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02  ????/??/?? ??? 公園:うあああああああああああああああああ!

 とりあえず生きてはいるらしい。


 しかし体が妙に重い。

 起き上がるのがだるい。


 ま、いっか。

 何はともあれ生きている。


 視界に入るのは淀んだ曇り空。

 目を開けていても眩しくはない。

 しばらくは寝転がったままでその喜びに耽ろう。

 

 横目にして周囲を観察する。

 砂場では子供が母親に連れられてきゃっきゃと遊んでいる。

 耳を凝らしてみよう。

 

「ママー、あそこにぶーぶーがいるよ」


「こら、見ちゃいけません」


 ぶーぶーって何だろう?


 それはともかく日本語の会話なのは間違いない。

 親子も明らかに東洋人だし、ここは日本国内のどこかか。

 

 ホントに酷い目にあった。

 拉致されて、逆レイプされかけて、得体の知れない注射打たれて。

 どこの国か知らないが無茶しやがって。


 ……いや、待て。


 おかしい。

 どうして俺を解放する? しかも日本国内に?

 そんなのありえない。


 まず俺を生かす理由なんてない。

 加えて俺を殺したところで、日本政府は諜報が係わる事件だと見て見ぬふりが基本。

 敵国にすれば「日本人は殺し得」とすら言いうるのに。

 

 ならば考えられるのは二つ。

 ここは夢、もしくは既に死んでいるかだ。

 いずれにしても現世でないのは間違いない。


 最後に打たれたのは恐らく向精神薬。

 アッパー系のドラッグと呼ぶ方がふさわしいか。

 いわゆるオーバードースを引き起こさせられたのだろう。


 薬物に詳しくないからそれ以上の想像はできないが、運が良ければ現世の体はそのまま眠っているかもしれない。

 もしそうなら、今日から北条と研修。

 異変に気づいた北条が動いて救い出してくれる可能性はある。

 とりあえずはそれを祈ろう。


 仮に死んだのなら、それはそれで仕方ない。

 今更どうしようもない。

 俺を逆レイプしようとした女は恐らく売春婦。

 何処の国の情報機関でも、ハニートラップにはそうした専門の要員を用いる。

 そんなビッチに童貞を奪われず済んだのがせめてもの救いだ。


 ……そうでも考えないとやってられないのが本音だけどな。

 

 ただ実際の生死はともかく、今は意識もあるし体も動かせる。

 後は成り行きに任せるとして散策でもしてみるか。


 起き上がろ──あれ?

 お腹がつっかえる。

 それに上半身がやっぱり重い、体調云々ではなく本当に重い。

 ベンチに手をつき、ようやく起き上がる。


 一体どうしたんだ──って、えええええ! この妊婦みたいな腹はなんだ!


 履いているパンツはよれよれになった黒い……この質感は……学生服?

 上着を脱いでみる。

 間違いない、今時見なさそうな詰め襟の学生服だ。

 その下に着ているのはどどめ色したトレーナー。

 何となく袖を嗅いでみる──酸っぱ!


 胸には何やらロゴ。

 引っ張ってじっくり観察してみる。

 【Nymph】と書いてある。

 ニンフ?

 横には水色髪した女神っぽいツインテール幼女のイラスト。


 ──あっ、これって!


 トイレに駆け込む。

 鏡……鏡……うあああああああああああああああああ!

 足が震えて力が入らない。

 かくんと膝が折れ、ぺたりと床にへたり込んでしまう。


 いやいけない、もう一度確認しよう。

 現実から目を逸らしてはダメだ。


 洗い場に手をかけ、ゆっくり立ち上がる。

 恐る恐る鏡を覗き込む。


 ……やっぱり。見覚えある格好だと思ったんだ。


 このもっちりしたほっぺ。

 ぼってりとした瞼。

 脂ぎった顔。

 フケの溢れたぼさぼさ頭に磨かれていない黒縁眼鏡。


 頭のてっぺんからつま先まで全身がキモオタ成分で出来上がっているキングオブキモオタ「渡会一樹(わたらいかずき)」じゃないか!


 一樹は二〇年程前のエロゲー、今で言うギャルゲー「上級生」に出てくるキャラ。

 胸元に大きく輝くゲームメーカー「ニンフ」のロゴがトレードマークである。

 外見もキモければ中身もキモイ。

 具体的には語りたくないがとにかくキモイ。

 何せ一樹の趣味は「盗撮」、この時点で終わってる。

 まさにゲーム内のキャラから現実のプレイヤーに至るまで、全員の嫌悪を一切その身に引き受ける究極的なやられ役兼いじめられ役兼悪役兼憎まれ役である。


 あっ、「ぶーぶー」の意味がわかった。

 それは豚、つまり……俺のことだったんだ。


 いや、納得してたまるか。

 ポケットをまさぐるとパスケースの感触。

 取り出して開くと、学生証が入っていた。


【出雲学園 高等部 二年B組 渡会一樹】


 震えが止まらない。

 認めたくない、だけどこれが現実なんだ。

 だが、壊れるわけにはいかない。

 正気を保つべく「上級生」の記憶を掘り起こす。


 「上級生」を一言で表現するとナンパゲーム。

 形式は現在主流のヴィジュアルノベルではなく、自由度の高いフィールド移動型のアドベンチャーゲーム。

 実際のプレイ感覚はむしろロールプレイングゲームに近い。


 具体的には、高校二年生の主人公として約一ヶ月間を過ごし、ヒロイン達とイベントを重ねながら親密になり、クリスマスに意中のヒロインへ告白する。

 告白を受け入れてもらえれば攻略完了。

 ハッピーエンドとして、主人公とヒロインの将来像が描かれる。


 俺が「上級生」と出会ったのは中学生の頃。

 この時点ですら既にレトロエロゲーと呼ばれていた。

 それでもプレイしたのはゲーム全体の中でも屈指の名作として評価されていたからだ。


 かつては幾晩も寝ずにハマったゲーム。

 だから神様がせめてもの慰めに夢を叶えてくれた。

 「上級生」の世界へ導いてくれた。

 それくらいは都合良く考えてもいい。


 でもなぜ一樹なんだ?

 よりによって一樹なんだ?

 俺の夢を叶えるなら主人公じゃないのか?

 ここが死後の世界だとしたら、これは天国に旅立つ前に課された新たな試練か?


 ああ、神様。あなたは俺に何をお望みなのでしょうか。

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