたんですよ?そんなの……信じられないじゃないですか。
しかし、上司が私のことを好きだったのはどうやら本当のようです。
だって、私魔王様に直接お言葉をもらっちゃったんです!
新人の下っ端の私なんかが簡単にお目にかかれるような人ではありません。そんな!魔王様に!あいつのことをよろしく頼む!とわざわざ玉座にお呼びいただいて!言われたのです!
もうびっくりです!そしてそんな魔王様に軽々しくあなたがなんでそんな口出しするんですか、とか軽口叩けちゃう上司にもびっくりです!そうしてそれを許しちゃってる魔王様にもびっくりです!
こんな自体は信じられないけれど、真実のよう……。けれど、いまでも夢なのでは?とか思ってしまいます。
夢なら覚めないでほしいです。もうずっと眠り続けていたい。
それくらいに私は今幸せです。
幸せそうで涙が止まらないメアリーより