第三十三話 『再臨』
再び臨む、ソレ。
アイがあっさりと男爵級悪魔を倒した時から少し遡る。
~アリア SIDE~
「さてと、ここまでなら何も来ないだろ」
まったく、アイ兄がやった、私との模擬戦で使ったやつをあっさりと使った。
あれって周りの事考えない武器なんだからちゃんと自重しろよ!
「だけど……こりゃ正確な場所も聞きだすべきだったか?」
この村。最初の村民は全村民の半分と言っていた。
視界に入る分は50人だったが、多分あの時は軽く数百人いた。
だけど、そんな大人数を監禁しておける場所ってどこにあんだよ!
「………………ん? あれって……」
丁度、多分村の真ん中ぐらいの所で、宙から辺りを見渡すと、
一つ、やけに大きい家があった。
多分村長とかそんな感じの家だろ。
まあ、怪しいとしたらあそこだろという考えで、その家に向かって走った。
「……これ益々怪しいな」
大きい家の入り口の前に来ると、はっきり見えた。
扉の内側から外側に、紅く、何かが引き摺られた跡があった。
「これ血か……」
扉を開けると、ムワッと血の臭いが広がった。
気持ち悪い。この匂いを嗅ぐだけで、あの時の光景が、あの、時の……
「う゛……うううううええ…………」
一瞬何かがせりあがる様な感覚が喉の中を駆け巡り、次の瞬間、出してしまった。
「うう……」
こりゃ、また兄に『女の子がはしたないぞ!』って言われそうだな。
いや、こういう場合は『大丈夫か?』か?
そんなふざけた事を考えながら、部屋の中へ入った。
床には、まだ血の跡が残っている。
それを辿っていくと、書斎のような、一際他の部屋よりも広い部屋に入った。
その血の跡は、目の前の……何だ?
「隠し階段?」
血の跡は、開きっ放しの隠し階段?に続いていた。
とりあえず、中に入ってみる。
敵は悪魔だけだから大丈夫と思った。それに、『悪魔の王』と
互角に戦った兄が負けるとも思えない。
下に続く階段を降りる。
と、階段が途切れたそこには、
「何だよ、これ……」
牢屋があった。
牢屋の中には、表情を見なくとも憔悴しきった感じの人間が、
手錠と足枷で身動きを封じられていた。
見るからにどうやら男性と女性に分かれていて、子供もいる。
多分子供はまだ純粋すぎて、低級悪魔では掌握できない魂だったのだろう。
一番近くにある牢屋を風の魔法で斬り捨て、中に入る。
「おいお前ら、大丈夫か!?」
牢屋の中は、とても暑く、××の臭いがムンと鼻を突く。
そこは、私と同じくらいの歳の女子が集められた牢屋だった。
「う……あ…………」
「ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃ……」
虚空を見つめるその瞳は、一瞬こちらを向くものの、それに私は映ってなく、また項垂れる。
壁に向かって何かを見つめながら延々と呟く者も居る。
よくこれで信仰心だけでも守りきれたものだ。彼女らの抵抗が、そこには顕著にあった。
だがしかし、抵抗をしたからこそ、こんな目に遭ってしまった。
「ちくしょお! 次だ! 誰かいないのか!?」
牢屋から一回出て、思いっきり牢屋が密集する部屋の中で叫ぶ。
しかし、
『……………………』
何も還って来ない。
声の一つもしない。
微かに聞こえるのは、力の全く入っていないうめき声だけ。
ここには、確かに悪魔には染まらなかった強靭な魂の持ち主が、それは多くいるのだろう。
だが、それだけ。
いくら強靭な魂を持っていようと、時間が経てば崩壊する。
それも、低級悪魔程度も掌握できない程に、狂う。
「くそぉ! ちくしょおおおおおおおおお!!!!!!」
周りから迷惑だという顔も向けられるわけも無く、
ただただうめき声が聞こえるのみだった。
「お呼びかな、『天使の末裔』?」
「! 誰だっ!」
いきなり後ろから声が響く。
それも、気配も何も感じさせずいきなり。
そして後ろを振り向きながら、聞こえる声。
この声は、
「誰だだと? 笑える事を言う」
まさか、もしかして、
「もう貴様だって知っておろう?」
この口調。
やはり、それは、黒かった。
「お前は!」
だがしかし、それは以前のものとは違い、
『色』を持って、『姿』を持っていた。
「やっと分かったか。そう、我こそ!」
「「『悪魔の王』!」」