プロローグ『男⇒女』
脳みそ360°フル回転しておもしろく作りました。楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
「非現実的」って言葉、聞いたことある?
そのまんま、現実じゃありえないことを指す言葉なんだけど――英語だと「unreal」って言うらしい。かっけぇ響きだよな、アンリアル。
じゃあ、ちょっと想像してみてほしい。
例えば、頭ゴチンで他人と体が入れ替わったり、拾った猫が翌朝めちゃくちゃ美少女になってたり、コンビニのレジに並んでたら吉田沙保里が「ポイントカードは?」って言ってきたり。(これは違うか)
つまり、「そんなバカな」ってことが、ホントに起きちゃう。もし現実でこんなことが起こったら? 世界は毎日ドタバタのパニックミラクルワールドである。
……そして、この世界では、なぜかそういうことが、普通に、起こってしまうのだ。
うん、正直ちょっとダルい。
この謎の現象、世間ではこう呼ばれている――“アンリアル現象”。
これは、そのアンリアル現象で「男」から「女」になったある変態――いや、人間(?)の物語であるッ!!!
鳥のさえずり。木の葉のざわめき。蝉の合唱。そして――早朝、強烈な絶叫。
「うええええええぇぇええぇえぇえええ!!!」
ベッドから跳ね起きて絶叫するのは、上井 葵。高校二年生、クラスに一人はいる“うるさいやつ”である。
「こんな朝早くからなんだよ....」と騒ぎに目をこすりながら部屋を覗いたのは父親、我桜。だが、葵の姿を見た瞬間――
「なっ……なにィィィ!? 女ぁ!?」
「うるさあああい!!!!」
母親、海奏からのお叱りを受けて、二人は黙りこくり、真剣な顔をして見つめ合った。
「女になった気分はどうだ?我が子よ」
「I'm very exciting. 父さん、今日から俺、いや私は……あなたの娘です」
真顔でキメる葵。だが、次の瞬間、親子でニヤリと笑い合う。
父は皮肉の笑み、子は変態的な歓喜の笑みであった。
そんな二人の様子に、海奏が顔をひょこり出す。
「朝っぱらから何かと思えば……そういうことだったのね。今日、学校あるけど……どうするの?」
「行くよ。まあ、なんとかなるっしょ」
親指を立てて笑ってみせる葵。両親は揃って苦笑いした。
そのまま朝食。リビングにいた妹・海桜が、葵の顔を見て目を見開く。
「……お兄ちゃん、お姉ちゃんになったんだね……」
母と同じく、若干の哀れみを込めたリアクション。だが当の本人、むしろ嬉しさでニヤけが止まらない。今にも※※※※しそうである。(ご想像にお任せします)
「ま、どうせすぐ戻るっしょ」ってことで、そのまま登校することに。
ただし制服は当然、男子用しかない。ダボっとしてるが――なぜか胸元だけはキツい。
「にしても……お姉ちゃん、おっきいね」
じーっと見ながら妹が呟く。
「でしょ? でもこれ、地味に邪魔なんだわ。見る分には最高だけど、付いてると意外とキツい。」
ため息まじりに椅子へと腰かける葵。黒髪がさらりと肩を流れ、妙に色っぽい。
ちなみにこの胸、すでに物色済みである。
親との会話のあと、制服に着替える際にしっかり観察し、触り、揉み、満足してから今に至る。
「あれ? 制服そのままってことは、下着も?」
「当然。え、もしかして貸してくれるのかい? 優しい妹ちゃん♡」
「貸さないよ。いやだよ。ていうか中身お兄ちゃんのままなら、それもう犯罪だからね」
「かたいこと言うなって~。私たち姉妹じゃん?」
「警察署にお姉ちゃんをお届けしてきます」
だいぶドン引きな表情で言われた葵は眉を下げた。ふむ、相当な美人に性転換しても、心は汚らしい男のままらしい。
「……じゃあ、今日の放課後、下着買いに行く?」
とナイス提案をかますマイマザー。ありがたい。
「神かな? 実はこれ、けっこう気になってて……」
視線を落とす――胸元には、白くてでかい“壁”。
さっき走ってみたら、すごかった。揺れた。感動した。
「……にしても、自分にこんなことが起こるなんてなぁ」
正直、不安もある。でもそれより今は――喜びのほうが強い。
葵はまだ知らない。この“ちょっと嬉しい性転換”が、とんでもない事態に発展していくとは――。