第3奪
警察署に着いてから、半ば強引に降ろされた俺は
そのまま部屋の中に押し込まれた。
その部屋の中には長机が一つにパイプ椅子が二つ、
隅に小さな机と椅子があった。
ここが事情聴取のための場所だと気づくのに、時間はさほどかからなかった。
そして俺が椅子に腰を下ろすと、目の前にもう一つの椅子を置き、
刑事さんが座った。
そこからの俺の記憶はかなり曖昧だ。
おそらく頭を治人に複数回殴られていたのに加えて、
意識を失う寸前に頭を床で強打していたことが原因だろう。
気が付くと、刑事さんは納得したような表情で頷いていて、
俺はまた刑事さんに引きずられるかのように歩かされ、
違う部屋の中に入れられた。
1時間ほど経ったころだろうか。さっきの刑事さんが部屋に入ってきた。
「迎えが来てくれたそうだ。
次はもっと重い罪として処理するから気を付けるようにな」
そう言って、迎えが来たことと注意を受けた後、
刑事さんの後についていった。
すると入り口付近に詩音が立っていた。
詩音はこちらを見つけると、すぐに近寄ってきてくれた。
「正吾くん、心配したよ。
急に会社の方に逮捕されたっていう連絡が来たから、
何か事件に巻き込まれたんじゃないかなって思ったんだよ。
でも無事でよかったよ。本当に」
詩音の優しい言葉に俺は思わず、涙が出てしまった。
「そうだぞ。彼女さんに心配をかけてはダメだ。
男なら女性を守るぐらいでないと。
彼女さんもこれからは気を付けてあげてくださいね。それでは私はこの辺で。」
刑事さんはそんな俺たち2人を見て、
恋人同士だと勘違いしたのか、足早に立ち去って行った。
俺たちは苦笑いを浮かべながら、警察署を出たのだった。
「それでこの後どうする?
ここからだと正吾君の家、距離あるし、もう電車も終電だよね」
二人で歩いていると、詩音は俺のことを心配に思ったのか、
そんなことを聞いてきた。
「そうだな。今日は忘れたいことばっかりだったから、
少しお酒でも飲んでからビジネスホテルにでも泊まるよ。
それにしても本当に迎えに来てくれてありがとな。
もし詩音が迎えに来てくれなかったら警察署で一晩を明かすところだったし、
気分も最悪だったよ」
すると詩音はいつも会社では見せない微笑みを浮かべていた。
「そっか。私も役に立てることがあってよかったよ。
よし決めた。正吾君、今から私の家に来ない?
なんだかこのまま正吾君を放っておくのは少し心配だし、
他に人がいた方が悪い感情を溜めなくても済むと思うよ。
それに愚痴ぐらいならいくらでも聞くから。
昔、正吾君が私にしてくれたようにね。」
「いやいや。詩音にはよく助けられているよ。
会社でも営業で頑張ってくれていて、部下からも好評だし、
俺も一番信頼している。それにこうやって俺のことを迎えに来てくれた。
普通の友達ならそんなことはしてくれないと思うし、本当にいつも感謝している。
それにしても詩音の微笑みを見るの久しぶりだな。起業した日以来だ。
それじゃあ、お言葉に甘えさせて家に行ってもいいか?聞いてほしいこともあるんだ」
それに対して詩音は頷き、二人で詩音の家へと向かうことにしたのだった。