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1 〜の足

確かこれは高校生くらいの時の話。


当時、三階建ての一軒家に両親と自分、弟と住んでいた自分は、ある日の夜にフッと気付いた事があった。



あれ……?誰か廊下を歩いている???



最初は本当に小さな軋む音だったので、『木造の家がちょっと軋んだだけだろう』程度の音。


だから、そこまで気にしていなかったのだが……?



…………ミシッ……。




…………ペタ……ペタ……。



トットットッ…………。



その音は日を追うごとに、バリエーション豊かになっていく。


少し経った頃には、ハッキリと人の足音だ!と思えるくらいになっていて、三階の自室でドアを閉めている時は、割と度々その前の廊下を歩いたり走ったりする音が聞こえる様になっていた。


更に何度も聞いて気付いた事は、それが大人の足音ではないかも……?という事だ。



なんとなく足音が軽い気がする。もしかして……子供?



不思議に思いながらも特にそれ以外の被害なんかはなかったため、正体を確かめようとは思わなかったが……ある夜、夏の暑さのため、ドアを全開して寝ていた時の事。


突然意識が覚醒したため、フッと目を開ける。


いつも夜に目が覚める時は大抵尿意を感じる時だったので、それがない事に首を傾げつつ、何気なくドアの方へ視線を移すと────……いた。



足首から下の足だけが、並んで立っていたのだ。



足の先は自分が寝ている部屋の方を向いていて、多分足首から上があったら、こっちを見ている感じだったと思う。


とりあえずチョコンと二本の足が立っていて、犬のおすわりの様に止まっていた。


この時、ちょっと意識が混濁していたのか、自分は『あ、弟が脅かしにきたな〜?』などと思い込む。



後々冷静に考えれば足首から下の足だけだし、絶対勘違いできない状況だったのに、何故かこの勘違い。


更にその足首が、随分と小さい……多分小学生の低学年くらいのモノだったのもあって、なんか脳みそが誤作動したのかもしれない。


とりあえずわけのわからない勘違いをした自分は、『よ〜し!脅かし返してやれ!』と思いつき、勢いよく「ワッ!!と起き上がって叫ぼうとしたのだが……ここでやっと気付いた。



あれ??なんか身体が動かない??



指一本動かせず、声もあげれない。


そんなビックリ体験を初めてして驚いたが……ここでもなんだかありえないほど落ち着いていた。



『なんか身体動かないし、もう寝よう!』


心の中で呑気に笑いながら、その弟だと思っている足首に向かい『おやすみ〜!』と念だけ送り、そのままグッスリと眠ってしまった。



次の日起きて夜の出来事を思い出すと、一気に意識は覚醒し、『弟……?足首……??』と、絶対それはおかしい事を理解する。


一応弟には「昨日の夜、俺のお部屋に来た?」と聞いたが、弟はアッサリと首を振っていた。



「いやいや……いくわけ無いじゃん。なんでわざわざ、夜中に兄貴の部屋に行くんだよ。」


「……だよなぁ?」



弟は、『兄が何か碌でもないことでも企んでいるのでは……?』と疑いの目を向けてきたので、慌てて今までの経緯を話す。



時々、子供?の足音が、部屋の前の廊下でよく聞こえる事。


昨日の夜、ドアの前に足首だけが立っていた事。



弟は現実主義というか……まぁ、中学生という多感な時期のせいか、こういったオカルトチックな事や、メリットがなさそうなどうでもいい話題は完全無視してくるヤツだった。


そのため、こんな話しても無視されんだろうな〜などと諦めながら一応話したのだが……弟から帰ってきたのは意外な反応だったのだ。



「……やっばり気のせいじゃなかったんだ。足音……。」



なんと、この足音の存在は弟も認知していたらしい。


ただ、弟の部屋は一番頻度が高い廊下の端にあるため、本当にたまにだったらしい。


ただその時は、どうせ兄貴がトチ狂って走ってるんだろう程度に思っていたと……。



「いや、なんだよ、トチ狂うって……。なんで廊下走るんだよ……。走りたかったら普通に外で走るから。」



「いや、だってさ……。筋トレの一環かなんかだと思ってたんだよ……。……それに…………。」



弟の顔色はこの時悪く、なんだか恐ろしいモノでも見た様に、顔が引きつっていた。


足音くらいで……とちょっと呆れながら見つめたが、その後に聞いた話は、自分の顔色も悪くする。



「怖くて今まで言ってなかったんだけど…………俺も見たんだよ。ソレ。足首。」



それには流石にゾゾ〜とした。


まさか全く同じモノを弟が見ていたとは思わなかったから。



「えっ?お前もドアの前で見た?」



そう尋ねると、弟は静かに首を振って話し始めた。



どうやら弟の時は、夜勉強していた時。


それで疲れたから、少し仮眠を取ろうとしてベッドで横になったのだそうだ。


本格的に眠らない様に電気はつけっぱで、更にイヤホンつけて音楽流していたが、急に身体が動かなくなったのに気付いたらしい。



────金縛りだ!



