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第4話

詩音の家に着き、中に案内された俺は驚いていた。

(何だ、この家。まるでモデルルームみたいだ)

そう思ってしまうほどに詩音の家は整理整頓がキチンとされていて、

同じ女性でも碧と比べると、これほどに違うのかと感心させられた。

俺が今まで見たきた女性はどの人もあまり清潔に気を遣っている方ではなかった。

俺のことを育ててくれた母親はよく物を買い込む人で、

そこら中に不要な物が散りばめられていたし、

碧に関してはそれよりもひどかった記憶があった。

いつも大きなゴミ袋が玄関の近くに有り、

家の中も男を家に呼んでいるのにも関わらず、下着や服が散乱していた。

極めつけは台所で、いつ遊びに行っても食べ終わった後の弁当箱やカップ麺の箱、

そして洗面台を覆いつくさんとするほどの食器の数々。

だからこそ、俺はいつも碧の家に遊びに行ったら片付けていた。

それに引き替え、詩音の家ときたらなんて素晴らしいのだろうか。

彼女の性格をもろに反映しているのが分かるほどに清潔で

なおかつ調和のとれた空間が広がっていた。

「正吾君、なにか食べる??私、少し作るけどどう?」

そんな風に感心していると、詩音からご飯のことを聞かれた。

その言葉に俺は驚きと共に泣きそうになった。

こんな時、碧ならば、カップラーメンとお酒を出してくるか、

それを見かねた俺が作るかだった。

本当は比較なんてしてはいけない。そう分かってはいるのに俺の頭の中では、

また碧との比較をしてしまう。

今思えば、愛情なんて物はなかったのかもしれない。

もしかしたら性的な快感を達成するためだけの関係だったのかも・・・。

そうだとしたら何とも悲しいな。


ついつい感傷的になっていると、ご飯が完成したのか詩音が台所から出てきた。

「正吾君、出来たよ。食べよっか?」

詩音が作ってくれたのは、味噌汁とご飯、卵焼きにウインナーといった

ごくごく普通の家庭の物だったのだが、こうして他の人が作った家族っぽい食事を

出されたという事に幸せを感じた。

(こういう食事をだされたのは、もう5年ぶりくらいかもしれないな・・・)

しみじみとそんなことを考えながら、詩音の作ってくれたご飯を食べ始めた。

「お、美味しい!!」

それはお世辞でも何でもない正直な気持ちだった。本当に美味しい

「ふふ、そう言ってもらえると作った甲斐もあるよ・・・。

って正吾君、どうして泣いているの?」

詩音は少し顔を赤くしながらも俺のことを見ていたのだが、

突然心配そうな顔になったかと思うと、そんなことを問いかけてきた。

俺は慌てて目の端に指を当てた。

(ほんとだ。いつの間にか泣いてたみたいだ)

「ははは、なんでなんだろうな。俺にもなんで泣いてるのか分からない・・・。

ただ、詩音とこうして穏やかな家族のようなことをしていたら、

安心してしまったのかもしれない。あれ?というか全然止まらないな。

少しトイレを借りてもいいか?」

こういう暖かい時間を久しぶりに過ごしたからだろうか。

俺は涙を流し、それはいつまでたっても止まってはくれなかった。

そのためか詩音の顔には心配という感情が張り付いていて、

無性にこんな姿を見られたくないと感じて、トイレを借りることにした。


数分後、トイレから戻ってきた俺を詩音は

優しい笑顔を浮かべながら待っててくれていた

「ほら、正吾君!早く食べないと冷めちゃうよ?」

その言葉に俺は、またもや涙を流しそうになるも、

どうにか堪えて詩音の優しさをかみしめていくように彼女の作ってくれたご飯を食べた。


そして食事を終えた俺は、親友と恋人に裏切られてしまったことを詩音に話した。

普通、こんな話をすれば器の小さい男だと思われて軽蔑されてもおかしくはない。

その覚悟も食事中にできていた。しかし彼女は俺の話が聞き終わるや否や、

にっこりと母親が子供にするような笑顔を浮かべた。

「そうなんだ。それは大変だったね。

あの治人君がそんな酷いことをしていたなんて思わなかったし、

碧ちゃんも正吾君と付き合いながら治人君とも出来ていたなんて。

なんだか本当にひどいよね。私なら正吾君のことを裏切らないのに・・・」

最後の裏切らないという言葉は、俺のことを考えてついた嘘だったのかもしれない。

本当はそんな事これっぽちも思ってはいないのかもしれない。

だけどその言葉は俺のことを救ってくれた。

そう感じるほどに詩音の言葉は俺の心の奥底まで入っていった。

「ありがとう。こんな俺のそばにいてくれて。」

その言葉は無意識のものだった。

ただただ感謝の気持ちでいっぱいでつい口に出ていた。


「え、あ、うん、なんか照れちゃうね。正吾君にそんなことを言われると」

そしてお互いに見つめ合い、気が付けば、俺の唇と詩音の唇は触れあっていた。


「あ、ご、ごめん!!こんなことするつもりじゃなかったんだけど・・・」

キスをしてしまったことに気付いてしまった俺はすかさず、

顔を離すとそのままこの場にいることが居たたまれなくなり、

逃げ出すかのようにその場から離れ、すぐに詩音の家を後にした。

その間、詩音は時が止まったかのように静止していた。顔を赤くさせながら。



なぁ、詩音・・・。

なんで君はあの日を境に俺の前から姿を消してしまったんだ。

それほどに嫌だったのか・・・

もし、そうだとしたら謝りたい。だから戻ってきてくれ・・・。



3年前、俺は親友と恋人に裏切られた。

そんな俺のことを必死に慰めてくれようとした彼女は、

あの日を境に俺の前から姿を消した。電話をかけてもメールをしても、

家を訪れても彼女の痕跡は消えていた。

そして、同じ日に親友、恋人、もう一人の友も示し合わせたかのように姿を消した。

会社は柱を4本とも失ってしまった結果倒産してしまい、

もう俺には何も残ってはいない。



深い絶望の淵に立っていた俺のもとに、ある日手紙が届いた。

差出人はなし。中を広げた俺が見たものはある文面だった。

「4人の中にあなたをそんな状況に追い込んだものがいます。

さあ、あなたにわかるかな?」


これが全ての始まりだったのかもしれない。絶望と後悔の物語へとつながる・・・


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