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変態が、朝起きたら女になってた。  作者: 孕音にと
第一章 非日常的日常の始まり
2/2

第一章一話「女の子はツラい」

過激な表現が含まれてるから、良い子のみなは見ない方がよろしいと思います。

前書きには前回のあらすじを短く説明するか、今回のあらすじを説明するか、どっちのほうがいいのだろうか?


 照る陽は白く反射して、空に響く蝉の声が鼓膜にこびりつく。8月の真夏、まさに灼熱地獄の世界の上に立つ少女、葵に初めの試練が訪れた。それは、――――谷間に汗が溜まって、胸元が蒸れて気持ち悪い!!

 葵は今、灼熱地獄と平行して、谷間の汗地獄と闘っていたのだ....!!


 ――――まさか、ここまで巨乳が大変だったとは....


 6,7月の溽暑は過ぎて、本格的な夏、酷暑の日にお胸が大きい女の子の悩みを思い知らされた葵ちゃんは肩を落とし、今にも溶けそうなコンクリートの地面をとぼとぼと歩く。体中からあふれ出る汗は地面に滴って蒸発し、もはやその蒸発音も聞こえてきそうである。

 もっとも、葵の心は打ちのめされて、葵の胸中に蒸発音が響いているようだ。


「ったく。美少女にこんな思いさせんじゃねえよ、太陽さんよぉ」


 と、訳の分からぬ独り言をぼやきながら、あと2,3分はこの地獄に耐えなければならないと考えた葵は気が遠のき、めまいがしてきそうである。


「世の中の巨乳さんほんとすげえっす....こんな鎧着て戦ってたとは」


 多少歩いただけで、このツラさ。

 

 少し走ろうものなら揺れて、立ち止まれば蒸れて、涼しい風が吹いても、今となっては汗ばんだシャツが張り付き余計に嫌悪感が増すだけだ。


 真夏+巨乳+制服=最悪の三重苦

―――――葵にとっては、この世の終わりみたいな方程式が完成した。


 男の時は、真夏の汗は「青春らしくてサイコー!」と能天気な感想をかましていたが、現在、葵の感想は激変した。

 

「太陽、コロス、ゼッタイ」

 

 縁起でもないことをつぶやいていると、ようやく校門が見えてきた。

 暑さと厚さに耐えながら、なんとか正門をくぐった。その時――――


「え、君ここの生徒?可愛いね。何年生?」


 そう、美少女おきまりの”ナンパ”をされたのだ。

 と思ったが、


「あぇ?なにナンパ?...って、ポチャ野じゃねえか!」


 面倒くさそうな顔をしながらゆっくりと首を上げると、男友達のポチャ野、否、本名は海野 雷(うみの あずま)であり、このあだ名は高校一年の夏、海に行ったとき、海野がスマホを海に落として水没したことにより葵からつけられ広まったあだ名なのだ。

 

 それより、己の名が、しかもあだ名が知られていて驚きが隠せない海野。


「はっ?え、なんで俺の名前知ってんの?!そんなに俺有名人?」


「んなわけあるかアホ。今日から俺、じゃなくて、私、上井 葵は女の子になりました。よろしくねっ」

 

「はああ?」


 自分のあだ名が美少女に知られていたときの数倍も驚く海野。


「いやーなんかねー。今日朝起きたら女になってたの」


「なってたの。じゃねえよ」


「まあこれからもよろしくね。海野くんっ」


「もちろん!!」


 美少女に可愛く自分の名前を言われただけですべてを投げ出し、虜になってしまった海野。

―――ちょろい。


 すると、後ろからまた声を掛けられる。正確にいうと、それは二人に向けたもので―――――振り向くと、そこには赤髪を後ろに一つで結び、キラキラと輝くような特徴的な黄色い瞳の陽気な女の子、滝瀬 真昼(たきせ まひる)が口元に手を当てながら、驚いた表情でこちらへ寄ってきた。