瞬時にそう理解した弟は、独自に生み出した除霊方法?でフッ!フッ!と短い呼吸で、金縛りを解こうとしたが……突然ベッドの上に何かの気配を感じた。


唯一自由な目でその気配の方を見ると……なんと足首から下の子供?の足だったそうで、なんとそれが自分の寝ているベッドの周りを周り始めたそうだ。



ギシッ……っ!


ギシッ……ギシッ…………。



ギシッ……!!



横たわる自分の回りを回られるのは相当恐怖だった様で、弟は必死に呼吸を続け、やっと身体が動く様になった瞬間……足首は消えてしまったとの事。


流石にその話は怖くて、それ以上話はせずに終わったのだが……何も分からないまま時は流れていった。


それから少し経った頃、また突然フッ!と夜に目が覚める。


やはり尿意がなく、それに疑問を感じ────られないほど、自分はとんでもない恐怖に包まれた。



誰かベッドの横に立ってる!!!



この間の足首とは違い、全く穏やかな心でいられないくらい、一瞬で心臓はドクンドクンと飛び跳ね、汗は吹き出る。



な、なんだこれ、なんだこれ!!



身体は動かないし、本当に恐怖でガチガチになってしまって、金縛りなのか恐怖で固まっているのか分からないくらい。


とにかく怖い!!逃げなきゃ!!


それにか頭には浮かばなかった。



それでもなんとかその側に立つ人物に視線を向けたのだが、窓の位置的に完全な逆光になっていて、とにかくすべて真っ黒。


だから顔は分からなかったが、髪がパーマ掛かっていて、更に腰より下まであったので女性……しかも背の高さからも大人だったと思う。


シルエット的には、真っ黒なクリスマスツリーの様だったのを覚えている。


そして呼吸さえも忘れている自分の前で、そのパーマの女はお辞儀するように上体を倒していき……そのパーマの髪が自分の手に触れた瞬間、自分は気絶した。



もう本当に見事なくらいスコンっ!!と気絶!



覚えている感覚としては身体が足の指先から冷たくなっていって、それがドンドン顔の方へ上がっていき首から上にヒュッ!と上がった瞬間に、意識が飛んだ感じだったと思う。


とにかく気付いたら朝。


目が冷めてもその恐怖体験にガタガタ震えて、すぐには起きあがれなくて……とにあえず寝転んだまま色々と考えてみたのだが、そこで気付いたのは、多分足首お化けと昨晩見たおばけは違うモノだという事だった。



まず目にした時の空気が全然違った事。


足首お化けは、弟と間違える程だから空気がほんわかしていたのだが、昨日見たヤツは別物。


あきらかな悪意みたいなモノを感じた。



「クレーマちっくなお化け……!絶対悪霊の類だ、あれ……。」



ボソッと呟き、どうしたもんかと焦ったが……この時を境に多種多少な心霊現象というか、何だか良くないモノが増えていく様な感じがして、家にいても落ち着かなくなっていく。


相変わらず足首お化けだけは控えめな感じで、本当になんなんだろう??と困っていた、ある時────事件が起きた。



まだ夜になってないくらいの夕方くらいの時間、部屋で勉強している時、突然部屋の前の廊下から……。




────ダンッ!!!!




足をかなり強く踏み鳴らす音がしたのだ。



「────えっ!!!!??」



あまりに大きい音だったので、ものすごく驚いて固まっていると、まるで怒っているかの様にダンッ!!!!ダンッ!!ダンッ!!と大きな音を立てて、足音が廊下を通り過ぎていった。



