散歩
超能力と霊能力の技能を手に入れたおかげで俺の夏休みは充実したものになった。
7月も後半に差し掛かった頃には超能力のコントロールにもだいぶ慣れて空を自在に飛ぶことも出来るようになっている。
まぁ、人の目がある関係上かなり深夜にならないと空を飛べないのが残念だけども。
霊能力のコントロールはまだ難しい。出力を上げて右手をゴッドなガンダムの必殺技みたいに光らせる事は出来たが、完全に霊力を消す事はできなかった。
あと、俺は散歩が趣味になった。
理由は霊能力のおかげで見る世界が一変して、見るもの全てが新鮮になったからだ。
近所の神社の隅に某RPGの旅の扉みたいな歪んだ空間があったり、空の上に居酒屋のような建物があったりして見ていて飽きない。
特に空の上にあった居酒屋のような場所はそこから出てくる幽霊が酔っ払っている風な所を見る限り本当に居酒屋なのではないかと俺は考えている。
・・・
今日は近所にある小さな山に来ている。
精霊とか妖精みたいのを発見できたらいいなぁ、と思ったからだ。
幽霊がいるんだから精霊や妖精みたいのだっていると思うんだ。そう考えた俺はもう家でゴロゴロしている事はできなかった。
でも遠出するほどの情熱はないので近所の山に来たという訳だ。
ここは時々小学生が探検する以外は誰も入ることもない小さな山で、獣道みたいな道しかなく、雑草が鬱陶しい。
流石にこんなところに妖精とか精霊はいないだろうな。
もっとマイナスイオン的な何かが溢れている所じゃないとアレなんだろうな。
こんな所に童話に出てくるみたいな妖精や精霊がいるとは思えないものな。
この山には不思議な事に幽霊がいない。
こういう場所は他にもある。デパートとか大きなビルとかは幽霊が避けて通っているのを時々見かける。
幽霊達は入りたくても入れないみたいだ。
もしかしたら結界とかそういうのがあるのかもしれない。
そういう場所だから精霊とか妖精がいるんじゃないか?とも考えている。
俺だって何も考えずに山に入ったりはしないのだ。
そんなことを考えていたら草むらからガサリと鼻が異様に長いオッサンが出てきた。
恰好は修験者みたいな感じ。
「あ、こんにちは。」
とりあえず挨拶するとオッサンはこちらを凝視したまま固まっている。
30代といったところだろうか?鼻が長い以外は貫禄がある風のオッサンである。
こちらが挨拶したのにオッサンは何も言わない。何とも失礼なオッサンだ。
「お主、儂が見えるのか?」
オッサンがそう言った時、俺はマズイと感じた。
もしかしたらこのオッサン、幽霊だったか?半透明じゃないから油断した。
幽霊じゃないとしたら電波さんか?それもマズイな。
「うぬぅ……姿隠しの術を掛けたというのに、何故だ?」
「姿隠し?」
俺の言葉をオッサンは無視してウンウンと悩んでいる。
「まぁいい。お主、これをやるから儂を見た事は他の人に内緒にしてくれんか?」
「別にいいですけど。」
オッサンはキセルを懐から取り出して渡してくる。
金の装飾とかしてあって豪華な感じのやつだ。
こんな電波なオッサンに山で出会った事を話せる友人なんていないので何も考えずに頷く。
オッサンはキセルを俺に渡すと何処かへ走って行ってしまった。
その後も妖精とか精霊を見つけるために山を徘徊していたが、オッサン以外に出会う事は無かった。
今日の成果はキセル一本か。
売ればかなりの金額になりそうなキセルだ。あのオッサンは何者だったんだろう。
その日の晩、テレビのミステリー特集で天狗が紹介されていた。
天狗の姿があのオッサンに酷似している。
「もしかしてあのオッサン、天狗だった?」
まさか妖精、精霊を探しに行って天狗に遭遇するとは…
俺は机の上に放り投げてあったキセルを見た。
凄い物なんじゃないだろうか、これ。
高そうとしか思ってなかったが、凄い力を秘めた物なのかもしれない。
でも俺、未成年だしキセルとかどうしようもないなぁ。
俺はキセルを勉強机の引き出しに放り込んだ。
お金に困ったら売りに行こう。




