第1話 フラれたその日に極上を知る
現在連載中の『ヤニカスで酒カスで汚部屋暮らしの限界配信者なお姉さん(31)は好きですか?』の完結後に書く長編の候補です。この作品では1章部分の大まかな流れを短編として書いています。
その内この話の長編化を行いますので、もし気に入って頂けたのであれば、長編化をお待ち下さい。
怪我や病気でもしない限りは、多分完結は敬老の日辺りになる予定ですのでその付近から新作を投稿します。
そして本作ですが、幼馴染ざまぁ要素は特に考えていません。
毎回フラれた経験のない主人公ばかり書くのもどうかなぁ? と思ってバランス取りをする目的があります。
恋愛のあるあるとして、こういう事もあるよねぇってだけの要素です。
また、本作の4話がこれワンチャンなろう運営さんに怒られるのでは? と思う要素があったのでこちらを健全版、ノクターンの方に本来想定していた微エロバージョンを同時に投稿しています。
『私達、もう別れよう。一輝は幼馴染としては良いけど、恋人としてはちょっと真面目過ぎるし』
「はぁっ!? 何だよ急に!? 俺が何か彩智にしたか?」
『何もしないからだよ、私達もう大学生になったんだよ? それなのにキス止まりってさぁ。中学生じゃないんだから』
これが晴天の霹靂ってやつなのか? 大学から帰宅している途中に、恋人である幼馴染の畑山彩智から、こんな電話が掛かって来た。
お互い違う大学に行っても、仲良くしようねと言ったのは彩智の方だろ? 処女だから性的な行為は不安があって待って欲しい、そう言って来たのも彩智の方だ。
ちゃんと言われた事を守っていただけなのに。それの何がいけなかったと言うんだ?
俺は彩智としか恋愛経験が無いから、まともに知っている女性経験と呼べるのは彩智だけ。
他の女の子も皆こうなのか? 言われた事を守っていたら、真面目過ぎるとフッて来るのか?
『他に好きな人も出来たし。じゃあね、間島君』
「ちょっまっ!? おい!」
全然意味が分からないままに、一方的に関係が終わった俺は茫然と立ち尽くす。既に通話は切られており、もう彩智の声は聞こえて来ない。
大学生になって1ヶ月と数日、爽やかな気持ちで始まった筈の日常生活が崩壊した。
高校の卒業式で彩智と交わした会話や、これまでの想い出が浮かんでは消えていく。
一体俺の何がいけなかったんだ? 女子の言う嫌というのは建前って話が、本当だったというのか?
そんな漫画みたいな事があるって言うのか? 俺は頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも、いつの間にか帰宅していたらしい。
「はぁ…………」
父親と2人暮らしの自宅に戻っていた俺は、荷物を一旦置いて水を飲む。だけどその程度では、全く気持ちは落ち着かない。
夕暮れ時の自室で、ただフラれた事実を反芻する。どうにも落ち着けなくて、俺は少し散歩をする事にした。
気付けば薄暗くなり始めたけれど特に目的地はなく、適当にフラフラと近所を徘徊する不審者となった。
だけどそんな事はどうでも良くて、ただ辛い現実と向き合い続けるのみ。少し腰を下ろしたくなったので、近所の公園でベンチに座った。
ああ、そう言えばこの公園で昔から彩智と……いや、もうそんな事を考えても意味はない。少しだけ、涙が出そうになった時だった。
「あれ? 一輝君とちゃう? どないしたんこんな時間に?」
「あっ!? え? ご、ごめんなさい。先に理沙さんが座ってたんですね! 俺ちょっと、ボーっとしてて」
「そんなん、別に気にせんでエエのに」
公園のベンチに座っていた先客は、隣の家に住んでいる高田理沙さんという女性だ。
典型的な元ヤンギャル系の既婚者で、10年前に俺の家の隣に引っ越して来た。
少し気の強そうな釣り目と、関西弁がどうしてもキツそうな印象を与える。おまけに金髪に染めていて、頭頂部は少し黒くて所謂プリン状態だ。
