6 擦り切れたテープの様
お化けってどういうモノなんだろう?と考えた時、俺はフッと昔は主流だったカセットテープを思い出す。
それにはちょっとした理由があって、今回はその話をしてみようと思う。
当時中学生くらいの時、家のすぐ近くにある歩道は、よくお化けが出る通り道だと言われている場所だった。
そして結構その辺りは物騒な事件もあって、その通りにあった公衆トイレで昔サラリーマンの男性が首を吊ってしまったそうだ。
当時は凄い大騒ぎだったと母が言っていたから、どうも嘘ではないらしい。
その話を知ってから、そのトイレの前を通り過ぎる時は早歩きをして通り過ぎていたのだが……ある夕暮れ時、妙なモノを見た。
音もなくスッ……と視界の端に映る人間?らしきもの。
勿論目の端に移れば一瞬で目を動かして、その見えたモノを視界の中心に映そうとするんだけど、中心で捕らえることはできない。
飛蚊症とかの目の中のゴミよりは、ハッキリしているモノ。
殆どが気の所為と言い切ってしまえば、その通りだと頷くモノだったが、それが何度も続けば、だいぶ気味が悪かった。
しかも更に気味が悪いのは、それが目の端に映るのが全く同じ場所、同じ映像で目の端に映る事だ。
フワッ……。
フワリ……フワリ……。
まるで揺れる猫じゃらしみたいな……人間だったら腰を曲げてフラフラ歩いている様なシルエット。
しかも場所が……あのトイレへ向かう道のすぐそこだったから、なんだかゾッとする事を考えてしまう。
もしかして向かう最中は、こんな感じだったのかなって。
それを何度も見ていると考えると、正直凄く怖かった。
本当にカセットテープみたいに何度もその映像が流れているみたいで……。
人間の脳は強烈な精神力とかで、その場にカセットテープみたいに自分の最後の映像を残す……とか?
そんな答えが出ない仮説を立てて恐怖を消し去ったが、ある日夜中にとっても不思議なモノをみてしまった。
夏の暑い夜、暑くて目が覚めた俺は、横になっていた身体を仰向けに変え、フッと目を開ける。
すると視線の先になんとなく白くぼんやりした光が見えて……。
例えて言うなら提灯とか?そんな感じの淡い光。
「 ……??提灯……?? 」
そんなモノなんて自室にないため、目を細めてその光をジッと見つめ……一気に目が覚めた。
その光に映っていたのが上半身だけの男性の姿だったからだ。
「 〜っ!!……っ!!! 」
驚き過ぎて声も出せず、そのままベッドから思い切り落ちると、固まったままその男の人を見上げる。
するとその男の人の頬は痩せていて、ガリガリだった事。
そしてただの白いシャツ?に、日の丸?が書かれているハチマキみたいなモノを頭に巻いていたのが見えた。
勿論お化け!!と恐怖で混乱していたのだが……なんだか変だという事も同時に気づいたのだ。
静止画の様に全く動かない。
目も虚ろで何も見ていない。
何だか意思みたいなモノも感じないというか……本当にそこに薄ボケた写真があるのかと思うくらいだ。
そのまま黙って固まっていると……そのまま空気に溶け込む様に消えてしまった。
「 ……な、なんだったんだろう……? 」
恐る恐る立ち上がって電気を点けたが、勿論何もいない。
結局盛大に寝ぼけたのかなと思って寝て、朝話題の一つとしてそれを話してみると、普段あまり何も口にしない弟がカレンダーを見て言った。
「 明後日は終戦記念日だね。 」と。
もしかしたら、あの男の人は終戦前にこの場所で何かを考えていた人なのかもしれないなと思うと、ちょっとしんみりしてしまった。
そしてもう一つの不思議体験は、祖父が死んでから1年くらい経った頃だ。
夜トイレに起きた俺は、半分寝ぼけながらトイレに向かい無事用を足した後、トイレットペーパーが無いことに気づく。
朝イチ快便だった時にトイレットペーパーがなかったら、大惨事だ!
それが嫌だったため、トイレットペーパーが置いてある収納庫の扉を開けた。
その収納庫はそれなりに広い二段仕様。
上の段にはギッシリ布団が詰まっていて、下の段にはトイレットペーパーなどの日用品が入っているのだが……?
「 …………あれ? 」
真っ暗!
布団もトイレットペーパーも何もなくて、まるで絵の具で塗りつぶした様に真っ黒になっていた。
その時電気は点けてなくて、でも大きな窓が正面にあるため、外の街灯に照らされて中は暗いけど見えるはず。
なのに真っ暗だったから、一瞬で汗が吹き出してその黒を見つめた。
すると……。
────ボワッ……。
淡い提灯の様な白い光が浮かび、その中に…………じいちゃんの目を瞑っている顔が浮かんだのだ。
「 ……っヒュっ……っ!!!! 」
息を飲み込んだ途端、直ぐに収納庫の扉を閉じた。
そしてそのまま全力ダッシュして父が寝ている寝室へ走っていき、そのまま乱暴に起こす。
そして直ぐに父をその収納庫の前に連れて行き、部屋の電気をつけた。
「 なんで起こすんだよ。
収納庫に何の用だ? 」
「 出た……出た……。 」
震えながら収納庫を指差す俺を見て、親父は訝しげな顔をする。
「 ……いや、出たって何が?
ゴキブリなら自分で潰せよ、情ねぇな。 」
「 ちげぇよ!じ、じいちゃんが出た!
顔だけで……目を瞑ってたんだ……。 」
そこまで言うと、父は何か思う所があったのか、恐る恐る収納庫の扉を開けた。
しかし、勿論そこはいつも通り布団と雑品しか置かれてない。
俺はホッとしたのだが、逆に父の方が緊張している様子だったので、俺は声を掛けた。
「 親父どうしたんだ? 」
「 ……あ、あぁ。別に大した事じゃないんだが……。 」
煮えきれない様子だったが、父は収納庫の扉をゆっくり閉じて言った。
「 実はその布団な……。
おっとうが死んだ後、寝かせていた布団なんだよな〜。
仕舞ったまま忘れてた。 」
あれは祖父が寝ていた顔を写していたのかもしれない。
そう思うと、ちょっと怖かった。