1.四月八日今日のラッキーアイテムは"白衣"
ちょっと長くなってしまいました。でもなるべく一話完結型にしたかったんです。読みにくかったらごめんなさい>_<プッと笑っていただけたら幸いです。
『今日はドキドキ、始業式。久しぶりに友達に会えるのが楽しみで、昨日はなかなか眠れなかった。でもそのせいで遅刻しちゃうなんてついてない!私は急いで体育館へと続く廊下の角を曲がろうとしたその時ー…』
「つまりぶつかったんだな。」
「まだぶつかってな「ぶつかったんだろう?」
「…ぶつかったんだけどさぁ…」
まだ話のなかではぶつかってないのに…と芽衣は口をブーと尖らせて京香を見た。そんな芽衣に京香は赤いフレームのメガネを押し上げながらハーと呆れたようにため息をつく。
今は体育館での始業式もHRも終わり、それぞれが新しい教室で思い思いにしゃべっていた。
「私はその擦りむいてデロデロになっている膝をどうしたんだと聞いたんだ。何故そこでお前の妄想劇場が始まる。」
「それはそのぶつかった人がカッコ良かったからなんじゃない?」
横から可愛らしい声でクスクス笑うのが聞こえてきた。
「はあ?今度は何処のどいつだ?」
「京ちゃんヒドイ!ミホリンも笑わないでよ!今度こそ私の王子さまなんだから!だってその人"白衣”着てたんだよ‼」
全く取り合ってもらえない芽衣は拳を握り締めて力説した。
「はあ?白衣?」
京香の顔には何言ってんだコイツとデカデカと書かれていた。しかし芽衣はそれに気付くはずもなく鼻息荒く自分のスマフォを取り出す。
「このアプリ知ってる?!恋愛の達人まっちゃんの『ああ私の王子さま☆』」
「知らんわ。」
京香がズッパリと切り捨てる横で、美穂がああ、とうなづいた。
「うん、知ってるよ。今女子中高生の間ですごい人気の恋愛占いアプリだよね。なんでも"運命の王子さま"を占ってくれるとか…」
「そう、それで私も昨日やってみたんだけど、なんと私の"運命の王子さま"は『白衣の似合う大人なカレ』だったの!」
「それって…」
「あらまぁ…」
「ね、これぞまさに運命じゃない⁈」
キャーッと芽衣が身を捩って悶えていると、「どうしたの?」と言う声が聞こえてきた。
「あ、風見君。」
「芽衣のダンナだ。」
「ダンナじゃないって!只の幼馴染!」
芽衣は京香のからかいにプリプリと反論する。
しかし 京香に"ダンナ"と呼ばれた風見陽介はそれらのやり取りをきれいにスルーして顔を顰めて芽衣の膝を見た。
「膝怪我してる。今朝トイレ長かったからね、やっぱり遅刻しそうになって焦ってこけたんだね。だから昨日そんなにアイス食べるなって言ったのに。」
「おい、寝坊したんじゃなかったのかい。」
「まあ、芽衣ちゃんらしい…。」
「ヒドイ!陽介ヒドイ!だってアイス食べたかったんだもん!」
「はいはい、これに懲りたらアイスは一日1個にしようね。折角の綺麗な肌なんだから傷を付けるなんて勿体無いよ。ほら、保健室行こう。」
そう言うと陽介は自分のカバンと芽衣のカバンを持つと自然に芽衣の手をとった。
「芽衣ちゃん今日クラブは?」
「ん、お休み。」
「そっか、それじゃ手当が終わったら帰る前にちょっと保健室の裏の花壇に水遣りしてもいいかな?」
「分かった。手伝うよ。」
「ありがとう。それじゃ、坂本さん、吉野さん、これからも芽衣ちゃんのことよろしくね。」
「またねー京ちゃんミホリン!」
芽衣は手をブンブンと振ると陽介と一緒に教室を出て行った。
「…『白衣の似合う大人なカレ』ねぇ…」
京香は二人が出て行った扉を見つめながら、しげしげと呟いた。美穂はやはりクスクス笑っている。
芽衣の幼馴染である風見陽介は学校では中々の有名人だった。何故なら植物に対する情熱が素晴らしく、理科の研究コンテストなどでは常に入賞し、中学生でありながら大学の研究室に出入りしているという天才少年であるからだ。
そんな彼は皆から尊敬と親しみを込めて「ハカセ」というあだ名で呼ばれていた。
「『ハカセ』と言ったらやっぱりアレでしょ。」
その時、教室の窓から先ほど教室を出た芽衣と陽介の姿が見えた。
春の柔らかい風に、陽介の羽織っていたものがふわりとひるがえる。何度も洗濯して優しい色合いに落ち着いた"白衣"がキラキラと光って見えた。
「なんで気付かないかねぇ。あんなに毎回毎回イチャイチャしてるのに。」
「風見君が過保護すぎるのがいけないんでしょ。」
美穂がその大きな目を細めて面白そうに笑う。
すると京香はおもむろに真剣な顔をした。
「どうしたの?」
「…私もそのアプリ試してみようかな…。」
一泊置いてから、美穂は遠慮なく爆笑した。