第十六話 ディアボロス
いきなりシリアスパート突入。
俺は今、妹をお姫様だっこして、また更に奥へと向かっている。
「う……此処は…………」
「おう。起きたか?」
「って! 何でアイ兄がこんなっ……つーか離してっ!」
「あ、ああ……(俺の事やっぱ嫌いなのかな…………)」
「まったく。いくら妹とはいえ寝てる間にお姫様抱っこはねーだろ!
(あ~、恥ずかしい!
相手は兄だぞ。義理でも兄だぞ! まったく、すげー恥ずかしいー!)」
「……そーだな…………(ハァ……俺って…………)」
何かといきなり齟齬が生じてる兄妹だった。
「って、それよりまだなのかこの道は。
いつまで続くんだろーな?」
「いや、少しだけど風が複雑に動いてる。
多分出口があると思うよ? それも風が行き来できるほどの」
「ハァ!? 何で風の動きなんて分かるんだよ兄は!」
「いや、それは……訓練の賜物?」
「……嘘っぽいけど、まあいいよ。それじゃあ急ごう!」
そう言って走り出す妹。
実を言うと、妹に話したのは、マスターに拾われた事と、属性のことしか言っていない。
だから、異世界の事、超能力の事、右手の事も言ってない。
さっきは危なかった。風の動きは、超能力で一番最初に基本として使い始めたものなので、
つい自然にやってしまう。
右手の事も、気絶してうまく忘れてくれたようだ。
まあ……いつかは話すさ。妹だし、嘘は吐き続けられない。
「お~い! 早くいこーぜー!」
「あ! 待てよ!」
……紫、俺は異世界でこんなに幸せで良いのか?
俺は、お前の元に帰らなきゃいけないのに…………。
って、似合わずシリアスな気分になった。
この議題はまた後。
今は、まずは妹の幸せ優先。俺も、帰るためには強くならないとな。
「あ! おい兄! あれ見ろよ! 出口だぜ!」
「あ、ああ! 行くか!」
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか凄く進んでいたらしい。
正面50m程で通路が途切れているのが分かる。
俺達はそこに走っていく。
そしてその出口から入った部屋で、
俺達は『異常』に会った。
俺達は一瞬で体が動かなくなった。
妹は、体をガクガクと震わせながら、青ざめた顔でソレを見る。
その『異常』は、黒くて、黒くて、黒かった。
体全体が光を取り込むかのように闇が広がっていて、
手には爪らしきもの。
足もちゃんとあった。
勿論、頭もあり、目と思わしき場所は、赤く紅く光っていた。
それは、形だけなら人間だったのかもしれない。
しかし、やはりそれは『闇』だった。人ではない。
記憶の中で、この『異常』と同格の人間を見たことがある。
そう、ホムンクルス達だ。
その見た目からは創造できないような闇を撒き散らす狂気。
でも、それは、一応でも人だったから闘えたのかもしれない。
だが、目の前にいるモノは、人ではない。
その異常は、闇の中で、口を開いた気がした。
『これも、運命か!
ここに跳躍者と天使の末裔が同時に来るとは、なんと幸運か!』
低い、少しノイズが掛かった声が部屋に響く。
跳躍者? 天使の末裔?
なんのことだ?
俺は脚の震えを気合で直し、『異常』に聞く。
「お前は……なんだ?」
『そうか。 跳躍者には名乗っておこう。
私はディアボロス。悪魔だ。……天使の末裔にはいらないな?』
隣でビクッと震える妹。こいつと妹は、会った事がある?
「……その、ディアボロスがどうして此処に?」
『そんなもの、これから滅する者には関係あるまい』
「チィっ!」
俺は、悪魔の、『滅する』という言葉を聞いて、恐怖した。
脳が警告する。
こいつには、絶対に殺される。戦ってはだめだ。
ホムンクルス達なんて目じゃない!
悪魔は、口調だけでは分からないかもしれないが、
確かに悪魔が悪魔たる所以が感じられた。
だから、俺は逃げる。
俺は死ぬわけにはいかない。しかも、妹を死なせるわけにはいかない。
俺は妹を抱え、扉の外へ走った。
「絶対に、殺されてたまるかっ!」
主人公は死に怯える。
それは昔の経験から。