第1章第2話:再会の時②
正吾は誠也との再会を果たしてから、これだけは聞いておかなければ
何も始まらないある質問を投げかけるチャンスを見計らっていた。
そして、ペットボトルの中の水を一口だけ、
口に入れた俺は投げかけることにした。
「誠也、お前に聞きたいことはたくさんある。
だけどこれだけは最初に聞いておきたい。
3年前、お前までなぜ俺の前から姿を消したんだ?」
誠也はその質問が来ることは想定内だったのか、表情が動かなかった。
「ああ、そのことか。まあ、簡単な話だよ。
消えたかったから消えた。それだけだ」
そして誠也が発した答えは、俺が思っていた答えとは全く違っていた。
しかし、誠也は嘘をついている様子もなく、
本音で言っていることは容易に確信した。
だからなのか、無性に腹が立ち始めた。
(消えたかったから消えたって・・・。そんな理由で会社を去ったというのか)
瞬間、俺は立ち上がると、誠也の胸ぐらをつかんだ。
「お前、それ本気で言ってんのかよ!!
俺たち5人で作り上げた会社だったんだぞ。大切じゃなかったのかよ!!
お前さえ残ってくれていれば、まだやり直すことができたはずだ。
俺はお前だけはいる。そう思っていたのに・・・」
俺が最後まで言葉を発しようと瞬間、誠也の反撃を食らってしまい、
俺は言葉をつづけることが出来なくなり、そのまま倒れ込んでしまった。
誠也はそんな俺を見下ろすと、机の上にあったペットボトルをこちらに投げてきた。
「落ち着けよ。お前が質問したことに俺が答えてやった。
それがお前にとって不都合な真実だったとしても
おとなしく聞いておくというのが筋というものだろう。
まあ、今の蹴りは俺の胸ぐらを掴んで激昂した分だ。分かったら、さっさと座ろうか。」
俺はまだ煮え切らない怒りを抱えたまま、席に着いた。
本当は殴りたかった。しかし殴り掛かれば
さっきの二の舞になりそうで、おとなしく従った。
「これでやっと落ち着いて話ができるかな。なぁ、正吾」
「ああ」
誠也は俺が渋々了承の意を示したことに満足するや否や、
ポケットの中から紙を取り出した。
そしてそのまま紙に何が書かれているのか分かるように机の上にそれを置いた。
「お前にも来たんだろ?この手紙が。
まあ、そうじゃなければ、ここにたどり着くことはできないと思うんだがな」
誠也が出した紙を見た俺もすぐに気づいてしまった。
そこにあったのは、俺をこの場所まで導いたあの手紙だったのだ。
しかし、じっくりその手紙の内容を見ていくと、
所々が俺のものとは異なることが分かってきた。
誠二の手紙に書かれている文面は俺と同様の5つだった。
その内、3つは同じ内容だったが、残り2つが明らかに違っていたのだ。
①東京都港区○○ というどこかの住所
②α・β・γという記号
③真実とはそれを語る人の手によって善か悪か決定される。
④虹は7色存在し、5色までは揃っている。という詩的な言葉
⑤黒崎省吾 斎藤碧 白宮治人 藤山詩音 黄金沢 隼一
今回の文章も完全に理解できなかった。
1番の文章はこの場所ということは明らかだから、
もうこの文章は解読するためには不要な文章であることに間違いはない。
2番と3番の文章に関しては、
これが初見だからということもあるが、さっぱり分からない
ここまで考えていた時、俺の脳裏にある質問がよぎった。
(もしかして誠也なら、この黄金沢という男のことを知っているんじゃ・・・)
「なぁ、誠也。お前はこの黄金沢隼一って知っているか?」
俺は思い切って、誠也にその質問を投げかけることにした。
しかし、当の誠也は俺の言葉などまるで聞こえていなかったと
言わんばかりの表情のまま、どこかを眺めていた。
俺がその視線に引き寄せられるかのように、その方向へと目を向けた瞬間、
俺は誠也と突然の再会を果たした時以上の驚きを受けることになってしまう。
「今の質問は私が代わりに答えてあげるわ。正吾。」
その言葉と共に俺の視線上に現れたのは、
3年前俺のことを裏切って親友だった治人と男女の関係になっていた彼女、
斎藤碧だったのだ。
碧は昔の彼女の面影はどこにもなく、
冷酷な笑みを浮かべながらこちらへ近づいてきた。
そしてその後ろから颯爽と現れたのは、もう一人の親友、白宮治人
その顔を見た瞬間、
彼らがどうしてここにという疑問と共に憎しみが沸き上がってきた。
それもそのはず、彼らのせいで俺の人生は狂わされてしまったのだから・・・。