第1章第1話:再会の時
今、俺は無職だ。
あの日からもう既に3年が過ぎ、もうそろそろ動き出さなければいけないという漠然とした思いはあった。
しかし、行動に移そうと思う度にいつも碧と治人のあの裏切っていた表情が思い起こされ、その二人だけでも重く圧し掛かっているというのに、突如目の前から消えていった詩音と誠也がどれだけ大きな存在だったのかということを痛感し、それによって行動に最後のところで歯止めがかかったように動き出せずにいた。
それと反比例するかのように時間は無情にも過ぎていった。
そんなある日のことだった。あの手紙がこの手に届いたのは
それが偶然だったのか、それとも必然だったのかは分からない。
しかし誰があの手紙を送ってきたにしても、見過ごすことはできなかった。
というよりもこれを解決しなければ、俺はいつまでたっても前に進むことはできないだろうという確信の方が大きかった。
そして現在に至る。
手紙にはあの不吉な文面のほかに、いくつかの文章が存在した。
数えてみると、それは合計5つ違う内容が書かれていた。
①東京都港区○○ というどこかの住所
②25257497・・・ という解読不可能な数字の羅列が10行
③風俗 極道 借金 キャバクラ という如何にも危ない感じの単語がこの他20個
④虹は7色存在し、5色までは揃っている。という詩的な言葉
⑤赤浜誠也 斎藤碧 白宮治人 藤山詩音 という知り合いの名前のほかにもう一人の名前(黄金沢 隼一)が書かれていた。
この文面が指し示す意味は全く理解ができなかった。
しかし立ち止まっているのならば動き出した方が何倍もいいだろう。
そう考えた俺は、今最初の文面にあった住所へと向かっていた。
あの日から人の多い場所を拒み続けていた俺にとって、都会の喧騒は拷問にも等しく、指し示されていた住所にたどり着くころにはすっかり疲弊しきっていた。
というよりも思っていたような場所とたどり着いた場所は大きく違っていた。
俺の思い描いていた場所はいかにも怪しい感じの工場かバーだった。
しかし目の前にあるのは超高層タワーで、よくテレビや新聞で目にする大企業の名前がエントランスに入ったところにある掲示板に書かれていた。
その瞬間、脳裏には単なる悪戯だったのかもしれないという考えと指示されていた住所が間違いであったという可能性が駆け巡った。
もしもそうだとしたら、俺がここまでくる際に生じた苦労は何だったんだ?
そんな不思議な怒りが込み上げてきた。
俺が悶々と考えていると、さっきまで受付に座っていたと思われる女性がこちらに近づいてきた。
そして「大丈夫ですか?お体でも崩されましたか?」と優しい口調で尋ねてきた。
その言葉に対してどうしようもなく情けない気持ちに駆られてしまい、眉間にしわを寄せてしまうと、女性はさらに心配の表情を強めていき、このままでは救急車を呼ばれかねないと思った。
しかし、そんな考えは女性の後ろから現れた人物の手によってかき消されてしまった。
「正吾、やっとここにたどり着くことができたのか」
そんなことを言ってきたのは、3年前に突然俺の前から姿を消した赤浜誠也だった。
俺と誠也はあの突然の再会の後、このままでは目立ってしまうから場所を変えようという誠也の提案により、タワーの最上階までやってきていた。
いったい、なぜこんな所に連れてこられたのか、そしてなぜこんなところに誠也がいるのか、謎は増えていくばっかりだったが、ひとまずその辺も後でゆっくり聞くことにしてただただ誠也の後を着いていった。
そして誠也は最上階のエレベーターから降りてから少し歩いたところにある部屋の前で立ち止まると、ポケットの中からICカードを取り出すと、そのままドアノブの上に付けられた液晶画面に近づけた。
するとガチャっという鍵が開いた音がし、誠也はおもむろにドアを開けると、俺を中へ入るようにと促してきた。
中には椅子が二つと机が一つだけ存在し、机の上にはペットボトルの水が置かれていた。
そして誠也も部屋に入ってくると、ドアを閉めてから椅子に座った。
「さあ、正吾も座りなよ。そしてゆっくり話そうじゃないか」
俺はその言葉にいささか疑問を感じつつも、席に座ることにした。
正吾と誠也が話し始めたちょうどその頃、エントランスには一人の男と女が入ってきていた。
「はぁ、本当に久しぶりよね。正吾はどんな顔をするのかしらね」
「はは、全くお前って最近ドS全開だよな。ま、そんなお前も好きだけど・・・」