2話目
あーつらかった。
なにが辛かったってこの2日間常に吐き気と頭痛のダブルパンチだったことだ。
だけどそのせいで1つ確信出来たことがある。それはこれが夢ではないってこと、夢にしては苦しみや痛みがとてもリアルで、到底夢で済ませていいレベルじゃなかった。
頑張って生前と思われる私の記憶を思い返すと会社に入社して少したってからの記憶がなにもなかった。
あ、察し…ってこれのことかなって初めて実感した。
まあつまり、私は大体23歳くらいで亡くなってしまったらしい。
若すぎでしょ。
そんなこんな、取り敢えず夢なんかじゃないと決まったらこれからどうやってフラグだらけの学園生活を乗り切るかをかんがえなくちゃ。
今からじゃ学園の入学取り消しなんて出来ないし、そもそも、そんな事は選民意識が高く見栄っ張りのお母様がゆるさないしなー。
やばい、あと5日で考えないと入学式がきてしまう。あーまた熱が出そう。
「京華さん、ちょっといいかしら」
うんうん唸っていたらお母様が部屋の扉をノックしてきていた。
はーいと返事をする前に部屋に入ってきたお母様、ベッドに腰をかけている私をみて固まった。
ん?なんかついてるかな?
自分を見てあ、と声が出た
「京華さん、病み上がりだからと言っていつまでもパジャマでいてはよろしくないわ。ちゃんとした服に着替えてらっしゃい」
やっぱりだめだったかー。病み上がりだから許して貰えると思ったんだけどな、ちぇっ。
いそいそと着替えてお母様の所へ戻るとお母様はとってもにこにこしていた。
あれ、なんかやな予感が…
「京華さん、これから入学式までエステにヘアサロン、それ以外にも沢山準備があるわ。京華さんが熱を出してしまったのはしょうがない事だけれど、もう1日も無駄にできないの。わかるかしら?」
「お母様?もしかして……」
「そう、今からよ。体はもう大丈夫なんでしょう?朝食も美味しそうに沢山食べていたと聞いたわ。ね?」
「いや、でも…」
あぁ!朝食が豪華で美味しすぎて食べ過ぎたのがここでかえってくるなんて、ていうかお母様わざわざシェフの人達に聞いたのか、じゃなきゃ今日まで部屋で朝食をとっていたわたしの事情なんて知らないもんね。
いやはやそれにしても
エステ?ヘアサロン?たかだか入学式に?嘘でしょ?金持ちの入学式事情ってそんなに大変なの?出来ればまだ体が本調子じゃないからそんなに動いていたくないんだけどなー。
「お母様?私まだ本調子じゃないから、まだあまり外に出たくないなーなんて…」
「でも京華さん、本当に時間が…って、京華さん?あなた少し口調が変よ?」
「え、そう?」
「ほら、それよ。そんな口調以前していなかったわ。それにそんな口のききかた、愛染家の令嬢として、ふさわしくないわ。どうしてしまったの?」
そこに気づいちゃったかー!実はこのこともあってあんま外に出たくなかったんだよね。やっぱり今日は絶対にだめだ、このままお母様と一緒にいたら何かがバレる気がする。
「あぁお母様、やっぱり私まだ万全じゃないみたいだから今日はまだ休むね!」
えっ、ちょっ、…と慌てているお母様を部屋の外に追い出して、バタンとドアをしめた。
今日やる事が出来てしまった、これは何より優先順位が高い。そう、お嬢様言葉の取得だ。
そもそも前世の私はドのつくド庶民だった。
見た目は普通、趣味は特になく、お友達も多くはなかったけど人並みにはいたくらい。
学校も大学以外は公立の学校に通っていたし、高校では部活に入ってなかったから暇を有効活用するためにバイトもそれなりにしていた。コンビニやら飲食店やら派遣やらとにかく色々。
そんな私がお嬢様言葉と無縁なのを想像するのはとても簡単だったから心配していたけど、でも、私を思い出す前の私はお嬢様言葉を使っていたから大丈夫かなーなんて思っていた。
まさかこんなに早く怪しまれるとは……
正直少し恥ずかしいし、面倒臭いけど、これを取得できなかったら学園に行く前に家庭内での私の存在が危うい。
よし、試しに自分で思いつくお嬢様が使いそうな言葉を近くにあった紙にかきだしてみよう。まずは、〜ですわとか?〜しますわね、とか?あ、あとはあれとかこれも言いそうだなー。
なんとか自分専用お嬢様言葉一覧表が完成した。
私はいそいそとドレッサーの前に移動して、鏡の自分ににっこり笑顔をみせて試しに一言いってみる。
「ご、ゴキゲンヨウ」
……これはあかん。想像以上に片言で、とんでもなく恥ずかしい。
もう1回だ、もう1回言えばきっと2度目だからまだマシなはず……!
「ゴゴゴ、ゴキ、ゴ、ゴ、ゴキゲンヨウ!」
……悪化してませんかね?
どうてだろうか、なんか流れるように言葉が出ない!
というか羞恥心が邪魔をして声量が幾らか小さくなってしまって、非常に聞き取りづらい。
まずい……早急に対処しなくては……!
そうだ!
なんか前世のテレビで、人間には自己暗示をするとうんたらかんたら〜出来るようになる、なんて事を言っていた気がする!自己暗示自己暗示……
ワタシはオジョウサマ...ワタシはオジョウサマ...ワタシは……女優……!
演じるのよ、お嬢様を、完璧に...
「……ごきげんよう」
今のは上手くいったよね!これはいける!
私は女優!そう、大女優よ!
このままならあのオホホホホホもできる気がする!
やばい、ちょっと楽しくなってきた!なんか上がって来た!
それから私はドレッサーに向かって一心不乱に、笑顔で、表の言葉を読んでいった。