第1章第7話 黄金沢俊一➀
彼の言葉や態度から嘘は感じられなかった。
本当に思ったことをその通り言っている。そんな感じだった。
けれどもその告白はどう考えても傲慢でしかない。
自分のことを外面でしか捉えていない彼に心底から腹が立つ。
「ごめんなさい。私、まだ学校に慣れてなくて、
そういうお付き合いとかに手を出している暇はないかなぁ」
ただその怒りを前面に出して告白を断るというのも、なんだか危険な匂いがした。
精一杯の笑みで内心を隠し、その告白を断ろうとした。
内心では気持ち悪くて仕方なかったが、仕方がない。
今後の学園生活に嫌な噂が立っても困る。
「ああ、そうか・・・。」
彼は私の言葉を聞いた瞬間、考えるような素振りを見せ、
何も言わずに去って行った。
(あ、なんだ。あっさり諦めてくれたようね。)
もしかしたら、あの断り方は最適解だったのかもしれない。
私は安心し、そのまま彼が消えた方向と逆方向に歩き出した。
しかし、彼がそんな断り方で引く人間ではなかったことに
すぐ後に気付くことになる
「み~ど~り!!聞いたよぉ~」
あの告白を断って1週間後の事だった。
まだ親友といってもいいのかは分からないけれど、
入学以来ずっと一緒にいた茉莉ちゃんが私の肩を叩きながら、声を掛けてくる。
満面の笑みを浮かべながらの彼女だったが、違和感を感じる。
「聞いたって、何を・・・?」
私には茉莉ちゃんがそんな態度をしてくる理由が分からなかった。
この数日間で自分の中でそんなニュースになるようなことはなかった。
強いて言うなら、この間告白を受けたことくらいだけど、
あれは断ったわけで・・・。
それを知ったからって彼女がそんな顔をするとも思えない。
「何をって~。もうしらばっくれちゃってさぁ~」
「え、ほんとにごめん。全然わかんないんだけど・・・」
茉莉ちゃんの言葉にますます困惑してしまう。
頬を膨らませながらも笑みを絶やさない彼女だったが、
それが逆に嫌な予感を感じさせる。
「もう、碧は恥ずかしがりだなぁ・・・。彼氏できたんでしょ///」
「え・・・。」
茉莉ちゃんからは騙そうといった悪意の類は感じられない。
純粋に好意的な反応を浮かべている。
けれども、そんなことは知らない。
自分のことを話しているはずなのに、そんな記憶も事実もありはしない。
「もう、そんな驚いた顔しちゃってさぁ、もうみ~んな知ってるよ~!
できればさ、私には真っ先にぃ~。教えて欲しかったな~。なんて」
茉莉ちゃんは私の表情の変化をそっちのけで続けた。
自分ではない誰かのことを話されている気分だ。