第1章第6話 正吾と碧の出会い③
彼女は自分の会社に自信はあった。
だからと言って、それを取引先でも会社員でもない
俺たち高校生に伝えたからと言って、
その人たちが自分の会社に興味を持ってくれるわけではない。
ましてや、業務内容を伝えるだけというのはどうもつまらない。
高校生に対して話すのであれば、
興味をまずもって話を聞き続けてもらう必要がある。
だからこそ、変に企業内容を盛り込むことをせずに最小限の事だけを。
そして、聞き続けることのできる話を楽しくして、
自分のことを一人でも多く覚えてもらおう。そういう意図だったようだ。
その狙いは大半の学生にとって外れてしまったのかもしれない。
けれども、俺を含めた10人には確かに響いた。
そして彼女の講演のおかげで、自分もこの社会を変えたいと思った。
だから、自分の中に描いていた人生設計図を脳内で破り捨て、
起業へ向けて足を踏み出した。
最初は当然のことながら親にも友達にも先生からも反対された。
そんなことができる人間は生まれた時から決まっているから諦めるべきだ。
という厳しい言葉も幾度となく言われ続けた。
何度も挫折しそうになっただけど、
そんな時にさえ俺の支えになってくれたのは碧と仲間だけだった。
碧は俺の理想にいつも共感してくれた。
どんなに他の人から否定されたとしても碧は笑顔で俺の話を聞いてくれて、
諦めかけていた心を何度も救ってくれた。
治人は高校時代に最初にできた友達で、あの講演会にも参加して、
心を打たれたうちの一人だった。
思い返せば、あの頃から治人と話す機会も増えて、
いつ頃からかお互いに親友になっていた気がする。
そして誠也とはあの講演会の時に初めて出会い、
仲良くなるのにそんなにも時間はかからなかった。
今はなぜかここにいない詩音ともそんな感じだった。
そんな4人だったからこそ、俺は会社を起業するときには一緒に働きたいと思った。
高校卒業後、俺と碧、治人は同じ大学へ進学し、
誠也と詩音はそれぞれ違う大学へ行った。
俺は起業するために有名大学の経営学部に。
碧は俺のサポートをするためと言って経済学部へ。
治人と誠也は理工学部。詩音は教えてくれなかった。
違う大学、違う学部になった俺たちだったが、
週に1度は会って今後について話し合いを重ねていた。
だからこそ、俺があの会社を起業することを提案した時もすんなり乗ってくれて、
どんな会社にするべき会見交流も重ねることができた。
こいつらとならこの社会を変えることができる。そう真剣に考えていた。
「その顔は思い出したって顔でいいのよね。」
俺が過去を想起していると痺れを切らしたように碧が言葉を発した。
「ああ、思い出したよ。」
俺はあの日のことまでも思い出しそうになったが、
怒りで周りが見えなくなりそうでぐっと抑えた。
これ以上、幸せだったころの思い出を汚したくないと思ったことも
理由の一つだったが・・・。
「そう。それならその前のことを話させてもらうわ。幻滅しないでちょうだいね。」
俺は彼女がこれから話すであろう言葉たちに対して一抹の不安を感じていた。
というか知りたくなかった。
「正吾、あなたに告白したあの日から一年ほど時は遡るわ」
「斎藤碧さん、俺と付き合ってくれないか。
俺なら君のことをきっと幸せにできるからさ」
黄金沢俊一が私に告白してきたのは、高校に入ってすぐの5月頃の事だった。
「え、で、でも私たち入学したばかりでクラスが一緒になっただけじゃない?
それなのに、どうして?」
それは単純な疑問だった。
まだ入学してから1月しか経っていないというのに
告白なんてありえないことだし、そもそも自分と彼の接点なんてなかったはず。
ただのクラスメイトとしてしか見ていなかった。
理由が欲しかった。
「どうしてか・・・。そんなこと決まっているだろう。
俺と釣り合う容姿を持つのが君以外にいなかった。それだけだが。」
さも当然のように彼は言ってきた。