魔王との決戦前夜、勇者が急に渋りだした。
勇者
「……なぁ、思ったんだけどさ、魔王の城に攻め込むの止めない? 今の俺たちじゃあ力不足だと思うんだ」
騎士
「っ!? 何を言っているんだい! 君らしくない! ……まさか、今更怖気づいたの?」
勇者
「ちげえよ。逆にさ、今の俺たちが魔王をやれると本気で信じているのか? 俺は確信している。今の俺たちじゃあ、絶対に魔王を殺せないと」
騎士
「っ!? ……本気だね。君には僕たちに見えていないものが見えるというのか……」
聖女
「勇者様、どうしてですか? 一体私たちに何が足りないというのですか。過酷な旅を乗り越え、ここまで来ました。私たちには勇者様がいて、神から賜った聖剣があります」
勇者
「……持ち上げるな、聖女。俺はな、賢明じゃねえ。別に特別強えわけじゃねえし、たまたま神から聖剣を賜っただけの男だ」
聖女
「存じ上げております。勇者様は確かに凡庸です。精々一流どまりの能力。人格も殊更優れているとは言えず、酒、賭博、女。淫蕩三昧の屑。ですが、神から聖剣を賜り、聖剣を扱える唯一の人間という一点にこそ貴方の価値があるのです。卑下なさらないでください」
魔法使い
「これっ、言い過ぎじゃぞ。本当のこととは言え……。こやつが本当に魔王討伐から逃げ出したらどうするつもりじゃ!」
勇者
「止めろ、爺さん。良いんだ、聖女の言う通りだ。俺は聖剣の付属品だ。本体は聖剣だ。だから問題なんだ……」
魔法使い
「? どういう意味じゃ、それは」
勇者
「分からねえか、これを見ろ、この聖剣を。おかしいとは思わないか? こんな光るだけの剣が聖剣だなんて」
一同
「「「!?」」」
勇者
「聖剣は神が魔王を滅ぼすために造り、俺に授けたものだ。魔王はたとえ倒せても、それがなければ殺めることはできねえ。この意味が分かるな」
聖女
「いつからですか!? それに、この私が気付けなかった!? 私は神にお仕えする最高位の聖職だというのに!?」
勇者
「気にするな。俺が勇者の力でこの祭りで買った玩具の光る剣を聖剣に偽装していたんだからな」
騎士
「っ!? 何故今まで言わなかった!? もっと早く言うべきだろう!? 聖剣は今どこにある!? というか、いつからだ!?」
勇者
「……そうだな、あれは一年前。神から聖剣を賜ったその夜のことだった」
一同
「「「!?」」」
勇者
「神から聖剣を賜ったことでちやほやされていた俺は最高に調子に乗っていた。それで今日なら勝てると思い上がって、パーティーの全財産を賭場ですっちまった」
騎士
「き、君はまさか……」
勇者
「……それでムカついて酒場で一人飲んでいたら、女に声をかけられた。酒代も払ってくれてな、宿屋に共に行こうということになった」
魔法使い
「!? 聖剣をどこの馬の骨とも知れぬ女にくれてやったとでも言うまいな!?」
勇者
「まぁ、聞け、爺さん。一先ず風呂で体を洗うことになって、戻ったら女と聖剣が消えていた。俺はくれてやったんじゃねえ、被害者で盗まれたん——ぐはっ!?」
騎士
「ふざけるな! 勇者ともあろう者が女に騙されて聖剣を奪われただと!? それも神から賜ったその夜! それで僕たちに一年間も隠していた!」
勇者
「なにしやがる!? 俺だってなぁ、ずっと悩んでたんだぞ! 苦しかったし、打ち明けたかった!?」
聖女
「……自分が楽になりなかっただけでしょう、勇者様は。軽蔑していましたが、まさかここまでとは……」
勇者
「黙れよ、節穴聖女! 一年間、聖剣がだだの玩具だって気付けなかった分際で。神もさぞ落胆しているだろうよ。——ぐあああああああ!」
魔法使い
「しぶといの、流石勇者じゃ。殺す気で撃ったというのに死なぬとは……」
勇者
「お前ら覚えてろよ、いつか絶対ぶっ殺してやるからな! 光よ、爆ぜよ」
(その場を光が包む)
一同
「「「目がぁあああ!」」」
決戦前夜の汚点は、人知れず幕を閉じる。
その後、勇者は一人魔王に挑み、魔王を封印するも死亡。
聖剣の行方は知れず。
聖女は教会に帰り。
魔法使いは魔王を滅ぼすべく古代魔法を研究する。
騎士は姿を消した。一説によると、消えた聖剣を探しているという。