「…………。」



これには恐怖を感じて、そのままグルグルと色々考えてみる。


あの足音は、多分いつもの足首お化けだ。


でも……あんなに怒っている様な足音は初めて聞いた。



「……なんでだろう?……う、う〜ん…………???」



まだ夜でなかったため、恐る恐る部屋の外に出て、廊下を隅から隅まで見て回ってみた。


その廊下は大体3〜4mくらいの長さで、自分の部屋のドアを開けると、右の突き当りは壁で、左にはドアがある。


そのドアを開けると、そこはクローゼットルームで、ちょうどL字型になっている空間なのだが、その部屋の中は暗くて、とりあえず電気をつけた。


中には家族全員の服が置いてあり、特に変わったモノはなにもなし。


L字型になっているちょうど曲がり角、つまり廊下から進むと突き当りの壁には自分の身長よりも高いラックが置いてあり、そこにはギッシリと服が置かれているだけであった。


とりあえず服をチェックした後、またそこで考え込む。



足音はいつも大体がこの廊下を歩いたり、時に小走りしたりしていた。

その事自体を気にした事はなかったが、一つ妙な事に気づいてしまう。



「……あれ?足首がいつも走る方向って……同じじゃないか……??」



廊下を歩く方向。


それは自室の部屋から見て右の壁からこのクローゼットに向かって歩いている。


その事に初めて気づき、ますます謎が増えてしまった。



「??なんで方向が決まっているんだろう??グルグル同じ方向を回っている……とか?」



色々と考えながら、自分はクローゼットルームの廊下から進んだ突き当たりにあるラックを見つめる。


そして、子どもの頃に聞いたある話を思い出し、もしかして……!と思ってラックにギチギチに置かれている服を手当たり次第出し始めた。


すると……部屋の中はどんどん明るくなっていき────やがて姿を現したのだ。




小さな窓が。




「ま、窓……?こんな所にあったんだ、窓……。」



全然覚えてなかったが、クローゼットルームの突き当たりには小さい窓があって、それを置きっぱなしの服達が完全に塞いでいたらしい。


自分は随分と明るくなったクローゼットルームを見回し、もしかしたら、これが原因かもしれないと思い始めた。



自分が思い出した話。


それは、『幽霊の通り道』という話だった。



なんでも幽霊は、一定の方向に向かって歩いていくらしく、その延長線上にある家では時々奇妙な事が起きる。


それを昔、どこかで聞いた事があったからだ。



だから、もしかしてこの家はまさにその『幽霊の通り道』上にあって、その進行方向を塞がれているから、出られなくなっているのではないか?


そう思ったのだ。


ただ、幽霊という目に見えないモノをそこまで信じてないというか、重視はしていなかったので、正直気休め程度ではあった。


しかし────この日を境に、悪意ある霊現象らしきモノ達はピタリとなくなったのだ。



相変わらず足首お化けらしき足音は聞こえるが、本当にただ歩くだけという控えめなモノで、とりあえず良かったな〜なんて思っていた、ある日。


結構考え方がドライな母親に、気まぐれにこの話をしてみたら、母は「あ〜……。」と何かを納得する様に頷く。



「そういえば、ここらへんでそういう話が昔から噂になっているみたいよ。

幽霊の通り道だってやつ。

ほら、アンタの言う窓がある延長上に、お店あるじゃない?」



「あ〜うん、あの飲食店?」



確かにあの開放した窓の先の方に飲食店があるのだが、それがどうしたのか?


なんの話か分からず静かに耳を傾けると、母は話を続けた。



「それで、お店の間取り的に、トイレがその延長上にあって、まぁいわゆる窓なしのトイレなんだけどね。

そのトイレに知らない誰かが入っていくんだって。

そのトイレへは一方通行だから避ける道もないし、窓なしの個室だから、どこかから脱出できないはずなのに、中々出てこないのを心配してトイレに行くと誰もいないらしいよ。

しかも、それが色んな年齢や外見をしている人たちで一貫していないから、それが幽霊で、その通り道なんじゃないかって言われているみたい。」



「こ、こっわ!!俺、そんな話初めて聞いたけど!!」



ゾゾッ〜!と背筋を凍らせていると、母は意外そうな顔を見せる。



「結構昔から有名な話だったのに〜。まぁ、そこまで鵜呑みにしないけどさ。

そこが飲食店になる前からの話らしくて、今までそこにできたお店は、結局一年立たずに潰れちゃってたんだよ。

それなのに、その飲食店だけは随分と長く続いているから誰かが不思議に思って、その店のオーナーに聞いてみたらしいよ。

そしたら、そのオーナーが言うには『トイレを絶対に綺麗にしておく事が大事なんだ』って言ってたんだって。

そこが汚れると、あまりよくない事が起きるとかなんとか……。」



「へ、へぇ〜……。」



お化けの世界の常識は知らないが、とりあえず、窓は塞がない事と、その幽霊の通り道の出口は綺麗にしておく事が必要らしい。


頷いている自分を見ながら、母は更に脅かす様に言う。



「本当かどうかは知らないけど、なんか霊感がある人いわく、幽霊の通り道を塞ぐと、そこを通るお化けが外に出れなくなるらしいよ。

それで、その家に良くない事が起きる……。

だから、その足首?のお化けは、もしかしたらどうにかしろって伝えたかったのかもね。

でも霊感なんてない私達が気づかなかったから、いい加減にしろ!って感じだったんじゃない? 」



母はカラカラと笑っていたが、俺は心の底からゾゾッ!としてしまった。



だってさ、出れなくなったお化け達が、もしかしてひしめき合う様に家にいて、原因の俺達を憎々しげに睨んでいたのかな〜?と想像したら……ねぇ?



「……霊感なくて良かった。」



俺は心底そう思ったのだった。


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