「えポチャ野どうしたの?ポチャ野がこんなかわいい子と話するなんて...!」


「いやバカにしてるだろ」


突然の「女にモテてない」ディスに面食らう海野。


「照れるなーかわいいだなんて。真昼ちゃん、私葵だよ」


「えっ葵なの?えほんとに?葵ってあの、やかましくてふざけてて場の空気をよく乱すあのKYと名高い葵のこと?」


「いや評価悪ない?」


こちらも突然の「空気読めない」ディスに面食らう葵。


「めっちゃ美少女になってんじゃん。どゆこと?またアンリアル現象?」


「そうなんすよー。ほんと災難ですよ」


 と苦笑する葵は、まんざらでもない。否、まんざらでもなかった。先の地獄を体験した後じゃ、そう気軽に「女の子、まじ神」などとは言ってられない。


「まあドンマイって感じだね。これで葵も少しは女の子のツラさがわかるようになるんじゃない?」


「そうそう。ほんとこれが邪魔でさー。あ――」


 そう言って、自分の胸元を指さしながら真昼に視線を移すと、絶壁—————。


「え?今なんて??」


 笑顔で詰め寄る彼女の顔には、もはや殺意がこもっていた。

 額に汗をかきながら、慌てて首を横に振る。


「あいやいやっなんでもないよっ。しっかし、女の子ってほんとにいろいろとツラいね~」


「いや今日なったばっかりなんだから、まだそんなにツラさわかってないでしょうが」


「くそおっぱい星人めっ。そぎ落としてやる!!」


「あ待って!近寄らないでっ!!!」


 身の危険を感じて、校内へと駆け出した葵を追いかけるようにして真昼が後ろへ続いていった。


 一人取り残された海野はわかりやすく肩を落とし、嘆息した。


「はぁ、俺もなりてぇなー」


 内容がおかしい気がするが、彼は心の底から葵を羨ましがっているようだ。

 

そうして、なおも殺人的な日差しが焼き付ける中、だるい体を前進させる海野であった。



―――――――――――――――・――――――――――――――――――――


 

 どたばたとしながらも、教室へたどり着いた葵と真昼。途中下駄箱で、

――――――――――――――――――――――――――――

『捕まえた!!おら!剥いでやる!』


『あぁ!勘弁してくださいぃ」


『私だって....!大きくなりたいのにっ!この淫魔、めちゃくちゃにしてやるぅ』


『あっ////』


『ふぇっ?』

――――――――――――――――――――――――――――

という会話が繰り広げられたので、今はすこし気まずい空気が二人の間で流れている。


涼しいというより寒い空気のまま、二人は教室のドアの前に立った。ちなみに、ここに来るまでも、結構な数の視線を感じていた葵は正直もう疲れてきた。ここでようやく葵は自分の身に起きている事の重大さを理解してきたのだ。

――――朝の喜びが嘘のようである。


そして、ゆっくりと、ドアを開けた。―――途端、教室内の視線は葵に釘付けになる。

 教室一体に広がった冷気が葵を祝福した。否、冷気だけでない。教室もだ。

「……誰?」

「え、だれか新入生来るって聞いてたっけ?」

「めっちゃかわいい……」

「えっ、あれ……上井……?」

「いやいやいや、まさか、あの葵が……?は!??」


 驚きで包まれたクラスメートを横目に葵は自分の席に腰かける。

 ここで、皆の疑惑が確信に変わる。


「おまえ葵かよ.....!!」

「なんで美少女になってんの?!」

「胸でけぇえ」

「いやブラしてなくない....?!」


 疲れ切った葵に畳みかけるように次々と言葉が飛び交う。まあ無理もないだろうが。

 

 葵は服をパタパタと仰いでから、ふうと一息ついて、立ち上がった。


「どもどもー。今日から美少女になりました。上井 葵ですっ。あっ、男だったからってお触りはだめですようー?」


 美少女の特性をフルで活かした葵の言葉を聞いた男子群が強烈な雄叫びを上げた。


 その様子に溜息をして、葵の後ろで真昼がささやいた。


「美少女さん。今後が思いやられるね......」


「まあ、なんとかなるっしょ。あ、ファンクラブとかできるかな?」


 と言う葵に真昼は再び溜息を吐いた。この溜息には呆れが八割、同情が二割を占めている。

 

 やはり、性別が変わっても、夏の暑さに気が滅入っていても、気まずい空気が流れていたとしても、葵は葵である。


――――と、その時。扉が開き、担任の東雲 亮二(しののめ りょうじ)が教室に入ってきた。それを見たクラスメートたちはそそくさと自分の席に戻っていった。

 黒メガネにスーツが良く似合うイケおじで、生徒からはしののんという愛称で親しまれている。


しかし、異様に騒がしい教室を見渡しながら、教卓に立った時、彼は唖然とした。


「上井.....だよな」


「はい。今話題のアンリアル系JKですっ」


「なんだそれ。あーまたアンリアル現象かぁ...」


「まあここは葵ちゃんの可愛さに免じて、ねっ?」


「うん、やっぱ性別変わっても上井のままなんだな」


 一連の会話にドッと笑い声が溢れた教室。イケおじ先生もこの雰囲気に苦笑いした。


「てか、制服とか、出席番号とかその他諸々どうすんの?」


「それは、親も悩んでましたね」


「そうだよな。まあもう生きてるならいいか。....出席、上井 葵」


「はいはーい」


 性別が変わっても憎めないそのキャラに、教室が賑やかになる。


こうして葵の怒涛の美少女学校生活が始まるのだった。




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