のぶはる
武田家・四名臣が1人。
馬場信春。
木曽義昌と違い、武田家に生涯を尽くした名将。
不死身とも呼ばれるほど、武名が轟いている武将である。
◇ ◇
「ま、正幸殿~……」
砥石城の戦い。
義昌はついに、……いや、遅すぎるだろってくらいのところで、真田正幸に詰め寄った。
「いつになったら、真田家は戦ってくれるんですか?小諸の兵ばかり、上杉軍と戦わせるとはどーいうことです?」
「いや、抜群の功である。お主以外にかの上杉軍を止めることはできませぬ」
「もう褒めるのは良いって」
義昌の兵、2千五百はもう、五百を切ってしまった。それでもまだ、砥石城が安全に護られているのが、小諸城の兵達の頑張り、義昌の戦術、砥石城の防衛機能故であろう。
「もう上杉軍の別動隊が小諸城を囲うとのこと!早く砥石城を囲う上杉軍を撤退させねば!!」
確かに砥石城は固い。……だが、上杉軍も黙ってはいない。小諸城の兵達が不満を言うのは、向こうも分かっていた。
そこで正幸は……。
「義昌殿。貴殿達が小諸城に戻っても、この砥石城は大丈夫である。本当に大した功績だ」
「ああぁ?」
正幸の言い方に、義昌もキレ顔になる。
自分達は兵を使わずにいる。その理由を、”平凡な将”である義昌が、その真意に気付くわけもない。
「分かった!元々、あんたの事は好きじゃなかった!!砥石城の防衛についても、十分な功は出した!そなたからも勝頼様に伝えるのだぞ!」
「ああ、”勝頼様に伝えよう”」
義昌は砥石城から兵達と共に撤退する。
これで真田家と上杉軍の、砥石城の戦いとなる。……木曽義昌は気付かない。
「ふふふふ」
「父上。……小諸城の城主、木曽義昌殿の首を手土産に、上杉家に寝返るつもりだったのですか?」
「信幸。そーいう気持ちは、半分と半分だ。義昌はよくやってくれたよ」
武田家の内紛を知る外様衆からすれば、武田家の未来が明るくないのは明白だった。
勝頼も譜代衆も、自分が武田家のために思っての行動なのも、また心苦しいものだ。その点、外様は気が楽だ。
「さて、これより真田の武を見せてやろう。上杉軍は疲弊している」
「ですが、さすがに謙信の精鋭軍です。この状況でも守りきれるでしょうか?」
「私が兵を率いて戦うのだ。守り切れる」
義昌達に戦わせていたのは、上杉軍の作戦や動向、兵の練度を調べるためだ。謙信の軍に隙は無いが、その婿養子、上杉景勝の軍には綻びが見えた。
大軍で囲う、士気の緩み。
「しからば、きっかけを待つぞ」
◇ ◇
義昌は砥石城からすぐさま、小諸城に向かった。それはもちろん、自分が武田家から受け取った知行であり、自分の城であるからだ。それが兵だけ削られて帰ってきましたでは
「恥辱ものだ」
”兵の少ない小諸城に戻って何ができる?”
真田正幸が心の中で、自分に言ってそうな事だ。
兵は千も満たず、砥石城のような優れた防衛施設はなく、8倍の兵力が城を囲おうというのだ。
陥落は間違いないものだ。
「…………」
だからこそ、希望は……。砥石城を囲う、主力の上杉軍の撤退である。
小諸城近くまでやってきた木曽義昌達が見た者は、8千軍勢。それらが今、
「!?て、撤退する気か!?」
小諸城の包囲を解いて、退却の準備を始める光景であった。
◇ ◇
少し時間を戻しつつ、場所を代える。
高遠にて。
信玄譜代衆 対 徳川軍。
「我等、信玄譜代衆!我が武を見せよ!!」
譜代衆の筆頭。
馬場信春。
その武は信玄にも評され、”鬼美濃”とも恐れられる。
無謀な侵攻をする徳川軍を、この信春はその武とその軍略を持って蹴散らした。
「ははははっ!三河の弱兵共が!!そんなに織田の圧力が怖いか!!」
この戦いは信春達の活躍もあって、徳川軍の撃退に成功。なおかつ、勝頼の側近衆や外様衆の力を借りずの撃退だ。
「上杉が真田家の居城、砥石城を今も囲っているそうだ」
「ふむ。……正幸と幸隆殿が守っている城だ。よく持ち堪えている。勝頼殿は?」
「未だに動かぬ!!何をしているのだ!!」
「そう言うな。勝頼様は、北条軍を止める役を全うした。我々、譜代衆を信じておった」
信玄がいなくなっても、この譜代衆の武の強さは周辺の大名達を恐れさせていた。義昌が活躍したところで、その中に入れるわけもない。そして、軍略においても、後手に回らない。
「私は砥石城の救援に向かう!昌景!」
「分かってる。ここで俺が徳川に睨みを利かせればいいんだろ。行ってこい、信春」
馬場信春、兵2千を率いて、砥石城の救援に向かう。
「…………」
勝頼様。我々とて、武田家のために戦っております。
しかし、この状況で各方面と連携なしに戦うなど……得策とは言えません。まずは家臣の心を掴むこと。戦に勝つだけではいけません。
戦場での槍働き、私達にお任せください。
「強者共よ!真田の城を助けるために、行くぞ!唱え!其疾如風!!」
砥石城を囲う上杉軍に、信春の兵、2千は突撃を仕掛け。
「信春殿か。まだ、武田も死んだものではないな」
「鉄砲隊!構え!!」
さらに砥石城から、真田の兵、3千が出撃。これが奇襲の形となり、上杉軍。特に上杉景勝の軍には甚大な被害が出た。
兵の数で大きく劣った、武田側が……。真田正幸の軍略と、馬場信春の武勇、……そして、木曽義昌の活躍によって、
「撤退するぞ、景勝。これ以上の被害を受けては、後々に響く」
「謙信様……承知しました。この敗戦は、私に責任があります」
「景勝様。そう気に病まずに!」
上杉軍は砥石城からの撤退である。これは上杉軍が武田家の侵攻の失敗を意味していたが……
「とはいえ、大事な拠点は奪えたのは事実。対織田戦に使える城が手に入った」
上杉軍が攻め込んだのは、砥石城、小諸城だけにあらず。
「報告ーー!!木曽義康様の居城。木曽福島城が、上杉家に降伏しました!!」
木曽義昌の父、義康が守る、木曽福島城が上杉家に落ちたのであった。