身長も多分170cmぐらいはあって、女性にしては高身長だ。それらの特徴から、怖いと勘違いされがちだがとても面倒見が良い人だ。
何より凄く美人だし、スタイルもかなり良くて一児の母にはとても見えない。
10歳になる杏奈ちゃんも、理沙さんに良く似ているし将来はこんな美人になるのだろう。
そんなお隣の美人なお姉さんは、正直な話をすると初恋の人でもある。初めて会った8歳の時、当時18歳で既に妊娠していた理沙さん。
女子高校生が凄く大人に見えたし、良く遊んでもくれた。そんな人の前で、フラれたなんて明かしたくない。だけど何故か、この人の前では嘘がつけなかった。
「どうしたん? 何か暗い感じやけど」
「それが……さっき彩智にフラれまして」
「……フフッ! あっゴメン、ちゃうねん。こんな偶然ってあるんやなって」
何が面白かったのかと言えば、何と理沙さんも先程離婚手続きが全て終了した所だったらしい。
元旦那となった高田さんは、娘の杏奈ちゃんを連れて出て行ったのだそうだ。
相手側の浮気と、勝手な離婚の申し出だったらしく理沙さんに非はない。その結果裁判で自宅の所有権と多額の慰謝料を入手。
だけどこれまでの様々な苦労を思い出すと、1人で家に居るのも複雑だったとか。
俺は知らなかったけど、元旦那の高田さんは酷い浮気癖があったらしい。おまけにギャンブルも大好きで、色々と苦労をして来たと。
もう何度目かは分からない浮気で、20歳の大学生との間に子供が出来てしまった。
その結果、28歳の理沙さんより若い女性に乗り換えたという話だ。てっきり高田さんは、もっとまともな人だと思っていた。
それがとんでもないクズっぷりで、意味が分からなかった。芸能人でも通用するレベルの美女と結婚して、何度も浮気をするなんて。俺にはその心理が理解できない。
「そうや。アタシが作るし、晩御飯一緒に食べへん? 捨てられたもん同士で、傷の舐め合いってとこや」
「えっ、でもそんなの、悪いですし……」
「今更やんそんなん。昔はウチで杏奈と一緒に食べてたやんか」
それを言われると断る理由は無くなるし、今や俺は独り身だ。彩智や高田さんに気遣って、苗字が東雲になった理沙さんとの関係性を改める必要もない。
大体俺が理沙さんと一定の距離を設けたのは、彩智がまあまあな嫉妬を理沙さんに向けるからだ。
でも今となっては意味のない話で、悪い気もしなかったのでお誘いを受ける事にした。
俺が幼い頃に両親が離婚をして、母親がいない俺にとって理沙さんの手料理は特別だ。
また懐かしいあの味が食べられると思うと、正直心が躍った。傷の舐め合いだったとしても、憧れのお姉さんと過ごす時間は悪く無かった。
ただ一点問題があるとするならば、理沙さんの無防備な姿と酒に酔ったノリだった。
「…………なあ一輝君て、ババ専なん? なんやエライ事になってるけど」
「そんな事ないです! 理沙さんは十分若くて綺麗ですから! って、そうじゃなくて!」
「ふぅん…………ほんなら傷の舐め合いやなくて、慰め合いにしよっか」
何でこうなったのかと言えば、フラついた理沙さんを助けようとしただけだ。
結果的に抱き寄せる形になってしまい、体が密着した事で俺の俺がアレな事に気付かれてしまった。
そこから変な雰囲気になり、気が付けば俺は憧れのお姉さんに馬乗りになられている。
成熟した大人の色気に意識を持って行かれた俺は、気が付けば翌日の朝になっていた。
隣には裸の理沙さんが寝ており、今の俺にはもう彩智の事が頭に無かった。これじゃあ変わり身が早いと思われるかも知れない。
だって仕方ないだろう。浮気クズ夫に捨てられた元ヤンギャル系なお姉さんが、あまりにも魅力的過ぎるのだから。
7時10分から10分置きに最終話の5話まで投稿されます。
7時50分には全話が読める様になるので、もしよろしければ最後までお付き合い下さい。